第1話「俺は、平凡な高校二年生」
眠い。
昨夜は三時まで起きていたからな。ついついオンラインゲーム「
昨日は、なんとか帝国の攻撃から砦を防衛できたが、兵糧が残り少ない。金も無いし、じり貧である。
ハードモードやばいね。
ノーマルでやり直そうかな――って、いかん、いかん、今は授業に集中、集中だ。
ぱちぱちと瞬きを繰り返すが、やはり眠いものは眠い。
昼食後でもあり、俺の他にもクラスの数人がうとうとしていた。他は、真剣に授業を受けている。さすが県下有数の進学校、真面目だ。
高校二年になって始めての授業。
さっぱりわからん。
授業についていけない。高校一年の時もやばかったが、まだなんとかついていけてた。毎日予習復習をして授業に取組んでいたから。でも、なかなから上がらない成績と、ついていけない奴は置いていくとばりに成績上位者向けの高度な授業で、俺のやる気は徐々に低下していき……今では最低限の課題をこなしているだけとなった。
毎日を漠然と過ごしている。
せめてガールフレンドでもいれば、この乾ききった高校生活に潤いが出るというのに。
顔はイケメンでなくフツメン。成績は下の中、まぁ進学校での「下」だから世の中の基準では「上」になるかもしれないけど……うん、つい言い訳を言ってしまった。性格は社交的ではない。オタク趣味もある。
なまじ立派な高校に合格したから、大変だ。文武両道を掲げる南西館高校は、県内、県外から優秀な人材を集めに集めた学校だ。地元の中学で成績トップだった奴らがざらにいる。こんなエリート達の中で、少し頑張ったぐらいではたかが知れている。俺の成績は下から数えたほうが早い。
さらに言えば、俺は運動も得意というわけではない、至って普通だ。クラスマッチ等の催しでも活躍できず、モブとして埋没する。
つまり、何が言いたいかと言うと、俺のクラスカーストは下位ということだ。
はは、厳しい……。
そんな自虐ネタ言ってる俺だが、これでも健全な高校生だ。
恋、してます。
クラスで気になる人がいるんだよ!
俺の斜め前の席にいる学校一、いや世界一の美少女、草乃月 麗良さんだ。
父親は草乃月コンツェルンの社長、母親はフランス人でパリコレで優勝したこともある元モデル。ちなみに草乃月コンツェルンは、鉛筆から戦車の砲身まで扱う世界最大の商社である。
つまり、麗良さんはハーフで、実家は超がつくほどの大金持ちということだ。
麗良さんは、母親譲りの輝くような金髪と抜群のプロポーション。ぱっちりとした二重瞼に父親譲りの意志の強そうな目。鼻筋は、すらりと通り、白く歯並びもよい。甘い吐息が出そうな唇に……パーツを一つ一つ挙げてもきりがないか。
とにかく麗良さんは、絶世の美少女といっても過言ではない。しかも成績優秀で常に学年主席をキープしている。才色兼備、優秀なクラスメート達が束になっても霞む女王なのだ。
そんな麗良さんに次いで人気があるのが、小金沢
まぁ、この二人は別格として。クラス初めの自己紹介では、剣道で県大会優勝や、全国絵画コンクール入選、中学時代は生徒会長を二期務めたとか普通に経歴自慢できる奴らがいっぱいいたね。
ちなみに、俺の自己紹介について、趣味は読書、映画鑑賞、特技は無しってね。
クラスメートは、鼻で笑っていた。
けっ! 俺だって本当は誰にも負けてないんだぞ。言っていないだけで、とびっきりの秘密があるんだからな。
そう、モブな俺が唯一誇れるというか普通でない経験をした。なんと小さい頃、宇宙人に
怖い思いもしたが、どんな大金持ちだろうと絶対に入手できないとあるオーバーパーツを手に入れた。一度人に使ったことがある。その人は、まるで別人になってしまった。人の人生を変えてしまった。その人を殺したようなものである。
