暗闇の中のサンタ

やまもン

第1話

良平は16歳、高校1年だ。それは大人と子供の境目で、どっちでもありどちらでもない、そんな特別な年齢。

そして、今日は12月24日、クリスマスイブ、サンタがやってくる聖なる夜だった。


*****

夜11時。

「おやすみー」


良平はいつもより一、二時間も早くベッドに入った。サンタは12時にやってくるという話とサンタがやってきた時に起きているとプレゼントを貰えないという話を信じていたからだった。


「早く寝ないと。」


明日の終業式のバックを揃えている時、良平はサンタは電気のついている明るい部屋にはやって来ないという話を思い出した。良平は逡巡した。暗闇が苦手で、電気がついていないと寝られないタチなのだ。

この事で中学の修学旅行では散々からかわれたが、まだ暗闇では寝られなかった。もちろん良平もこれが子供っぽいとは思っていたが、無理なものは無理なのだ。


「どうしようかなぁ。」


良平は去年のクリスマスを思い出そうとした。自分は電気を消していただろうか。プレゼントにゲーム機を貰ったことは覚えているが、電気を消していたかはさっぱりだった。

とりあえず、枕元に電気のリモコンを置いてベッドに入ることにした。


「今年は何かな。」


去年はゲーム機、一昨年はスマホだった。今年はパソコンがいいなと良平は思った。もしもパソコンだったら明日の終業式で自慢してやるんだ、と考えて、自分がニヤけていることに気づいた。


「どーせ親なのにな。」


去年ゲーム機を自慢した時に、サンタなんて親だと言っている同級生がいた事を思い出した。それが何となく大人っぽく見えて、それ以来サンタを信じるのは馬鹿だけだと思っていたはずなのに、気がつけばサンタを心待ちにしている自分がいて、良平はハッとした。


「じゃあ点けっぱでいいか。」


良平は考えた。サンタは居ないんだから別に電気がついていても親がプレゼントは置くハズだ。つまり電気を点けっぱにしておけば、自分はサンタを信じてないと言える訳だ。

それはちょっとカッコイイ。明日自慢出来るかもしれない。電気を点けっぱにして、1晩を過ごしてやったぞ、と。


「そうだ、親かどうか確認してみよう。」


寝たふりをして、親がプレゼントを置いている瞬間を目撃すれば、明日もっと自慢できるに違いない。そう考えた良平は徹夜することに決めた。幸い明日は終業式、授業はなかった。


「でも、もしサンタが本物だったらどうしよう。」


もしも本当だったら。良平はプレゼントを貰えないかもしれない。いやきっと貰えないだろう。良平はブラックサンタの話を思い出した。サンタは世界中の子供達のそばに妖精を飛ばしていて、その子供がこの1年間いい子だったか悪い子だったかをみているというのだ。いい子だったらプレゼントを貰えるが、悪い子だったらサンタに連れ去られて、サンタのおもちゃ工場で働かされるという話だ。もし自分が悪い子だったという自覚があるなら、反省しながらちゃんと寝ておけば連れ去られることはないという。


「やっぱ消そう。」


良平は急に怖くなった。自分がいい子だった自信がないのだ。勉強そっちのけでゲームを一日中やっていたからだ。良平は覚悟を決めて、電気を消した。真っ暗になった。煌々と部屋を明るくしていた電気が消えたその変化に目がついていけなかった。


「ひぅ。」


だんだんと目が暗闇に慣れてきた。と同時に濃密な空気を感じた。明るい時は天井の壁紙までハッキリ見えたが、暗くなったせいで天井が見えない。どこまでも広がる未知の、真っ暗な世界。そこに息づく何かを良平は感じた。濃い闇と薄い闇、何かがいる気がしてそこを凝視すると暗い赤と青が入り混じり、人影に見えた。動いているようにも見えるし、静止してこちらを見ているようにも見える。怖くなって目を閉じると、鼻先に気配を感じ、布団でそーっと頭を隠すと枕の上に誰かが立っているように感じた。目をぎゅっとつぶると、まるで世界には自分と布団と謎の気配だけがあるかのようだった。激しい鼓動に耐えきれなくなってバッと布団を弾き、途端に沈黙が耳朶を打った。


「プレゼントのことを考えよう。」


良平は怖さを紛らわすため、楽しいことを考えることにした。今年もプレゼントは枕元に置かれるだろう。でも今年は靴下を洗濯バサミで吊るしたから、そっちに入ってるかもしれない。いやパソコンだったら壊れないようにリビングの木の下に置いてあるかもしれないな。


「そう言えば、今年はハガキを書いたっけ。」


良平の家では毎年12月になるとサンタさん宛のハガキを書いていた。何が欲しいですとか何で欲しいですとかを書いて親に渡すのだ。そして親が郵便でスゥエーデンに居るサンタに送ったそれを元にプレゼントが決まるのだ。しかし、今年はハガキを書いた覚えがない。そもそも、ゲームばかりしていてクリスマスの事など一昨日気づいたばかりなのだ。パソコンが欲しいなんて書いていないし、親にもそんなことは言った覚えが無かった。


「でも、きっといい物が貰えるよね。」


今まで覚えている限り、良平はサンタからのプレゼントをハズレだと思ったことは無かった。ハガキで書いた物とは違うプレゼントだった時もあったが、必ず最後には満足するプレゼントだったのだ。だから今回もきっといいものを貰えるだろうと良平は思った。



「……もう、どっちでもいいや。」


つらつらと考えているうちに眠くなってきた良平は、サンタが本物かどうか、どっちでもよく思えてきた。今晩は聖なる夜、サンタが本物でも親でもプレゼントを貰えるならどっちでもいいや。今は寝てしまいたい。



*****


朝、6時。


「うーん。」


目が覚めた良平は枕元に赤い袋を発見した。


「プレゼントだ!」


急いで袋を開けて、良平はびっくりした。それは、スターロマン、屋内用プラネタリウムだったのだ。やっぱりサンタはいるのだと良平は思った。自分が暗いと寝れないことをサンタは知っていたのだ。パソコンよりもいいプレゼントだと思った。やっぱりサンタからのプレゼントにハズレはなかった。それどころか、大当たりだった。


「サンタさん、ありがとう。」


下半身も布団から抜け出して、その上に正座した良平は天井を見上げた。そのはるか先に居るはずのサンタを見つめるように。サンタは良平に教えてくれた。急いで大人にならなくてもいいんだよ、と。暗闇はちょっとずつ慣れていけばいいんだよ、と。サンタがいるのかどうか、断定する必要はないんだよ、と。


ずっと明るいままでは気づけなかった暗闇の中の未知の世界、そこにサンタはいるのかもしれない。


メリークリスマス!サンタさん!

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