5.他人(ヒト)の告白 一

「ごめんなさい、祐司さん。ちょっと用があって……先に帰っててくれますか?」


 放課後。申し訳なさそうに千佳が手を合わせて断ってきた。


「あぁ、こっちのことは気にすんな」


 一緒に帰ることが当たり前だと、先に言っておかないと相手を待たせてしまうことになる。ゴミ当番や委員活動しかり、なにかあるときはこうして言付けをするのが習慣になっていた。


「お、それなら一緒に帰ろうぜ!」


 近くで聞こえていたのか、鞄を掴んでいる須藤が近寄ってきた。千佳は俺たちにバイバイと手を振ると教室を出ていく。


「な、祐司? 俺、すっげーバッティングセンターでかっ飛ばしたい気分なんだけど行かね?」


 気をまぎらわせたいんだろうな。須藤にはとっとと立ち直ってほしいし、それに俺も今日はスカッとしたい。


「分かった、それじゃ俺らも行くか」


 鞄を掴み席を立つ。


「ちょっと待ちなさいよ、篠森しのもり祐司ゆうじ!」


 声を掛けられた方向を向くと、須藤をフッたことで絶賛話題の女の子がそこにいた。


「あれ、小湊さん……?」


 あちらから声を掛けてくるとは珍しい。というかいつもは千佳がいるから、こうして話すタイミングがなかっただけか。


「へぇー、そうくるんだ?」


「? そうくるってなんだよ?」


 そんなこちらを試すような目で見られてもな。

 それにしても。須藤と小湊さんがよく言い合いしてる姿は目にしてたけど……。まさか須藤がそういうふうに思っていたとは気づかなかった。


「ほー、ふぅーん、そう。そっかそっか」


 腕を組み深く頷いている。なにがそうなのかさっぱりだ。


「えっと。俺たちもう帰るとこなんだけどいいかな……」


「だから待ちなさいってば」


「この後バッティングセンター行くんだよ。急ぎじゃないなら明日聞くから。な、須藤?」


「あ、あぁ、そうだな祐司」


「アンタのことは呼んでない」


「は、はぃっ」


 見てていたたまれなくなってくる。完全に腰が引けていた。

 小湊さんと須藤、か。言われてみればなかなか相性がよさそうな気はするんだけどな。須藤のどこが悪かったんだろうか。


「ちょぉっと篠森クンに用があるんだ、来てくれるよね?」


 ガチな目だ。いつもは呼び捨てなのにクン付けとか焦る。


「でも須藤……」


 目が細められた。


「お、俺のことはいいって、また今度行こうぜ、じゃあな!」


 脱兎のごとく須藤も教室を出て行く。小湊さんと二人、須藤の背中を見送った。


「……」


 見つめあう。にんまりと笑みを浮かべる小湊さん。


「それじゃ行こっかっ」


 一人残された俺は、有無を言わせない圧力に屈するしかなかった。

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