言い訳はある。やむにやまない事情があった。
でも、だめだ。
楽天家で大雑把な俺でもやっちゃいけないことはわかっている。だから、二度と使わないと決めて押入れの奥に(それを)隠した。捨ててはいないよ。あまりに危険で、捨てるに捨てられない代物だからね。
あれは……やばいよ、本当にやばい。
人が持ってていい代物じゃない。
その人の性格を書き換えることができる。
必要なのはその人のDNA情報、毛髪の一本でもあればよい。
あぁ、田中さん……。
ずきずきと心が痛む。俺のトラウマ、古傷だ。
フルフル、首を振る。もう考えるのはよそう。
碌な目に合わなかった酷い記憶だ。封印する。
とんでもない宇宙人のせいで、とんでもないことをしでかしてしまった。
あの宇宙人、今頃どうしてるかな? 他の星でまた悪さしていないといいけど、
少し昔を懐かしみ授業を半ばぼんやり受けていると、終業のベルが鳴った。
「ここ、復習しておくように」と最後に先生が公式に印をつけ、教室を退出する。
十分の休憩時間に突入だ。
友達同士でおしゃべりが始まる。教室内ががやがやと騒ぎ出す。話す相手がいない俺は、机につっぷし寝たふりをする。
いいんだ、ぼっちでも。もう慣れた。
ぐーぐー。
寝たフリだ。
目を閉じ耳を澄ますと、次の授業の話とか、テレビの話とか、クラスメート達の話す声が聞こえてくる。
そして……。
「……白石が」
誰だ? 誰か俺の名を呼んでいる奴がいる。
「……そうそう、白石は」
話声から察すると……宮本と佐々木、そして
性格最悪三人組が、クラスマッチの競技で俺をどうするか話をしているみたいだ。
別に競技なんてどれでもいいが、強いてあげればサッカーがいい。ヘマしてもあまり目立たない気がする。
まぁ、いい。わかってたよ。それで結局俺が参加するのは、なんの競技? サッカー?
気になるので、さらに集中して聞き耳を立てた。
「それで白石の奴、どうしますか?」
「空いているのはバレーだが、バレーの点数は高い。できればバレー部の奴を続けて試合に出したいところだ」
「じゃあ、白石は補欠にしましょう。根回しはしておきます」
「あぁ、そうしてくれ」
「はい、全員参加なんてルールもありません。下手に参加させて足を引っ張られてもうざいですし、奴には、補欠が似合ってますよ」
「あぁ、ドンくさい奴は邪魔だ。どうせなら隅でスコアブックでもつけさせておくか。それなら少しは、クラスに貢献できるだろ」
「さすが
「そういやとうの白石は――ってまた寝てやがる」
「くっく、白石って、いつも寝てるな」
「友達がいないんですよ。哀れな奴です」
あいかわらずムカつく奴らだ。
俺のボッチを肴にして大笑いしている。
宮本と佐々木もそこそこの家柄だ。親は小金沢グループの会社で勤務しており、奴らは幼少の頃から
つまり
俺は、ある時期より
だから代わりに子飼いの二人を使って鬱憤を晴らしてくる。
俺の得意教科である歴史。その日たまたま山が当たり、九十八点を取った。
それ以降、こうやってちょいちょい目の
直接小馬鹿にしてくるのは宮本と佐々木だが、裏で
はは、軽いいじめですよ。
くそ、人の陰口なんて言ってんじゃねぇえええ!!
思いっきり叫びたいが、気づかない振りをする。クラスカースト上位様と揉めてもろくなことにならない。
無視だ。無視。
どうせ団体競技は苦手だ。言われたとおり、スコアブックでもつけててやる。
長いものには巻かれろ、だ。
むかつくが、嫌なことは忘れる。精神衛生上良くないからな。
そんなことより、明日は土曜日、サタディー、休日だよ。前々から楽しみにしていた「
早速買いにいこう。
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