04 温泉旅行には驚きがいっぱい

浜辺、パラソルの下で

 概要


 人称・視点:三人称・ジュディ

 時系列:本編後、二〇〇八年の夏。

 あらすじ:

 富川探偵事務所や青井家と温泉旅行に行くことになった。

 ジュディはいつもと違うリカルドの姿にますます思いを募らせる。

 夜、ゆったりとした時間の中でリカルドが尋ねてきた。

「ジュディは、子供がほしいか?」

 突然の質問にジュディの答えは。


 ★ ★ ★ ★ ★


 今日は富川探偵事務所や青井家の人達と温泉旅行に行く日である。


 ジュディはこの日をとても楽しみにしていた。

 単純にリカルドやみんなと旅行ができるのが楽しみでもあるし、普段とはまた違うリカルドの魅力に気づけるかもしれない、という期待もある。


 一緒に暮らし始めて半年がたつが、リカルドは変わらず優しいし、紳士だ。彼との生活に不満などかけらもないが、普段とは違う姿というのは貴重だと思う。


 レッシュがやってきて、三人で車に乗り込む。運転はリカルドだ。


 道中、リカルドはあまり話さない。もっぱらレッシュが楽しそうにしている。

 こういうところもいつも通りだ。


 ジュディは助手席の窓から景色を楽しみつつ、時々リカルドの顔を見る。

 真剣に前を見てハンドルを握っている姿は、すごく魅力的だと頬を緩める。


「ジュディ、リカルドに見惚れてるなぁ」


 レッシュが目ざとく指摘した。


「はい。真剣なリカルドさんも素敵です」


 さらりと返すとレッシュは「のろけられたー」とニコニコと笑っている。

 肝心のリカルドの反応は、と横顔を見ると、頬が上気してほのかに赤くなっていた。


「あ、ジュディ、海が見えるよ」


 照れ隠しなのか、リカルドが運転席の窓の方にくいっと顔を向けた。

 前方、まだ少し遠いが、リカルドの言うように真っ青な海が広がっている。真昼の日の光を浴びて、きらきらと輝く海面がまぶしい。


「わぁ……。綺麗ですね」

「信司君達は昼間は海にも行こうかという話をしていたね」

「あぁ、言ってたなぁ。淳も楽しみにしてるらしい」


 レッシュが付け足した。


 淳は青井家の息子だ。やんちゃ盛りだといつも照子が笑っている。


「ジュディは水着持ってきたのか?」


 レッシュに問われてジュディはうなずく。

 海に行くかもと聞いて、照子と水着を買いに行ったのだ。


「そりゃ楽しみだな。……リカルドは?」

「私は、浜辺には行くつもりだ。水着を持っていないので海には入らないが荷物番をしておくよ」


 ジュディは相槌をうちながら残念だなと思う。リカルドならマリンスポーツも似合いそうなのに、と。


 それからしばらく、三人で海の思い出の話をした。

 レッシュは学生のころはよく海水浴に行ったそうだ。

 リカルドは、泳げないことはないが海には入ったことがないとか。


「リカルド、遊びを知らずに育った感じだしなぁ」

 レッシュがしみじみという。


 以前に聞いた、リカルドの過去を思い出してジュディの胸がぎゅっと苦しくなる。


「でも今は、こうして楽しいことを楽しみだと思えるようになったから」


 リカルドの穏やかな一言で、ジュディにも笑顔が戻った。


 少しして、車は海を臨む温泉旅館に到着した。


 旅行の参加メンバーは、富川探偵事務所の亮、信司と透、レッシュ。

 さらに探偵事務所によく顔をだす結と彼の家族。

 そしてリカルドとジュディ。とても大所帯だ。


 チェックインを済ませて、早速海に行くことになった。

 青井家の子供達や彼らの面倒を見るレッシュ達と一緒に波と戯れて、ジュディはふとパラソルの下のリカルドに視線を移した。

 微笑みを浮かべて自分達を見ていたリカルドがジュディの視線に気づき、笑みを深くして手を振ってくる。


 普段はカッターシャツとスラックスというスタイルが多いリカルドだが、今日は半袖のTシャツとジーンズだ。細いのにたくましい彼の体格が強調されている。

 一緒に暮らして、彼の素肌に触れることもあるというのに、どうしてだろうか、今のリカルドの方が肌をさらされるよりも色気があるように思えてしまう。

 などと考えて、ぽっと顔が熱くなる。


「あれ、ジュディ、顔赤いよー? ちょっと休んで来たら?」

 照子が少し心配そうに声をかけてきた。


 まさかリカルドのことを考えて赤くなったとは言えず、ジュディは照子の提案を受け入れることにした。

 リカルドの隣に腰かけると、クーラーボックスからジュースを出してくれた。


「ジュディ、水着を買ってたんだね。よく似合っているよ」


 リカルドに褒められてジュディははにかんだ笑みを浮かべる。


「来年は俺も海に入ろうかな」


 続けてつぶやかれた言葉に、ジュディの嬉しさがさらに大きくなる。

 来年と言わず今シーズン、何なら今でもいいぐらいですと言いたくなる。


 ジュディの期待に満ちた顔にリカルドも笑みを返してから、海に視線を移した。


 レッシュや結に平泳ぎを教えてもらっている淳の興奮した声がここまで聞こえてくる。

 咲子は浜辺で波が来るたびにきゃっきゃと歓声をあげて走り、そばで照子が転ばないように、溺れないように気を付けながら見守っている。


「それにしても、子供達は元気だね」

「はい。照子さん達、ちょっと大変そうですね。レッシュさん達がいてくれてよかったって言ってましたよ」


 答えながら、もしもこの先リカルドと結婚して子供ができたら、と考える。

 三人で、いやもしかすると今日のように青井家も一緒になって、みんなで遊ぶ姿を想像する。

 そうなればいいのになとジュディは笑った。


「おーい。そろそろ宿に戻る準備だぞー」

 亮の声がした。


 リカルドが「片づけを手伝おうか」と立ち上がったので、ジュディもうなずいて彼に倣った。

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