第15話 裏切の依頼
右手を突き出せばある程度の爆発を、爆発した瞬間に防ぐことができる。たとえそれが核爆弾であろうとも、その中身を散らす前に消滅させることができた。
しかし、それは右手が届く範囲だけのことであって、万能ではない。さらに言えば右手に触れるだけで対象を消すことができるというのは正しいが正しくない。右手の周り三センチほどまでが掌の口の捕食範囲内だ。それでもやはり、距離は限られる。
ふいのウィンクの攻撃は反応できるものだったが、対応できるものではなかった。茜奈が右腕を振ったところで、いくつかの爆弾となった小石を消したところで、その物量を捌き切れなかった。
そんな中で、茜奈の瞳が捉えたのはウィンクの恍惚な表情だった。可愛らしくも、どこか不気味であるその笑みに心が震えた。
彼女が求めているのは「殺人」という結果だ。人を殺すことで快楽を得る。快楽を得るために人を殺す。彼女が満足しているということは、確実に茜奈を殺し切れると、茜奈ではこの現状を防ぐことはできないと確信している。
もうウィンクの中では結果が出ているのだ。
足掻こうが、もがこうが。
茜奈はここで終わる。
(そうか)
これが走馬灯か。
この状況においても冷静にウィンクを分析できる自分が不思議だったが、走馬灯よろしく脳が働いているのなら当然のことだ。
ただ残念なのは死ぬとわかり、走馬灯のように思考ができたとしても、過去の映像が一瞬たりとも思い浮かばないことだ。その理由は定かではない。もしかしたら思い出したくないことばかりの人生だったのかもしれない。
失ってばかりの人生。
奪ってばかりの人生。
なにが残った人生だっただろう。失ってきた人並みの幸福を求め、他者から幸福を奪ったところで、本当に幸福を得たことになったのだろうか。
その答は。
その答は明らかにしなくとも、明白だった。
初めからわかっていたことだ。
初めから知っていた。
失って得たものがなにか――。
「悪い、茜夏」
誰にも聞こえないだろうと思い、茜奈はそう呟いた。頭の中を過去の映像が駆け巡ることはなかったけれど、人影だけがはっきりと浮かび上がっていた。
それもまた明らかにしなくとも、明白だった。
誰だかわかっている。
「謝ってる暇があるなら、行動しろ」
そう言った少年はその両手にナイフを握り、的確に小石を切断していった。いや、そうではない。小石はすでに爆発を始めていた。だからナイフが切断したのは小石ではなく、爆発そのものだ。
茜奈は目を疑った。ナイフで爆発という事象を切断できるはずがない。この街ではありえないことではないが、しかしその瞳に欠片を宿す者にかぎり可能な行為だ。
けれども、月宮の瞳にはその欠片が存在していなかった。
ありえない、と茜奈は思った。しかしその言葉を思い浮かべたときには自分の姿が目の前にあった。ありえない存在でいえば、まさに茜奈自身もそうなのだ。瞳に欠片を宿すのではなく、掌に口を持っている。
ウィンクが次の攻撃を準備しているところに、あの少女が身の丈以上の大きさの鉄槌を振り下ろしていた。彼女もまた瞳に欠片を宿していない。それなのに、片手で悠々と鉄槌を振り回している。
茜奈は思わず笑ってしまった。この場にいる四人は一人としてまともじゃない。この街に紛れ込んでいる、世間が化物といって蔑む存在だ。その四人がこうして街の中で暴れているのだから、一般人からすれば堪ったものではないだろう。
「お前にはまだ訊きたいことがあるんだ。死ぬのはそれからにしてくれ」
そう言い残して、少年もウィンクのもとへ向かっていった。宙に舞っていたはずの小石はすべて撤去されている。とんだ爆弾処理もあったものだ。
「やれやれ、私らしくなかった」
なにが自分を狂わせたのかはわかっている。ウィンクの発した一言が、茜奈の心を揺さぶったのだ。
――裏切り者には制裁を。
茜奈には身に覚えがないため、その裏切り者が誰を指しているのかはすぐにわかった。だからこそ彼の身が心配でならなかったのだ。
