第8話
次鋒戦は東が二機生き残って連勝。後が無くなった中堅戦は西が一機生き残りでなんとか勝利した。副将戦に出場したのは海道大佐率いる隊である。こちらは全機生存のまま圧勝となった。二勝二敗で迎えた大将戦。対戦カードは荒巻隊対久瀬隊である。
「いよいよ次は私達の番ですね!」
コックピットの中で、真琴がきりっとした表情で言う。
「サンタ同士で戦うことへの踏ん切りはついたか?」
「はい、あくまでも実戦でサンタ狩りに負けないようにするための訓練ですから!」
「フッ……切り替えの早いことだ」
高志の件をいつまでも引きずっている自分とは違うのだと、修二は思った。
「総員、準備はできているな。行くぞ!」
荒巻隊四人の乗ったサンタロボは、足並みを揃えて入場。同時に、向こう側のゲートからは久瀬隊の四人も入場する。
八人全員が指定された持ち場に着いたところで、出場者紹介のアナウンスが鳴る。
「東東京支部、久瀬隊。久瀬辰則少佐、葉山敦中尉、池沢茂少尉、福田健作少尉」
一人一人の名前が呼ばれる度、大多数を占める東の応援団から野太い歓声が上がる。
「西東京支部、荒巻隊。荒巻修二少佐、梶村美咲准尉、坂本和樹曹長、天宮真琴軍曹」
今度は逆に東の者が誰一人声を上げず、西の代表十六名だけが声援を送った。
「うへぇ……相変わらず統率がとれてるなぁ東の連中は」
アウェーの空気を浴びせられて、和樹が皮肉を漏らす。
「今回は去年の連中とはレベルが違うぞ。気を引き締めろ」
「りょ、了解!」
気が滅入っていたところに喝を入れられ、和樹は両手で自分の頬を叩いた。
修二にとって久瀬とは二年ぶりの対戦。久瀬は伊達に修二と競い合ってきた男ではない。この男の強さは、軍学校時代から幾度となく勝負してきた修二自身が一番よくわかっている。
試合開始のアナウンスが鳴る。
「行くぞ!」
荒巻隊四人のサンタロボが一斉に駆け出した。
この合同演習では障害物の無い広い空間を舞台に、四対四でお互いに相手をサンタ狩りに見立てて戦う。催眠ハンマーに叩かれた者は眠らされたものとして脱落となる。どちらかが全員脱落した時点で試合は終了というシンプルなルールである。
久瀬機は真っ先に修二機へと一直線に突っ込む。ハンマー同士が正面からぶつかり合うが、互いにピコピコハンマーなので衝撃は吸収し合う。
(やはり単独で俺に向かってきたか。お前がそう来ることは読めていたし、それが一番有難い)
いかに実力派揃いの久瀬隊といえど、修二の動きについていけるのは隊長の久瀬だけ。久瀬が一人で修二の相手をし他の戦闘から修二を引き離すのは、彼らの常套手段であった。
だが修二は、あえて久瀬の作戦に乗る形を取った。こちらも久瀬を他の戦闘から引き離しつつ、部下三人にこの場を任せたのである。
和樹は早速、一番近くにいる敵機、葉山中尉の乗るサンタロボへと機体を突進させる。だがそこにいた葉山機はすぐさまカウンターでハンマーを振り下ろした。和樹はそれを読んでおり、ハンマーの柄で受け止める。
お互いの出方を読み合いながらの正面衝突。機体そのものの出力は同じであるため、このまま鍔迫り合いになっても膠着するだけである。八人全員が同一の機体で戦う以上、勝敗を決めるのは操縦技術と作戦になる。
葉山機がハンマーを受け止めている間に、福田機が和樹機へと接近。
「もらった!」
頭部に迫るハンマー。だが和樹は咄嗟に機体を後ろに跳び退かせた。葉山機も同時に跳び退く。
福田機のハンマーは床を大きく叩く。攻撃を外して隙を晒した福田機に、和樹はすかさずハンマーの一撃。福田はすぐ切り替えして防御に移ろうとするが、間に合わず。頭にハンマーを喰らってしまった。
「福田少尉、脱落」
アナウンスが鳴る。
「よーし一体撃破!」
和樹はガッツポーズ。
「何やってんだ福田!」
「あ、あれ……?」
葉山に叱られた福田は、何が起こったのかわからない様子だった。
一方真琴は、池沢少尉の機体と対峙していた。
「天才少女だか何だか知らねえが、軍学校を出たばかりのヒヨっ子が勝てるほどこのゲームは甘くないぜ。こちとら実戦経験豊富なんだからよーっ!」
池沢から真琴に通信が入る。西と東のサンタロボは設定上同軍の機体であるため、こうして通信が可能である。合同演習中は基本的に相手側との通信はオフにしているが、こうして挑発のためにわざわざ通信をオンにする隊員もいるのである。
猛攻をかける池沢に対し、真琴は先読みと巧みな操縦技術で後ろに下がりながら一つ一つ攻撃を躱してゆく。
攻撃の軌道が見えているかの如き真琴の動きに、池沢は苛立ちを覚えていた。
「このガキ……舐めてんじゃねえぞ!」
