第11話 同級生?
小暮駅まで戻り、富丸商店横のファーストフード店に入る。もちろん、陽毬も一緒だ。
落ち着いて話ができるところと言えば、ここだよねってことでドリンク片手に二階にある窓際の席に座る。
ホットティーをひたすらにふーふーしている陽毬にクスリとしつつ、コーヒーを口に運ぶ。
ちょっと熱いが、これくらいがちょうどいい。
「方法を探る前に、一つ相談があるんだ」
「何、何。言ってみて」
ふーふーし過ぎて頬を赤く染めている陽毬が、顔をあげ目を輝かせる。
「長十郎さんに、牡丹さんと会ったことをしばらく黙っていた方がいいんじゃないかなって」
「なるほど! 驚かせちゃおうってことね!」
パンと手を叩き、グッと親指を前にやる陽毬。
「そそ。牡丹さんにも長十郎さんが幽霊になっていることを秘密にして」
彼女が乗り気なことで俺の頬も綻ぶ。
「いいわね。それ。二人を連れ出して合わせて、感動の再会! よね」
「うんうん」
「お互いが幽霊になっていることを隠しつつ、二人のことは聞かないとね」
「その辺はうまくこう、あれだ」
「あはは。もし知られちゃったらその時でいいじゃない」
「だな!」
ホットティーあらため、ぬるーくなった紅茶をごくりと飲み、陽毬は「んー」と息を吐く。
最初から常温とか、そういうのにした方がいいんじゃないか。ファーストフード店で常温の飲み物ってあったっけ?
なんて考えつつ、スマートフォンで「幽霊、移動」とかで検索してみる。
う、ううう。
怖-い画像が盛りだくさん出て来た。
ブルリと全身に寒気が……ホットコーヒーで体を温めよう。
「何を見ているの?」
「これ……」
「心霊現象なんて見ても、参考にならなさそうよ」
「そういうつもりで検索したわけじゃないんだけどなあ」
「殊更怖がらせるような画像や物語は、『見えない』人が作っているんでしょうね」
両手をひらひらと振るう陽毬に「なるほど」と膝を打つ。
霊だとかポルターガイストなんて言われるものと、俺の実体験には結構な乖離がある。
霊は移動できないし、物理的事象を及ぼすこともできない。
霊が現実の何かを触ろうとしてもすり抜けるし、写真に映ることだってないんだよ。
もし、写真に映るのだったら俺が既にスマートフォンで撮影しているさ。「聞こえる」ところにスマートフォンを向けたことは一度や二度じゃあないからな。
陽毬のこれまでの言葉から察するに、霊の声は録音することもできないはず。
彼女は「見える」のだから、何とかして声を聞きたいと試したはずだ。だけど、俺と手を繋いで初めて彼女は声を聞いた。
「うーん。とすると、どんな資料が役に立つのかなあ」
「そうね。昔話みたいな古くから伝わる伝承とか、習慣とか調べてみるとヒントになるかも」
「えっと、例えばお盆に先祖の霊が帰ってくるとかそんなんかな」
「そそ。その中には過去にいた『見える』『聞こえる』人から伝わったものもあると思うの」
「現代じゃあ、情報が多すぎて切り分けるのが難しそうだものな」
「そうね。過去の風習やお話を調べて、何も検討がつかなかったら手をつけてみましょう」
「その線で行くかあ」
お彼岸が本当に霊がやって来るのだとしたら、移動できているわけだし。
何か儀式を行うと、移動できたり……なんてこともあるかもしれない。
少なくとも誰かが面白がらせようとか、怖がらせようと思って伝わっている話ではないだろうから、何か掴めるかもしれないな。
「そうと決まれば、図書館に行くか」
「もう今日は閉館しているわよ」
「そっか……」
窓の外には夕焼け空が広がっている。結構閉館が早いんだな。
「長十郎さんにも会いたいし、時間が全然足りないなあ」
「そうね。あと四日で学校も始まることだし」
何気なしに言った陽毬の言葉にハッとする。
そ、そうだったあああ。
「学校……」
「陽翔はどこの学校なの?」
そういや、陽毬はどこの高校なんだろう。いや中学生かもしれない。
「ええっと、何だっけ、確か日暮高等学校だっけか」
「え? 同じじゃない! この春からなの?」
どうやら高校生だったらしい。
「そそ。引っ越ししてきたってのは覚えていてくれたんだな」
「当然よ。街を案内するって言ったじゃない。陽翔は何年なの?」
「今度三年になっちゃうよ……受験とか面倒だ」
「あら、年下だと思ってたけど、同じなのね」
「え、えええ!」
意外や意外。
俺と同じ歳だったのか……。
茫然としていたら、キッと目を細めた陽毬から鋭い突っ込みが入る。
「何よ、その顔」
「あ、いや。ほら、ええっと、陽毬はほら、可愛らしいというか」
「もう、子供っぽいって言うんでしょ。確かに背は低いし、顔もこんなんだけど……」
「いや、かなり可愛い方だと思うよ」
しまった。つい口を滑らせてしまった。
「な、な、何を」
予想以上に動揺し指先を震わせる陽毬。
彼女は首まで真っ赤にして、顔を伏せてしまった。
「あ、い、いや」
「冗談にしても、面と向かって言うことじゃないわよお。私、自覚あるんだから……」
「可愛いってことに?」
だあああ。
黙っておくべきところで、突っ込みを入れてしまった!
いやだってさ。押すな押すなと言われたら、押すだろ。汚い、そんな誘導尋問に引っかかる俺では……いや、引っかかてんだけどね。
それにしても、陽毬の動きがいろいろやばい。
ふわふわな髪に手を突っ込み、ブルブルと左右に首を振っている。頭から湯気が出そうな勢いだ。
普段の凛とした態度の彼女と裏腹な仕草に不覚にも心臓が高鳴ってしまう。
「冗談でも悶えている自分にますます悶えるわ……。分かっているの。私に女の子ぽい魅力なんてないって」
「そんなこと……あ、いや」
「あなただって、私が中学生くらいと思っていたでしょ?」
「そ、それは……」
否定できないから、言葉を濁してしまう。
「ほらね」とばかりに彼女はようやく顔をあげ、何故かほっとしたように眉尻を下げた。
「幼くて可愛らしいってことよね……私としたことがつい」
「それは違う!」
「もう……嘘でも嬉しいわよ」
これ以上言っても彼女は理解を示そうとしてくれないか。
俺は彼女が子供として可愛いと思ったわけじゃあないんだけどなあ。じゃないと、こう事あるごとにドキドキしたりなんてしないさ。
いかん。彼女と急接近した時のあのいい香りを思い出して……またドキリと。
「そ、そうだあ。ほら、図書館が閉館しているなら長十郎さんに会いに行こうぜ」
あからさまな話題転換に棒読みになってしまった。
だけど、陽毬は小さくため息をついて、笑顔を見せる。
「誤魔化したわね。まあいいわ。乗ってあげる」
「ははは」
「あはははは。陽翔はほんと分かりやすくて面白いわね。嫌いじゃないわよ。そんなあなた」
ニヤっと悪そうな笑みを浮かべたつもりだろうが、陽毬がやると逆に可愛らしくなるな……。
「……仕返しかよ……」
「さあ、どうかしら。本気で言っているのかもね」
「ち、ちくしょう」
いじるんじゃあなかった。逆に手ひどい反撃をもらってしまったよ。
「そうと決まれば行きましょう」
「おう!」
ファーストフード店を出て、一路、長十郎の元へ向かう俺たち。
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