第2話「家政婦じゃないよ。モブ高校生は見ていた」

 土曜日の昼下がり。繁華街にやってきた。前々から楽しみにしていた「王国戦争キングダムウォー物語 拡張パッケージ版」を購入するためである。


 新宿駅を降りて、目的地までひたすら歩く。


 人、人、人の波に襲われる。


 それでもひたすら歩く。


 そして……。


 ふーやっと買えた。


 ゲームショップ「ばんっぱんら」……。


 ラインナップも豊富。価格もリーズナブルで学生の懐には優しい。言うことは、ほぼないんだけど、一つだけ!


 場所わかりづらすぎ!


 ググルで地図検索したが、道が入り組んでて何度も迷った。


 右往左往したよ。


 足が棒だ。ちかれた。


 明日は筋肉痛だろうが、まぁ、いい。目当ての物も買えた。


 帰ろう。


 ふん、ふん♪


 新宿駅を探して、数十分歩く。


 あれ、駅どっちだっけ?


 来た道を帰ったつもりが、見知った風景ではない。


 呼込みの怖そうなパンチパーマのおじさんがいる。ピンクのネオンが輝くエロそうな店がいくつもある。そして、昼間だと言うのに、色気ムンムンのお姉さんがそんなお店の前に立って通行人を誘惑している。


 この場所って……。


 そういえば、ここって歌舞伎町に近かったな。よくよく観察すると、「審査無し、十万円まで即決即金でお渡しします」と書かれたビラが電柱に貼られていた。他にも怪しそうな看板を掲げたビルがところ狭しと立ち並んでいる。


 ここ、一介の高校生が来ちゃいけないところだ。


 急いで別な通りに行こう。


 慌てて踵を返す。「そこの兄ちゃん、いい子いるよ」と呼ばれても無視だ。「え、どんな娘ですか? 巨乳っすか?」と聞き返したいのを我慢し、てくてく移動する。


 携帯を見ながら小走りで小道に入ると、今度はラブホテル街に迷いこんだらしい。休憩四千円、一泊六千円とか看板に書かれてある。通行人は、ラブラブのカップルばかりだ。


 ラブホテル街……。


 そういやラブホって構造どうなってんだろう?


 室内が鏡張りとかは、聞いたことがある。


 健全な高校生なら誰しも興味があることだ。


 こ、これはしょうがないよ。


 駅を探すうちにホテル街に迷い込んでしまった。不可抗力だね。刺激的な場所を歩き回って興奮してるのもある。


 マナー違反とは思うが、ついつい通行人を見てしまう。


 皆、可愛いね。


 黒髪ロングの清楚な子、茶髪に染めた活発そうなギャル、ショートカットのスポーディな少女等、様々だ。


 そして……。


 おっ! 今日一番の可愛い子!


 髪をサイドに結んだポニーテールの女の子。透明感のあるお肌と目鼻の整った顔立ち、笑った時のえくぼも可愛い。この子ならアイドルグループに所属していてもおかしくない。


 ポニーテールの女の子は、嬉しそうに男と腕を組んで歩いている。


 くぅ~うらやましいぞ。この男は、こんな美少女と、この後、しっぽりすっきりするのだ。


 相手はどこのどいつだ――って紫門ゆりかどじゃないか!


 羨ましすぎる男……それは、よく見知っている、クラスメートだった。


 金持ちでイケメンだが、性格最悪。そんな男が可愛い女の子と腕を組んで歩いている。


 紫門ゆりかど……なんか学校の時と違う。


 いつも女性に誠実な精悍な顔を装っているのに。


 今日の紫門ゆりかどは、服装といい、髪型といい、なんていうかチャラついている。耳にピアスまでしているのだ。ギャル男みたいだ。


 変装しているのか?


 まぁ、いいところのボンボンだからな。知人にばれたくないのだろう。


 チャラ紫門ゆりかどは、ポニーテールの女の子と仲睦まじげに話をしている。時折、人目もはばからず路チューもしていた。


 そして、予想通り、二人でホテルに入っていった。


 あいつ麗良さんがいるくせに……。


 女遊びして、浮気をしているのだ。


 俺の意中の人があんな屑野郎に弄ばれるのか!


 許せん。


 新作ゲームを買ってうきうきしていた心は一変。俺の嫉妬ボルテージが急速に上昇した。

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