大振りな横薙ぎを、真琴機はバック宙返りで避ける。池沢がその動きに呆気にとられた所を、背後から近づいた美咲機がハンマーで叩いた。
「しまった!」
「池沢少尉、脱落」
アナウンスが響く。東の応援団からブーイングが鳴り出した。
「イエーイ!」
真琴と美咲のサンタロボが、仲良くハイタッチ。
「よし、すぐ坂本曹長の援護に向かえ」
「了解!」
修二からの指示を受けて、二人はすぐさま駆け出す。
和樹機と葉山機は何度もハンマー同士をぶつけ合い、一進一退の攻防が続く。
「ちっ、あのバカども、あっさりやられやがって」
だが自分は違うとばかりに、葉山はハンマーを押し込む。和樹は後ろに押し出され、バランスを崩した。
葉山は接近する女子二人をレーダーで捕捉しつつ、まずは和樹を仕留めんとそのままの流れでハンマーを振り上げる。
だがその時、真琴機が跳んだ。スラスターを噴射する角度や威力を巧みに調整しつつ、葉山機を叩ける位置を的確に捉える。
空中からの奇襲。ハンマーヘッドすぐ下を片手で握って振りを速くし、和樹機が叩かれるよりも早く葉山機を叩いた。
「葉山中尉、脱落……」
東のエース部隊に所属する実力者達が次々と倒されてゆく様に、アナウンスの声にも力が無くなる。
「そっちは全員済んだようだな。そろそろ俺も決める。お前達は待機していろ」
ハンマー同士で押し合いながら、修二は三人に指示を出す。三人はそれに従い、その場で待機。
「がんばってください隊長ー!」
真琴はコックピットから暢気に応援を送った。
修二はまずは一旦ハンマーを引き、空いた相手の胴を突くように振り上げる。だが久瀬機は一歩下がってハンマーを振り下ろし、その一撃を叩き潰す。そこからすぐさまハンマーを上げ、修二機の頭を狙った。
だが修二はそれを読んでいた。久瀬機のハンマーにぴったりくっつけるようにハンマーを上げ、久瀬の攻撃を防いだ。
久瀬はパワーで押し込もうとするも、修二も出力を全開にして受け止める。久瀬は一旦機体を下がらせ、今度は横薙ぎ。修二機は柄で受け止めると、滑らすように受け流した。そこから反撃でハンマーを縦に振るが、久瀬機はサイドステップで避ける。
互いに一歩も譲らぬ攻防の連続に、両隊の隊員達は手に汗を握る。だが、そこから勝負がつくのは一瞬だった。
久瀬機が少し距離をとったところで、修二機は一気に踏み込む。右の逆手でハンマーを持ち腹部めがけて振るが、久瀬はそれを読んでおり柄を盾に防御体勢をとる。だがそれすらも修二の計算の内。久瀬機のハンマーに当たる前に手を止め、引き戻して背中に回す。左手に持ち替えると共に久瀬機の右手側を駆け抜け、久瀬機の背中に太鼓判を押した。
悲しきかなこれはピコピコハンマー。戦いの場には不釣合いな、可愛いらしい音がシミュレーションルームに響き渡る。誰もが息を呑み言葉を殺していたために、その音は異様に大きく感じられた。
「く、久瀬少佐脱落……」
少し間を空けて、アナウンサーが久瀬の脱落を告げる。
「東軍、生存者無し、西軍、全員生存。よってこの試合、西軍の勝ちとする……」
アナウンスが鳴り止む前に、西の応援席から歓声が沸き上がった。たった十六人ながら、周りを取り囲む東のブーイングに負けないほどの勢いで。
「やりましたね! 隊長!」
修二のコックピットに、真琴からの通信が入る。
「実戦だと思えば勝って当然だ。負けは死に直結していたのだからな」
修二はあくまでも冷徹に返す。そこでふと、モニターに池沢少尉の顔が映っていることに気が付いた。先程真琴と対戦し、通信で煽っていた男である。
「ったく、誰だよ荒巻が不調とか言った奴は! 全然好調じゃねーか!」
どうやら通信を切り忘れていることにも気付かず、愚痴を言っているようだ。
「つーか機体が悪いぜ機体が! あの機体さえ使ってりゃこんな連中……」
「言い訳はみっともないぞ池沢! 貴様それでも軍人か!」
久瀬に叱られ、池沢はびくりとする。
「えー、何何? 東で新型開発してるのー?」
美咲が通信に割り込んだ。
「池沢ァ! 敵に通信漏れてるぞ!」
「す、すいません!」
慌てて通信を切られ、結局美咲は答えを聞けず終いであった。
観戦していた田中将軍は、圧勝した荒巻隊の面々に拍手を贈る。
「いやあ素晴らしい戦いじゃった。麻田将軍もそう思わんかね?」
「……実に稚拙で無様な試合でした。久瀬隊には折檻が必要ですな。クリスマスイブの本番にはこのようなことがないようにしてもらいたいものです」
麻田将軍は不服そうに言った。
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