おそらくはシグナルと交戦したはず。シグナルは緻密に計画を練るため、ほぼ隙がないと言っていい。ウィンクの感覚を頼るタイプではなく、絶対的な計算型。茜夏が反旗を翻ることなど初めから気付いていただろう。
茜夏ももちろん油断はしない。
信頼も、信用もしていない。
だからこそシグナルと戦えば無傷では済まない。考えすぎれば、策を練れば練るほど、足を掬われる。
(無事でいてくれればいいが)
一刻でも早く彼に会うために、茜奈もまたウィンクのもとへと走った。彼女には訊かなければならないことがある。
※
長月イチジクは目の前の《欠片持ち》に畏怖の念を抱いていた。さすがはノーナンバーといったところだろう。いかにしてこの街の管理の外側にいられたのかは不明だが、だからこそ彼女から発せられる雰囲気は不気味でもあった。
けたけたと笑うその顔もまた同様に。
「あっぶないなぁ。こんなの当たったら死んじゃうよ」
「ぜひ死んでください」
月宮湊に殺害を命じられたわけではないが、長月は本能的にここで彼女を殺害しなければいけない――そんな気がしていた。
不気味だから、気持ち悪いから見ていたくない。
そんな感情とは違う。
そんな感情を笑って吐き捨てられるような、もっと混沌とした、もっと黒々とした感情が長月の心を埋め尽くそうとしていた。
褐色肌の少女は長月の攻撃をひらひらと、柳が風で揺られるように柔らかく躱していきながら後退していく。もっと好戦的だと思っていたが、しかし蛮行はしないようだ。それは月宮湊を前にして逃走したときに気付いていた。
確実に勝てる勝負だけ挑む。挑戦心、勝負魂といったスポーツ的な精神は持っていない。持っていなくていい。
それだけに裏切り者を始末するだけに戻ってきたのは、なにか意図を感じた。組織に抱く忠誠心からの行動なのかもしれないし、あるいは彼女よりも数段上の実力者による絶対的な命令なのかもしれない。
けれど、そうじゃない。
彼女はそんなわかりやすさを持っていない。
混沌としていて。
黒々としていて。
近寄りがたい。
「あなたはさ」
と、褐色肌の少女は切り出した。
「あなたは、こんな世界にいて楽しい?」
「それなりには」
「そうなんだ。それはよかった」
少女は白い歯を見せて笑った。
「だったら、死ぬべきだよね」
長月は少女から目を離したつもりは一切なかった。その一挙一動を見逃すまいと、全神経を集中していたといってもいい。
「私の能力は、触れたものを爆発させる。ダメだよ、上半身ばかりを見ていたら。幽霊じゃないんだから足もあるよ」
長月の鉄槌が爆発した。ただその威力は大きくなかった。二人の距離が近かったためだろう。あまり威力の高い爆発を起こせば自分の身も危険にさらされる。そのことを考慮した上での少女の反撃だった。
ただやはり長月は納得できなかった。たしかに上半身ばかりに意識を回していたのは言い逃れようのない事実だが、彼女の動きには敏感に反応しているつもりだった。なにより月宮湊との一戦で、相手の行動を見る洞察力をさらに鍛えていた。
立場的には彼の下だが、戦場で彼の横に立てるように自分なりに訓練していた。
如月トモのように魔術や機械技術に長けているわけじゃない。突出したなにかがない長月にできるのは、確実に実力を高めていくことだけだった。戦闘経験でいえば月宮よりも遥かに多く、経験だけでいえば充分に事足りている。
長月になかったのは、目標だった。
その目標を今は明確にしている。ただひたすらにそこに辿り着くために、やれるだけのことはやっていた。
そんな自分が組手でもない実戦の中で、死と隣り合わせの状況で、油断も見逃しもするはずがない。何度もそれを潜りぬけてきたからこその自信があった。
ならば考えられるのは、褐色肌の少女の戦闘においての才覚が秀でているか、もしくは単純に、彼女の実戦経験が長月よりも上かのどちらかだ。
