700文字で迷える子羊を救え

アルトシエル〈Artciel〉

700文字で迷える子羊を救え

コージは焦燥した。

積み上がる仕事に明け暮れていたら、彼女が変な男と関わりを持っていたのだ。コレがピンク色を帯びる前にナントカしなければとは思っていたが結果は最悪だ。彼女とは仕事ですれ違い、男を問い質そうとして何故か爆死しかけた。

だがようやっと、話し合えそうだ。

「マナ、アイツはお前の何なんだ。」

コージの第一声に項垂れたのは彼のダチ、ヒデヨリだ。

折角マナの実家まで尾行したのだ、どうせ見つかるならハッピーエンドが見たい。

「そこは“放っておいて御免なさい此からも付き合って頂けますか?”だス…」

「コージしっかりしろ!間男に正論言われぶへっ!いでででで!!」

「“ネズミ”如きが、貴人を貶すなど無礼極まり無いだス。

 ワシが仕えるのはサロデ王!唯一人であって、お嬢さんではないだス…」

これには件の男も呆れた。見るからに冴えない下衆は踵落としで沈めたが、問題は口達者な方だ。無口なあの子に、自分と関わる羽目になった原因を説明するのは難しいだろう…

そう思った矢先。

「ただの、ユーリイの知人です。」

「料理長の?でも、実家で一緒に暮らす程の仲かよ」

「此処には誰も居ませんよ…」

「!」

「彼はこの家が気に入って、ハウスキーピングしてくれているだけなんです。

 私も彼も、恋仲だなんてまっぴら御免です。」

マナはかつて蜘蛛の巣さえ張っていたこの家の事を思い出しながら、言い切った。

テロで亡くした両親も、音信不通の親族も、誰1人帰ってこなかった木造の一軒家。

古い家の明かりを灯したのは煙の貴人だ。

「家に帰ってきたら誰かが居るって、憧れでした。だからコージ。

 大型転送装置が出来たらで良いので、いつかこの家に帰ってきて下さい。」

「…お、おう…」

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700文字で迷える子羊を救え アルトシエル〈Artciel〉 @Artciel

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