第2話 家にて

 鍵の開く音がした。扉が開くとそこには濡れた姿の男女2人がいた。

 先に男が家の中へと入っていき、洗面所へと入っていった。


「はいこれバスタオル」


 洗面所から白いバスタオルを彼女に渡して、自分にももう1枚のバスタオルを頭からかけていた。


「ありがとう」


 彩歌は濡れた頭を拭き、身体を軽く水滴が落ちないようにした。


「こっちにシャワーあるから。あと着替えはこれでいいかな?」


 上下セットのジャージを渡した。三本の白いラインの入ったあのメーカーのものであった。


「ごめん、こんなのしかないけど大丈夫?」


「大丈夫…。ありがとう」


 ジャージ一式をもらいシャワーを誠人から借りさせれ貰うことになった。

 誠人はジャージを渡した後リビングの方へと向かった。

 洗面所で1人になった彩歌は濡れた白のワンピースを脱いだ。


「千明誠人くんか…


 上下の下着も脱いでいき生まれた時の姿へ変わった。

 そしてスライドドアを開け風呂場へと入っていったのだった。

 一方、リビングにいる誠人は濡れた服と下着をぬいで風邪ひかないように身体を拭いていた。


「よくよく考えれば今、女子と2人っきりか…まぁ…だからなんだってことなんだけど」


 全身拭き終わった後に、次直ぐに入れるようにバスタオルを腰に巻いて待っていた。

 さすがに川の水が汚かったこともあり、着替えようとは考えなかった。


「あ、スマホ大丈夫かな…一応耐水性だけど…」


 服からスマホを取り出して電源が着くかどうか確認した。

 恐る恐る押してみると、電源は着いてた。


「ふぅー。良かったーもし壊れてたら姉さんから怒られてたな」


 ソファに座り安堵した表情でスマホを誠人は見ていた。

 チャットを開くと1番上に元カノの名前があった。

 昨日別れたため、まだ傷は深かった。元カノの個人欄では最後に「さようなら」という文字が書かれていた。

 誠人はそっと元カノの個人欄をスライドし削除した。


「終わったことだしな…」


 憂いのある顔だったが、無理やり笑顔を作っていた。

 気を紛らわせるために、ニュース欄を見ていたすると目に留まるニュースを見つけた。


「黒羽市に異変?行方不明者多発…」


 ニュースの記事はこうである。最近黒羽市で不可解なことが起きている。それは、行方不明者の多発による捜索届の増加というものだ。それもここ一週間で40人ほど捜索届が警察の方に出されているらしい。

 しかし、どの人物にも手がかりが全くないという前代未聞の事件が起きていた。


「物騒だな…。折角住みやすい市全国1位になったのにな」


 誠人の言う通り、ある有名なランキング雑誌で黒羽市は住みやすい市全国1位になった。

 以前は「終末の街」と言われるほどの酷い所であったが、変わったのである。

 それが窓からでも見えるこの街のシンボル "バルドルタワー"と言われるバルドル・インダストリアル社の本社ビルが全てを語っている。

 バルドルが1から再開発したことにより良い方向へと変わっていった。


「あの…」


 リビングのドアの方向から声がした。


「あぁ、あがったんだね…」


 彼女は黒のジャージ姿に変化していた。しかし、下着を着てないせいか、胸のライン当たりが厭らしく目立つ。


「行方不明者の事件…」


 先程誠人が見ていたニュースのことを指していた。


「恐らく能力者ホルダーの仕業よ」


 彩歌から不可解な言葉が発せられた。能力者ホルダー…意味としては保持または保有する者という言葉の意味であるが、それは何を保有しているのか、疑問であった。


「死能力を保有する者それが能力者ホルダーよ」


 彼女の言っていることが、誠人にはさっぱり分からなかった。

 頭の中では未知の単語ばかりが入ってきて理解が追いつかないのだ。


「そうね…じゃあ1つマジックを見せるわ」


 そう言うと彩歌はソファに座っていた誠人の方へと近づいていきその眼を見つめた。


「なっ…」


 顔が近づき恥ずかしくなったのか誠人は目を逸らした。

 しかし顔を両手で挟まれ目を見るように強制的に向かされた。


「私の目をしっかり見て…」


 チッチッチッ…とリビングにある時計の針が動く音がが静寂の中で響いていた。

 少し経った後に、彩歌はほくそ笑んだ。


「あなた彼女と別れたんだ…」


 その言葉に誠人は思わずドキッとした。


「な、なんで!?君に言ってないはずだよね!!?」


 確かに呟いたこともあったがその場彩歌はいなかったはずである。

 ならばどうして分かったのか不思議で仕方がない。


「私は考えや情報あらゆる罠など全てを視覚情報と認識することができる能力を持つの」


 そして続けて彼女は喋った。


「あなたの元彼女の名前は小湊麗こみなとうらら。同じ大学の同級生でミスコンにも出るほどの美人でGカップの持ち主。セックスの回数は週…」


「ちょ、ちょ!!人の頭の中読まないでよ!!??」


 誠人は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。

 そんな彼の顔を見て彩歌は楽しそう笑みをに浮かべていた。

 しかし、突然彼女の表情は変わり険しいものとなった。


「あなた…ご両親が…」

 その言葉を聞いた時、誠人自身もなんとも言えない表情に変わってしまった。

 恐らく、彩歌はわざと見ようとした訳では無い。

 見えてしまったのだろう。


「そうだよ…父さんと母さんはもうこの世にはいない。今は姉さんと俺だけだ」


 誠人現在、姉と暮らしている。


「ごめんなさい…見ようと思ってなかったの」


「いいよ…せめて何かなる訳じゃないし」


 少し無理をして笑顔を作っていた。

 多分誠人にとっては辛いはずである。


「そういえば、どうして君を助けた時自殺はダメだなんて言ったと思う?」


 先程河で入水自殺をしていた時に誠人に助けられた。その時に言われた言葉であった。


「父さんと母さんは俺を庇って死んだんだ。本当は俺を見捨てれば2人とも助かっていたのに…」


 誠人はさらに続けた。


「だから、折角生きているのに生命を自ら絶つてのが嫌だったんだ。生きたかったけど亡くなった人のことを考えると」


 その時に彼の言葉の真意を彩歌は理解した。それだけではなく、彼が嘘をついていないということも、能力で分かる。


「勝手な価値観を押し付けて悪いと思う…。でも自殺しなければ、生きていればいいことは必ずあるはずだから」


 能力で分かってしまう。彼の背景バックグラウンドというものが、だから彼の言っていることは口先だけの虚言では無い。

 その事に彩歌は何故か少し救われたような気分になった。


「偽善だなんて言ってごめんなさい」


「いや、俺も君のことよく知らないから俺は気にしてないよ」


 2人はお互いに見つめ合い笑顔になっていた。

 しかし、傍から見ればジャージの女子とバスタオルを巻いた全裸男子がいるという構図である。

 しかし2人はあまり気にしていなかった。


「でもどうやって能力者ホルダーになったの?」


「私はね、1度死んでるの…」


 彼女の言葉にあまりの驚きに声が出なかった。








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