現実的なのが前者であるのは言うまでもない。姫ノ宮学園で日神ハルを守るために戦ってきた長月よりも実戦経験が多いとなると、それは毎日のように死線を越えているということになる。
(ノーナンバー……)
アリスの言葉を思い出す。そしてそれがすべてのような気がした。街の管理下におらず、それでいて街に潜んでいられる。そんなことは姫ノ宮学園ですらできていない。もし《欠片持ち》を抱えることができたとしても、その存在を把握されていたに違いない。
それだけこの街の管理システムは強大であり、しかし同時にその正体が一切掴めないものだ。どの経路で情報が流れているのか、どうして瞬時に街の異変に気付くことができるのか。
褐色肌の少女が小石ではなく、メダルを指で弾いて飛ばしてきた。
「集中力足りないんじゃない?」
長月はバック転をし、宙にあったメダルを蹴りあげた。あわよくば少女の顎に蹴りを入れようとしたが、やはり避けられてしまう。
二人の間でメダルが爆発した。先ほどよりも威力はあったが、爆風だけが長月の身体をすり抜けていった。
彼女の能力には多少のタイムラグが生じるようだ。小石のときも、鉄槌のときも彼女が触れてからすぐに爆発したわけじゃない。
注意すべきは、触れられること、触れている場所だ。足でも平気というのなら、地面が爆発しても不思議ではない。ただもちろんその威力は限られたものだ。これも彼女の弱点であり、接近戦では大きな爆発を起こせない。自身を巻き込まれてしまうからだ。
聞くだけならば強力な能力だが、対処の方法がないわけじゃない。ただ難しいのは接近戦で彼女の能力の威力を下げることはできても、そうすることで彼女に触れられる危険が増してくる。
指先一つでも掠れば、その個所は吹き飛ぶ。メダルを蹴りあげたように、手足ならば切断しなければ命も危うくなる。
対処はできるが、厄介ではある。
少女は口笛を鳴らした。まだまだ余裕そうである。
「やるねぇ~。判断が早い」
「あなた、本当に何者なんですか」
「ひ・み・つ」
ただの《欠片持ち》ではない。能力を完全に自分のものとし、どうすれば、どれくらいの威力ならば自分が危険にさらされないのかなど、相当な経験を積んでいる。二桁は命を奪わなければできない経験だ。それほどに能力の扱い方が上手い。
「あなたの目的はなんですか」
「今は裏切り者の始末だね。まあ、こうして邪魔をされているわけだけど」
「なぜ本気でやらないのですか?」
「核心をついてくるね」
少女はにっこりと笑った。
「そうだなあ、まあ時間稼ぎなのかな」
「時間稼ぎ?」
たしかにそれは本気で戦わない理由にはなる。しかしそれならば彼女の最初の一手に疑問を抱かざるをえない。あれは本気で茜奈を殺す気でいた。ならば、彼女の目的は茜奈の時間稼ぎではなく、長月たちの時間稼ぎということになる。
「すべての事象は紆余曲折あったところで、最終的に集約するんだよ」
まあ私の言葉じゃないけど、と少女は言う。
まるで彼女の心を読み解くことができない。まるで掴みようがない。言動に意思を感じられなかった。何者かに操られ、その何者かの言葉を代弁しているかのようでもある。
その何者が誰なのかを知っているような気がしたが、しかし長月はそれを思い出すことはできなかった。
褐色肌の少女の視線が長月から外される。
「おっと、さすがに三人相手は無理無理。あの二人から狙われるとか、死んだも同然だよね」
そう言いながらも、焦りも緊張も感じられない。楽しそうに、嬉しそうに笑っている。
長月はまた誰かを思い出しそうになった。だが、それは黒々とした影でしかなく、人の形をしているだけだった。
「あの二人とはどういうこと――」
「じゃあね」
途端、地面が輝き始めた。それも少女の周囲だけだ。こうなってしまっては迂闊に近づくことはできないため、長月は彼女を諦めた。
少女の姿が爆発に呑み込まれ、完全に視界から消えた。爆風が広がり、黒い煙が立ち上っていく。人払いの魔術もこれで解けてしまうだろう。人々の意識がこの煙に集まり、次第にこの場所を認識し始める。
