03 新年の酒

 概要


 人称・視点:三人称・リカルド

 時系列:本編後、二〇〇八年のお正月。

 あらすじ:

 ジュディと付き合うこととなって初めての正月。リカルドの部屋にジュディが荷物を抱えてやってきた。一緒に正月を祝おうと彼女が出したのは。


 ★ ★ ★ ★ ★


 クリスマスの夜に正式にジュディと付き合うこととなったリカルド。

 今まで二人で会っていた頃とそう変わらない。ただ、それをデートなのだと胸を張って言えると思うと嬉しさもひとしおというものだ。


 そしてあっという間に一週間が過ぎ、新年を迎えた。

 いつも一人で迎えていた新しい年の朝も、今日は違う。

 もうすぐジュディがやってくる。


 リカルドは自然と笑みを浮かべながら、なんとなく落ち着かないので部屋を掃除していた。年末に一通り掃除したのでもう片付けるものなどないのだが。


 インターホンのチャイムが鳴った。

 いそいそと玄関に向かう。

 ドアを開けると、ジュディが満面の笑みで立っていた。


「明けましておめでとうございます。リカルドさん」

「明けましておめでとうジュディ。さぁ、入って」


 リビングに行くと、ジュディはテーブルの上に風呂敷包みを二つ置いた。

 二つとも直方体で重箱だろうと思われるが、なぜ二つなのだろうか。


「富川さんから、オセチをいただきました。リカルドさんと食べてください、って」


 ジュディが風呂敷をほどくと小さい重箱が現れた。

 やはりそうかと納得しつつ、ではもう一つは何だろう、と視線がそちらに向かう。


「こちらは信司さんから、オトソ、というものだそうです」


 なんでも、お正月に呑むお酒だそうだ。


 風呂敷の中には御屠蘇おとその入った小さな急須と、三段重ねにされた大中小の平たい器が出てきた。

 えぇっと、確かこうやって、とつぶやきながらジュディが御屠蘇の準備をしている。


「この三つの器、サカズキに入れたオトソを三回ずつ、男女で交代で飲むそうなんですよ」


 へぇ、とうなずきながら、なぜ三回なのだろうかとリカルドは疑問に思うが、今調べるのは無粋かとジュディが準備するさまを眺めていた。


 ん、でも、待てよ。

 リカルドはふと、日本の結婚式の様子を思い出した。

 テレビドラマだったか何かで見た、婚姻の儀に似たようなものがあったような……。


「ジュディ、そのオトソの飲み方って誰に聞いたんだ?」

「透さんです」

「……ちょっと調べてくる」


 透の名が出て、リカルドはすぐに自室に引っ込んでパソコンでオトソの飲み方について調べたのだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「透君。ジュディに間違ったことを教えないでください」


 初出勤して早々にリカルドは透に苦言を呈した。


「あ、判っちゃいました?」


 透はにこにこと笑っている。


「あなたが教えたと聞いてすぐに検索しました」

「信用ないなぁ」

「日本の正式なビジネスの挨拶が『もうかりまっか?』だと騙した前科がありますので」


 リカルドが言うと、探偵事務所に笑いが起こった。


「あんときの結の顔は愉快だったよな」


 レッシュが大笑いしている。


「まぁでも、三々九度の練習はしておいて損はないのでは?」

「今年中かな」

「もうすぐ一緒に住むんだしなぁ」


 透、信司、レッシュが顔を見合わせてうなずき合っているのに、リカルドは肩をすくめた。


 一緒に住んで幻滅されて別れを切り出される可能性だってあるのだぞとリカルドは思ったが、何も年始から不吉な未来予想を言う必要もないかと黙っておいた。


 それに、結婚式を挙げるにしても、神前式か教会式かも決めてないし、と考えて、リカルドはふふっと小さく笑う。


 まだまだ付き合い始めたばかりでこの先どうなるのかは判らないが、事務所の皆の言うように、今年中に籍を入れられるといいなと前向きに考えるのであった。



(了)

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