02 たまには探偵らしく
概要
人称・視点:三人称・レッシュ
時系列:特に決めていないが本名に戻した後、03以降。
あらすじ:
ある日レッシュが出勤すると近隣の中年女性がぼやいていた。
彼女から依頼を受けて、レッシュは探偵らしく調査することに。
★ ★ ★ ★ ★
朝、レッシュが富川探偵事務所に出勤すると、ビルの隣でぼやいている中年女性の姿が目に入った。彼女の足元にはゴミが散乱している。
「あらぁ探偵さん、おはよう」
おばさんはレッシュの姿を見ると、うんざりとした表情の中に笑みをつくって挨拶をしてきた。
「おはようございます。……どうしたの、それ?」
レッシュは足元のゴミと、女性が手にしているほうきを見て問う。
「どうもこうもないわよぉ」
良くぞ聞いてくださいましたといわんばかりの勢いで女性が語り始めた。
今日は燃えるごみの収集日なので、女性がゴミを出しに来たら、この辺り一帯に紙やら生ゴミやら、果てはプラスチックやコンビニ弁当の容器までもがぶちまけられていた。夜のうちにゴミを出した誰かのせいで、ネコだかカラスだかがゴミをあさったのだろう。
「なんとかここまで片付けたけど、もう、参ったわ。誰だか判らないし注意のしようもないじゃない。もういっそ監視カメラでも設置したらいいのよ」
その言葉で締めくくられるものだと思ってレッシュが相槌をうつと、おばさんの口からとんでもない提案が飛び出した。
「そうだ、あなたこのゴミの出し主が判らない? ほら、探偵さんでしょ?」
いかにも名案だといわんばかりの女性の嬉々とした口調と表情に、レッシュはえっ、と息をついた。
「犯人をつきとめたら、ご褒美あげるわよぉ」
いや、ご褒美じゃなくて、せめて報酬と言ってくれとレッシュは苦笑いをもらした。
「ちょっと前にも同じことがあってね。きっともう常習犯になっちゃってるのよ。ちゃんと注意しないと、ね?」
まぁ彼女の言うとおりだとすると、確かにこれからも同じことがありそうだ。仕事場とはいえご近所さんとしては、まったくの無関係だと突っぱねるのも気の毒だ。
「判ったよ。じゃ、次の収集日付近に調べておくよ」
「ありがと。男前の探偵さん」
おばさんは、にこーっと笑ってまた掃除を始めた。
三日後の夜、ゴミ置き場の近くでレッシュと信司、透、そして亮が息を潜めて見張っていた。
ちなみに先日はおばさんの話を聞いた後、レッシュの話を聞いた亮の命令でレッシュもゴミの片付けに参加した。
ゴミを片付けてみて、おばさんのぼやきと犯人確定の必要性をレッシュは身を持って知ったのだった。
「わざわざみんなそろって来なくても……」
レッシュは信司達に苦笑を漏らす。
「いや、うちの事務所もお世話になっているビルの隣のゴミ捨て場が無法地帯になっているのはよろしくない」
亮が小声で一気に吐き出した。しかし顔は、平和な事件への好奇心で満たされている。
「そんなこと言って、ただ面白がってるだけじゃないのか?」
「そんなことはないよ。――あ、ほら来たみたいだ。カメラにビデオ、準備!」
ゴミ捨て場に近づいてくる人影に気付き、亮が告げる。レッシュがデジカメを、透がビデオを構えた。
「今、ゴミ捨て場に、周りを確かめるようにして人影が近づいてまいります。ん~、どうやら女性のようですね……。慣れている様子からして、収集日の前日にゴミを捨てる常習犯のようです」
ビデオカメラが回る中、亮が小声でレポートする。
レッシュは、ゴミを持った中年女性らしき影が収拾所に近づくところと、ゴミをおく決定的な瞬間をデジカメに収めた。われながらよく撮れていると思う。
「あーっと、ゴミを置きました。これは決定的瞬間です」
亮の声が最高潮に達する。といってもささやき声なのだが。
「さ、注意しに行くか」
ささやきレポーターの亮が、急に普通の声に戻って所員達を促した。
夜半のゴミ捨て犯は、はす向かいのビルの住人である中年女性だった。仕事の時間帯の都合でこの時間にゴミを捨てに来ていたようだ。
亮達の説得で、出来るだけ朝にゴミを出すように、無理ならせめてゴミが荒らされないようにネットでしっかりとゴミを保護することを約束させ、とりあえず今日のところは女性を帰した。
「証拠のビデオや写真をちらつかされたらなぁ。呑むしかないよな」
レッシュが笑う。さて、隣のビルのおばさんは「ご褒美」として何を持ってくるだろうか、と、ちょっとだけ期待しながら。
翌日、依頼人のおばさんから届けられたのは、大量のたこ焼きだった。
「注意もしてくれたんだってね。ありがとうねぇ、探偵さん♪ これ、おいしいのよ。みなさんで食べてね」
おばさんは上機嫌で帰っていったが、レッシュはため息をついた。
「たこ、ダメなんだよ、おれ……」
ただ働きどころではない。これはなんの嫌がらせかとレッシュはトホホとうなだれるのであった。
(了)
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