第5話「ヴュルテンゲルツ王国物語」
ストレス解消のため、俺はファンタジー小説を書き始めた。
タイトルは、「ヴュルテンゲルツ王国物語」。地球儀に向けてダーツを投げたら、ドイツにあるヴュルテンゲルツ州に刺さったのがきっかけである。
舞台は、絶対王政が定番の中世だ。キャラで王女を出すからね、この時代がいいだろう。シュライン・イーグルとか、いかにもなキャラ名をつけても違和感無いし。もちろん設定は、こだわるつもりだ。中世の文化、風習は丹念に調べて書く。曖昧な知識で書きたくはない。時には図書館に行ってネット知識が正しいか裏付けも取らなければいけないだろうね。
次にキャラだ。
一章の主要キャラは、三人。ヴュルテンゲルツ王国の王女「レイラ・グラス・ヴュルテンゲルツ」、悪逆王侯貴族「シモン・ゴールド・エスカリオン」、そして、レイラ王女に仕える従僕であり、本作の主人公でもある「ショウ・ホワイスト」だ。
ショウ・ホワイストは、俺こと白石 翔太。王女レイラ・グラス・ヴュルテンゲルツは草乃月 麗良。悪逆王侯貴族シモン・ゴールド・エスカリオンは、小金沢
他のサブキャラは、クラスメート達だ。
悪い奴は、国を売る敵側に。いい奴は、国を守る味方側とする。
いくらぼっちとはいえ、高校生活を二年近く過ごせば、クラスメートの多少の性格はわかってくる。誰が性格が良く、誰が性格が悪いのか。特に、苛められるようになってからは、それが顕著にわかる。
例えば、
逆に性格の良い人は、隣のクラスの石橋君だ。
武道の時間、皆にボコボコにされてた時、ひそかに助けてくれた。
俺は、忘れない。
他にも表立っては無理だが、陰で庇ってくれる人も少数ながらいる。そういう人達は、正義の味方、王国の忠臣として扱う。
まぁ、ショウ側とシモン側のグループ分けをした結果、ほとんどの奴が国を売る屑野郎になってしまったが……。
あとは、あらすじだ。
主人公ショウは、幼少の頃より王国に仕える忠臣だ。酷い濡れ衣を着せられながらも懸命に王女レイラのために尽くす。シモンはレイラの婚約者だが、帝国の手先という設定だ。レイラを操り王国を売る。レイラは、言葉巧みなシモンに騙され国を大きく傾かせる。
ショウが民衆を飢えから救った時も、シモンの手柄となった。飢饉の際、シモンとその仲間達は、酒池肉林を繰り返しただけだというのに。シモンは、贅を尽くした食事を揃え、逆らう者は皆殺しにした。
佞臣に囲まれたレイラには、真実が見えない。
シモンはやりたい放題だ。
シモン達、売国奴の讒言によって、一人また一人と国の忠臣達が失脚し、佞臣達が権勢を振るっていく。
重鎮達の政争、国王の暗殺、将官の謀叛。
王国は、揺れに揺れる。
そんな中、ショウは、数少ない仲間達とともに必死に国難に立ち向かう。そして、ついに悪逆王侯貴族シモンを打ち滅ぼす。
それが帝国の罠とも知らずに。
ショウもレイラも気づかない。
帝国の魔の手は、王国に迫りつつあった……。
筆を置く――マウスをクリックし、メモ帳を閉じる。
一章は、こんなところか。
プロットを書いてみてわかった。
ショウ、まじ大変。こんな詰みの状態で王国を本当に救えるのか? ショウを野菜人のような戦闘チートにしたら可能だろう。だが、それはしたくない。
小説の主人公ショウは、俺の分身として書きたい。俺の分身がシモンを倒し、レイラの眼を覚ませ、国を救うからよいのだ。主人公が俺とあまりにもかけ離れた設定だと現実味が薄れる。
ショウは、レイラ王女に仕える従僕までしか決めていない。細かな性格はこれから考える。
☆ ★ ☆ ★
およそのプロットができたので、キャラの詳細を決める。
まずは主人公からだね。
ショウは、俺の分身だ。できるだけ俺に似せたほうがリアルになる。
考え事をする際に鼻を掻いたり、食事の際に迷い箸をしたり、よく親に注意された悪癖をショウの癖にした。
性格については、自己分析が苦手だから、ネットの無料性格診断テストを何度もやってみた。時には有料でもやった。主観的にならないように、自分をよく知っている親や妹にも俺の長所、短所を聞いてみた。
まじめ、几帳面、優柔不断……。
それらを参考に何度も推敲して、そして、ショウは出来上がった。
ショウは、「勤勉」であり、「誠実」であり、何より「勇気」がある。一見弱気であたふたするところはあるが、いざとなったらやる男だ。
ショウは、俺の理想だ。
俺の長所を抽出しているが、最大限に良さを引き伸ばしている。
俺が頑張って頑張って、死ぬほど頑張ってやっと到達できるかどうか、こんな俺であったらいいという願望そのものだ。
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