長月は彼女の残していった言葉を頭の中で反芻した。
すべての事象は最終的には集約する。
それに時間稼ぎ。
いったいなにを意味しているのだろうか。
※
ウィンクが爆発とともに姿を消してしばらくすると、それまで姿を見せていなかった一般人がぞろぞろと集まり始めた。
爆発のあった個所には大きな穴が空いていた。この大通りの下には下水道があり、そこを通って逃げたようだ。彼女らしい撤退とは言えないが、しかしそれはあくまで茜奈の知っているウィンクのことであり、本質を見れば彼女らしいと言えるのかもしれない。
「すみません、逃してしまいました」
「別にあっちはどうでもいい」
茜奈は今、月宮たちと共にいた。命の恩人である月宮に従っての行動だが、心中では茜夏の安否が気になって仕方なかった。
路地裏に入るまでに月宮たちが交わした会話で、鉄槌を振り回していた少女の名前が長月だと知った。二人とも「月」という文字が入っているのがやや気になったが、そんな偶然もあるだろう、と深く考えないことにした。
茜夏とシグナルのこともある。
確率的にはあちらの方が奇跡だ。
「なにか訊き出せたか?」
「あの場に戻ってきたのが時間稼ぎだということ、それが事象の集約のためであるということ、あとは――あなたのことを知っているようなことを仄めかしていました」
視線を茜奈に向け、一瞬考えたのは月宮の名前を出すことを躊躇ったからのようだ。それほどまでに秘匿したいことなのだろう。異能の力のことを考えれば当然だ。
「俺のことを?」
「はい。ただそれは、あなたが、あの場で、不用意に、その力を見せたから、とも考えられますが」
長月は責め立てるように言った。表情が変わらないだけに――むしろ変わらないからこそ惹かれるものを感じた。
「また叱られますよ」
「まあ、それはこの件に関わった時点でわかってることだ。いまさら気にすることでもないだろ」
「一人で叱られてください。私は嫌です」
「はいはい」
敵対していたはずの相手が目の前にいるというのに、二人は自然体をさらけ出していた。裏切り者と呼ばれていたから信用されているのかとも思ったが、意味がわからなかったし、月宮はもともと裏組織ではなく茜奈個人を狙っていたため、それは絶対にありえないことはわかっていた。
格付けが済んだということだろうか。茜奈がここで暴れたとしても、それを確実に止められる。そんな自信があるというのだろうか。
月宮の頭の中で、なにがどういうふうに処理されているのか気になる茜奈だった。
月宮が茜奈に顔を向けた。
「お前の能力について訊きたいことがある」
黙っている理由もないため、茜奈は話すことにした。
「生まれたときからある力でな。《欠片持ち》とは違って、最初からその概要を知っているわけじゃない。だからわからないことはわからない」
「お前が、お前の意思で人を襲っているのか?」
似たような質問だが、月宮が訊いているのは茜夏のことではないと思えた。能力についてやはりなにか見当がついているのかもしれない。
「そうだな。それもある。ただ空腹感に似たなにかを感じて、人を喰うことの方が多い。三大欲求に勝てないからな、私たちは」
性欲、睡眠欲、そして食欲。人間の持つ三大欲求であり、そのすべてに抗うことはできないとも言われている。逆にいえば、その欲求があってこそ人間であるのだ。人間らしさとはこれら欲求をきちんと持っているか否かだと茜奈は思った。
「食欲ってわけか」
「わかりやすくいえばそうだ」
月宮は黙り込んだ。考えをまとめているのか、答を導きだそうとしているのか。どちらにしてもそれは茜奈が得たい情報だ。他者が茜奈の能力について真剣に考える姿を見るのはこれが初めてだった。
シグナルは、便利だとしか言わなかった。
ウィンクも、殺しやすそうとしか言わなかった。
茜夏は考えているのだろうが、しかしそれを茜奈の前で見せたことはないし、言葉にしたこともなかった。
