花宮さんと同棲!(仮)
えぐち
別れ、出会い、そして……。
第1話:佐伯柊は家を出たい。
出会いと別れの春。
そんなものは俺には無縁のものだと思っていた。
俺は
————本日、結婚を考えていた彼女の浮気現場に遭遇してしまった。
****
遡ること、5時間前。
仕事が立て込み、休日出勤をすることになってしまった。
勤め先の会社は基本、土日祝休みで完全週休二日制なのだが、半年に一回、いや一年に一回あるかないかくらいで土曜に仕事になることがある。
それがたまたま今日だった。
仕事は順調に進み、いつもより早く終わることができた。
なので彼女の待つ家へと急いで帰り、驚かしてやろうと思ったことが運の尽きであることは言うまでもない。
家にたどり着き、玄関を静かに開ける。一番初めに目に入ったのは見覚えのない靴。自分の靴ではないと直ぐ分かった。
まだ彼女は俺が帰ってきた事には気付いていない。
この時、すぐに玄関から飛び出してしまえば良かったと今になって思う。なのにその時の俺は何故か家に足を踏み入れた。もちろん証拠となる靴を超微音カメラで写真を撮ってから。
廊下を静かに歩き、リビングに繋がる扉をゆっくりと開けると————
世の中の20代男女の浮気率は、男が29.5%、女が14.4%となっている。(ネット調べ)
理由は様々だった。純粋に恋愛を楽しみたくなっただとか、体だけで心は浮気していない。などとクソが極まったのが男の浮気の理由。女性はマンネリや寂しいからなどと、結局自分は悪くないとでも言うような理由が多かった。(もちろんネット調べ)
ともあれ俺の彼女は、その14.4%に入っているという可能性がある。正直辛い。
————開けられた扉。その更に壁を挟んだ寝室から彼女の喘ぎ声が聞こえてしまう。相手の男の名前を呼ぶ声とともに。そう————完全に黒だったのだ。
まさか自分がこんな立場になるとは思ってもいなかった。心のどこかで浮気じゃなくて、お父さんか誰かが来ていることを期待していた。(結婚前提に同棲すると挨拶済)
だが、その期待も無残に消え去る。
スマホを取り出し、ボイスメモで声を録音する。我ながらメンタル強すぎるわ。普通泣くぞ。
こうして証拠だけちゃんと保存してから、家を出た。
****
「ということがあったんですよぉ。マスター、俺どうすればいいんですかぁ~」
「どんまいとしか言えんな。逆に早めに分かってよかったんじゃない? これが結婚した後だったらきついでしょ」
このぶっきらぼうに答えるのは、café&Bar・GAKUを経営している
このBarは会社の近くでもあり、仕事帰りに一杯だけひっかけに通っていた。まあ、いわゆる常連ってやつ。
「珍しく土曜に来ると思ったら、浮気現場に遭遇ねぇ。人生何があるか分からんもんだな。やっぱり独身は自由でいい」
「他人事だからってさぁ~、もっと優しくできないの? もう今日は帰りたくない、マスター泊めて?」
「だって他人事だもんな。泊めるわけないだろ帰れよ。一杯ご馳走してやるから、それに今日はとことん付き合ってやる。何が飲みたい?」
「テキーラ!!」
「はいよ」
いつもはこの時間は家にいる。なるべく外食はしない様にして、家で過ごすことが多かった。
俺は基本的な家事はこなしていたはず。掃除、洗濯、買い物などやれる事はやってきたはず。休みだって色んな所に遊びに行っていたし、夜の方もちゃんとしていたはず。……なのになんでこうなってしまった!
えーい! 今日はやけ酒だ! 家になんて帰らんぞ! だってあのベッドではもう寝たくない。それに彼女と別れたとして、あの家にはもう住みたくない! 速攻出てってやる。契約したのは俺だけど。関係ない、出てってもらう! 家賃高いし、あんな1LDKで9万とか高すぎだろ。都市部寄りで、デザイナーズ賃貸を借りた俺も悪いけどさ!
「はい、テキーラのショットね! レモンはいる?」
「ください! はぁ! やってらんねぇ!」
ショットグラスに入ったテキーラを一気に口へと放り込む。
「くぅ~~~。胸に染みるぅ~。マスター、この辺に安い物件ないですかね」
「この辺はどこ行っても柊が住んでるくらいの家賃だろ。ないな」
冷たい。少しは考えてくれてもいいじゃん。
それから俺は立て続けにテキーラを飲んで、飲んで、浴びるように飲みまくった。
「マシュター! もういっぴゃい! ひっっぐ!」
「もうやめとけ。ここで潰れられても困るんだ。それにもう充分酔ってるだろ」
「あのねぇ、ましゅたぁ、人間ってのは嫌にゃことがありゅと、しゃけにおぼれるんだよぉ」
「お前より人生経験が長い俺に何を上から目線で言ってんだよ……ってもう寝てんじゃねーか」
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