The Die ability〜闇夜に光る街〜

石田未来

暗影の魔術師 篇

第1話 ある出会い

ここは人口約150万人の東京の郊外に位置する黒羽市。かつては公共交通機関の通っていない陸の孤島として高齢化や過疎化などにより人口衰退により「終末の街」と言われていた場所であったが、数年前にバルドル・インダストリアル社が本社を置いたことによって街の再開発が進められていった。

 インフラストラクチャーなどはこれまで自治体が機能していなかったため、酷い有様であったが、それすらもバルドルが全てを変えていった。

 当然、本社だけではなく関連会社も建てたことにより、雇用の創出も行い、若者を街に増やしていったのである。もう「終末の街」というのは昔の話である。

 今となってはビルはいくつも立ち並びモノレールや鉄道といった交通機関が出来ている。

 そんな街である1人の青年 千明誠人ちぎらまことが久度川にかかる橋の高欄に腕と顔をおき、憂いた顔で川の流れを見ていた。


「はぁぁ…。もう何もかもいやだ…」


 青年の言葉には覇気のようものはなかった。ただ何か落ち込むほどの出来事があることは一目で分かる。


「澄香ちゃんにふられたら俺はもう…」


 好きだった女性に振られたようである。余程好きだったのか落ち込み具合は凄まじく、自殺でもするのでは無いのかと感じるほどであった。


「もういいや、帰ろ…」


 そう言うと高欄から腕と顔をのけて帰ろうとした時に、ふと何か大きな物体が流れていたのが見えた。

 それは大きな布袋かと思われたが、よく見てみるとそれは人の服、そして頭に髪が見えていた。つまり、あれは人間が流されているのである。

 それも背中が浮いて流れていることから意識がない状態の可能性がある。

 咄嗟に彼は助けなければ、そう判断した。橋から飛び降りて夢中で泳いだ。生憎ここの川はそこまで流れが早くなかったので、直ぐに追いつくことが出来た。

 服を掴み取ると女性であった。それも自分と同じくらいの年ぐらいの娘であった。

 とにかく、その娘を抱き寄せて岸まで泳いだ。


「はぁ、はぁ、はぁ…。だ、大丈夫?」


 助けた女性は誠人と同じくらいの年代の娘でショートカットの髪型をしている美人な娘だった。

 すると女性は咳をして水を吐いたのだった。


「けほ!けほっ!!…はぁ…はぁ…ははは…また死ねなかった…」


 助けたはずの彼女から出た言葉に衝撃を受けた。生気のない瞳をしており、この世に絶望しているようにもとれた。


「死ねなかったって…」


「私に生きてる価値なんてないの…ただ楽になりたかった…」


 彼女の顔には生気がなくこの世に絶望しているかのような表情であった。

 しかし、助けてしまったのはどうしようもない。そもそも、誠人は生命を自ら絶つような人間が嫌いである。


「どんな辛い人生を送ってたか分からないけど、自殺はダメだ!」


「そう言う偽善振りまかない方がいいよ。その偽善が人を苦しめるだけだから…」


 棘のある言い方をされたが、特に気にする事はなかった。生命を無駄にすることだけは許せなかったからである。

 とはいえ、彼女はずぶ濡れであった。着ている服は白いワンピースのようなもので、濡れた結果身体に張り付き、彼女のボディラインを強調していた。

 それだけではなく下着までもくっきりと見えてしまっていた。


「と、とりあえず服これ着なよ」


 彼女に自分が羽織っていた黒のジャケットを渡した。


「……。えっち…」


 自分の姿が分かったのか、ジャケットを受け取り羽織った。

 しかし、身体は双方濡れているため風邪をひく可能性がある。


「君、家は?」


 彼女は黙って何も言わなかった。


「送っていくよ。心配だし…」


「家なんて…ない。私は1人なの」


 先程とはまた違った触れては行けないことに触れてしまった時のような悲しげな顔をしていた。

 彼女にはなにか複雑な家庭事情があるのだと感じた。


「ごめん。無神経だったね…」


 彼女は誠人の目をじっと見つめた。いきなり見つめられてドキッとしていたが、彼女は少し柔らかな表情に変わった。


「あなたはちがう…」


「え?」


 言葉は聞き取れたものの、意味がいまいち分からなかったのだ。


「言葉に嘘がなかった…」


 そう言われてもやはり意味が分からなかった。ただ、誠人としては彼女のことを知らないのに無神経な発言をしたことに反省をしていたのだった。


「シャワーが浴びたい…」


「そ、そうか…。じゃあ家が近くにあるからうちにくる?」


 彼女は特に言葉を発することなくこくりと頷くだけであった。

 なんだかナンパしてるみたいで恥ずかしかったが、とりあえずそのままにはできないと思い自分の家に行くことにしたのだった。

 河川敷から堤防に上がる階段でふと何か思い出したように振り向いた。


「君の名前は?俺は千明誠人って言うんだ」


「私の名前は秋山彩歌あきやまさいか


 少しだけ笑みが彼女の顔から零れていた。







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