第2話 子供っぽくないJS
可愛らしい少女から威厳とカリスマを感じて、呆然と固まる俺。
小学三年生の少女が首をかしげる。
「どうした? 間抜けな面をして固まって」
「あの~?
「そうだが? まあ、ちゃんとさん付けしたことは褒めてやろう。で、他にどう見える? こんな可愛らしい少女は
何だこの少女は? 自尊心が高すぎません?
本当にさっき泣きそうだった女の子と同一人物?
「君って本当に小学生?」
「このロリボディを見てわからんのか?
ふっ、と嘲るように鼻で笑う現役JS。何故かその仕草が似合う。
確かに見た目はロリボディだけど、中身は態度がデカすぎない?
こんなJSがいてたまるか!
「でも、さっき泣きそうだったよね?」
「ふっ」
あっ、また鼻で笑われた。何故か心に突き刺さる笑い方だ。
小学三年生に鼻で笑われた高校生は俺くらいしかいないんじゃないだろうか?
「あれはもちろん演技に決まっているだろう? 素の
「ぐはっ!」
小学三年生に見下されてチョロいって言われた。貴様って言われた…。
何この屈辱感。
家から放り出してやろうか?
「あぁ。
くそう。先に忠告されてしまった。
家に上げたことを後悔している。
小学生がこんなにふてぶてしいなんて思わないじゃん! 詐欺だ! 訴えてやる!
ソファにどっかりと座った美和さんが悠然と告げた。
「で? いつになったら飲み物とお菓子が出てくるんだ?」
くっ! 何だあの態度は!
はいはい。準備しますよ! すればいいんでしょ!
準備し始めるが、即座に威厳のある声が飛んでくる。
「あっ、
好みは渋いな。本当に小学三年生か?
俺は今、彼女の中身が大人だと疑っている。
もしかして、前世の記憶があるとか? それとも、幽霊とか他の人物が憑りついてるとか?
「
な、何を言っているんだ!?
じゃ、じゃあ、二重人格だろうか?
「ふっ。
また鼻で笑われた。馬鹿者って言われた。
くっ! 何だこの少女は!
というか、さっきから俺の心を読んでいない? もしかして、テレパシーを持った超能力者?
じーっと少女を見つめると、彼女は呆れたように首を振って指摘してきた。
「ユイリ、そのブツブツと呟く癖をどうにかしたほうがいいぞ。全部聞こえているからな、中二病罹患者」
「えっ? 全部言ってた?」
「丸聞こえだ、愚か者」
今度は愚か者って言われた!
俺はこの少女をどうすればいい!?
心を折られて粉々に粉砕される未来しか浮かばないんだが!
「あっ、そう言えばヨモギ大福があるんだけど食べるか?」
「中の餡子は?」
「粒餡が入ってるぞ」
「もらおう。
「了解」
俺は二人分のヨモギ大福をお皿に乗せて、ひとまずテーブルに持っていく。
美和ちゃん……おっと、睨まれてしまった。美和さんね、美和さん。
小学三年生の美和さんはソファにゆったりと座っている。
「はいどうぞ。お茶はもう少し待ってね」
「わかっている」
なんでこんなに偉そうなんだろうか?
これ、聞いちゃダメなやつ? 複雑な事情があったりする?
「だから全部丸聞こえだ、アホ!」
今度はアホって言われた! 俺、心折れそうなんだけど。
この短時間で何度罵倒されただろうか?
俺の心は豆腐のようにふにゃふにゃな飴細工の
ガラスよりも断然脆いんだぞ!
小学三年生が、年齢にあるまじき嘲笑を浮かべる。
「ふっ。そんな脆い
もう既に粉々に粉砕されましたよ。
その嘲りを含んだ笑いでぶっ壊されましたよ。
非常用のバックアップ
「それで、
「ポンコツ? それって美和さんのお母さんの
二十歳にしか見えない綺麗な女性。
あの人ってポンコツなの?
美和さんは盛大に顔をしかめる。
「あのポンコツが
「はっ? いくら何でもそれって酷くないか? 一番言っちゃいけない言葉だ」
美和さんを養うために一人で必死に働いているんだろう?
娘の美和さんがそんなことを言ったらだめだろう。
でも、少女の美和さんは大人っぽく盛大にため息をつく。
「はぁ…だからさっきも言っただろう?
「えっ? えぇぇええええええええええええええ!?」
驚きだ。本日二番目の驚きだ。
一番衝撃を受けたのは、もちろん目の前に座る少女の豹変ぶり。
しかし、優愛さんが美和さんの実の姉か。
あの見た目が本当に年齢通りだったら辻褄が合う。
でも、引っ越しの挨拶の時に母と娘って紹介されたぞ。
「まあ、
「えーっと? どういうこと?」
なんかいろいろと情報量が多くて訳がわからなくなった。
美和さんは呆れてため息をついた。
「はぁ…脳みそは空っぽか? あのポンコツは母親のフリをしているんだ。両親が死んだことを
そうなのかな?
優愛さんがポンコツだとしても、君はしっかりしすぎじゃない?
「美和さんはどうして優愛さんが姉だと気づいたんだ?」
「戸籍を調べたからな」
当然のことのように言ってるけど、普通、小学三年生が戸籍を調べるか?
やっぱりこのJSはおかしい。
丁度話の間で、キッチンのほうからお湯が沸いた音がする。
美和さんがチラリとキッチンを一瞥した。
「お湯が沸いたぞ、ユイリ。
くっ! 最高級のお茶を出せと?
図々しいにもほどがある。何だこのJSは!
俺は心の中で文句を言いながらお茶を淹れる。
もちろん、緑茶だ。
湯飲みに注いで、美和さんの前に差し出した。
「どうぞ」
「ふむ」
美和さんが熱いお茶をフーフーして、ズズッと一口飲んだ。
カッと目を見開いて驚く。そして、感心した様子で呟いた。
「冗談で言ったんだが、本当に玉露が出てくるとはな」
くっ! 何故わかった!? 何故玉露だとわかった!?
本当に小学三年生だよね? 中身はおばあさんじゃないよね?
湯飲みでお茶を飲む仕草と言い、飲んで一息つく仕草と言い、老年した雰囲気を感じるんだけど!
「さてと、ありがたくヨモギ餅でも頂くとするかな」
小さな手でヨモギ大福を掴んだ美和さん。パクっと一口齧った。
その様子を見て、やっぱり年相応の小学三年生だと俺は思った。
小さな口にハムっと咥え、ミニョ~ンと伸ばしながらヨモギ大福を頬張る姿は、年相応でとても可愛らしいものだった。
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