「こちらからも話があるんだがいいかな」
「ん? ああ」
「事務所とはどんな組織なんだ」
「舞い込んできた依頼を処理する組織だ」
「なるほど。では、私の依頼を聞いてもらえるか?」
「言っておくが、ただではやらないぞ。ボランティアじゃないんだ」
「お金か?」
「まあ、そういうときもある。ただ個人でその依頼を受ける場合は、相手によって報酬が違う。もちろん金銭を要求する奴もいる」
裏組織のように金さえ積めばいいというわけではないらしい。たしかにそれだと大衆からの印象が悪くなる。都市警察と並ぶ二大組織と呼ばれるだけあって、そういった配慮も考えているのかもしれない。
「月宮くんはなにを望む? 私の身体か?」
長月の眉が少し動いた。まさか月宮の名前を知っているとは思っていなかったからだろう。彼女はひた隠そうとしていたが、残念ながら茜奈は自己紹介を済ませていた。それでも知っているのは名字だけだが。
「内容次第だな」
「スリーサイズ次第ということか」
「誰もお前の身体測定の内容を知りたいとは思わねえよ」
こんな会話をしても、長月の表情はぴくりともしなかった。下世話な話でもすればその表情を崩せると思ったが、これでは足りないらしい。
いや、本来の目的は彼女の表情を崩したいわけではないのだが。
「依頼内容は」
茜奈は話を戻した。
「ある人物を助けて欲しい」
「大切な奴なのか?」
「家族のいない私が、一方的に家族だと思っている男だ。血の繋がりはないが、常に私の傍にいてくれた大切な人なんだ」
「引き受けましょう」
答えたのは、長月だった。しかもなぜだかはわからないが食い気味に返答してきた。
「それはもう引き受けるしかありません。この月宮湊が身を粉にしてその依頼を達成してみせます。いえ、もちろんこの私も尽力します」
そしてなぜだかわからないが、隠そうとしていた月宮の名前を明かしていた。そうか、湊というのか、と茜奈は妙に納得してしまった。月宮湊……月宮茜奈。なかなか悪くない響きだった。
さすがに月宮もそれに気付き、呆れているようだった。
「お前が決めるな」
「トモも引き受けると言っています」
誰のことだろう、と茜奈は思ったが、口にはしなかった。ぼんやりとあの四人組を思い浮かべ、秋雨でも長月でもない残った二人のうちのどちらかだろうと考えた。呼び名の雰囲気から眼鏡をかけていた子だろうと判断した。
「お前たちが引き受けたい気持ちはわかるが、それでも少しは考えてくれ。心のままに行動するなとは言わないけれども」
「考えています。家族を失う辛さを知っているからこそ、これは引き受けるべきだと私もトモも言っているんです」
月宮は長月の真っ直ぐな視線を受けて溜息をつき、「わかった」と言った。そして茜奈に振り向いた。
「というわけで、その依頼を引き受けさせてもらう」
「すまないな」
「報酬も決めた」
「ほう。それは?」
「お前をもらう」
「……ん?」
「どうせ、行くとこもないようだし、事務所に入ってもらう」
「それは……、まあ私としては。異論はないが……」
長月がぽつりと「また勝手に決めてしまうんですね……」と呟いていた。どうやら度々こういうことはあるらしい。
「お前を持ち駒にできることは、事務所にとって悪くないことだ。拒絶されることはないと思う。人手も足りないようだしな」
「いいだろう。依頼が達成されたとき、私は事務所に所属する。ついでに私の大切な家族も許可してもらえるとありがたいが」
多くは望まない、と言いかけたところで、長月が「もちろん。そのときは一緒に働きましょう」と淡々と言った。もう少し感情がこもっていれば、やる気のある従業員に見えなくはなかったのだが。
「それで、そいつはどこにいるんだ」
「わからない」
茜奈は言う。
「わからないが、たぶん、まだ大丈夫だとは思う」
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