3.新月の花 二

 誰がだれ、に? いやちょっと待て、俺はお前にそんな人がいたことすら知らなかったんだけど。


小湊こみなとさん……」


「お、おぉ」


 小湊こみなとりつ。同じクラスの小柄な女子だ。


「ついさっき、屋上前の階段で告ったんだ……、でもそんな気はない、って……」


 彼女も教室に戻ってきているのかと見渡せば、小湊さんは千佳の輪に加わっていた。その表情はいつもと変わらない笑顔。ついさっき須藤を振ったばかりとは思えなかった。


「……お前はさ、いいよなあ」


「な、なにがだ」


「こっちはよぉ。一緒に帰ったり、休みの日とかデートしたくてなけなしの勇気振り絞ってんのによお……。お前らはそれで付き合ってないんだろ?」


 急に卑屈ひくつだな須藤。


「まぁ幼馴染だから、な? 須藤の気持ちそれとはまた違うから」


「にしたっておかしいだろう?! もうガキじゃねぇんだよ、高校生だよ俺ら? 幼馴染だから、って許されるのは小学生まででーす!」


「お、落ち着けよ」


 ヤバいな、親が見ていた古いドラマでしか見ない、屋台で飲んだくれてるオヤジみたいだ。こいつかなりへこんでやがる。


「俺はお前が当たり前に享受しているその幸せが掴みたくてたまんねぇのによぉ! むしろなんでそれで付き合ってねぇんだよお前ぇえええ!」


「って言われてもな、腐れ縁だし」


「あぁもうその煮え切らないとこムズムズするわ!」


 チラと千佳のグループを見るが、見事なまでに小湊さんはいつも通りだ。須藤……、お前の告白、蚊に刺された程度にしか思われてないみたいだぞ。


「まぁなんだ、がんばれ」


 こういうだけで精いっぱいだ。


「がんばれってなにを?! もう終わったよっ! むしろお前が頑張れよ! 据え膳食わぬは男の恥って言うだろう?!」


「は?」


 こいつなに言ってんだ。


「分かってない、お前は全然分かってないよ! いいかよく聞け、立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花。深窓の令嬢とは相楽さんのことだ!」


 また熱くなってやがる。


「それをお前、幼なじみだからってなあ! これで付き合ってないとか時空がゆがんでんだよ、じれなおせよ付き合えよ! 見せつけられるこっちの身にもなりやがれっ!」


 ガクッと机に泣き崩れ、うぅ、と嗚咽が漏れている。


「……あ」


 千佳が席を立ち、こちらに近づいてきた。

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