13-4 付き合いたいとまでは想われていない
「クリスマス、リカルドさんと一緒にいられるっぽい?」
久しぶりに会った照子と喫茶店でティータイムを楽しんでいると、突然、照子が尋ねてきた。
不意打ちを食らったジュディは「えっ」と言葉を詰まらせる。
「もう十二月だし、お誘いあったのかなってね」
照子が笑っている。
自分とリカルドはそう思われるほどうまくいっているように見えるのだろうかと思うと嬉しいが、実際はリカルドからクリスマスのクの字も出てこない。
「いえ。誘われてません」
ジュディの答えに照子は驚いた。
「でもデートはしてるんでしょ?」
「デートというか、一緒に買い物に行ったりご飯を食べたり、ですけど」
「それをデートって言うんじゃない」
「そうですけど」
「……好かれてる自信がない?」
照子の一言がジュディの胸に刺さった。
リカルドが自分を好いてくれているかもしれないと思う時はある。だが、どこか距離を置かれていると感じることもある。
あれからだ。
リカルドが隣人の香田の部屋を警戒するように見ていたあの日から、彼の態度に微妙な距離を感じるようになった。
「なんとなく、距離を置かれている気もして……」
ジュディは思いきって照子に相談してみた。
照子は相槌を打ち、うーん、とひとつ唸ってから応えた。
「もしかして、リカルドさんはジュディとお隣の香田さんが付き合ってるのかも、って思っちゃったのかな。それで遠慮がちなのかも」
「え? そんな。香田さんとは何もないのに」
ジュディの驚きのつぶやきを聞いて、また照子は首をひねる。
「でも、今の仮定には無理があるかも」
「何がですか?」
「ジュディが香田さんと付き合ってるかもって距離とるなら、そもそもデートにも行かない気がするんだよね。リカルドさんの性格的に。厄介事に首つっこんでくタイプじゃなさそうでしょ?」
そう言われてみれば、そうである。リカルドはそのあたりの線引きをきっちりとしそうだ。
なら、どうして?
ジュディが出せない答えを、照子に期待してみた。
「付き合ってるわけじゃないけど香田さんがジュディを好きだとは思ってるかもしれないね」
「それで、遠慮してるってことですか?」
もしそうだとするなら悲しいことだ。誰かを押しのけてまでジュティと付き合いたいとまでは想われていないということなのだから。
「可能性のひとつだよ。そうなったら、いっそジュディから告白してもいいのかもね」
「えっ、えぇっ?」
予想外だった。
「きっとリカルドさんの性格的に他にもいろいろと考えてると思うんだ。だからジュディから言うのも一つの手かなぁ、って。……嫌?」
「嫌ってわけではないですけど」
とても恥ずかしい。恥ずかしいと口にするのも恥ずかしいぐらいだ。
「ジュディってアメリカから来たわりに日本人っぽい性格だよね」
照子は、好意的な笑みを浮かべてジュディを見つめてくる。
それすらも恥ずかしいと、ジュディは頬を赤らめた。
「リカルドさんもそうだし、似た者同士なのかもね。どっちかが行動起こさないといけないわけだけど、わたしはジュディが誘ってもいいと思うんだ。もちろんリカルドさんから声をかけてもらったら嬉しいのは判るけど」
照子の指摘に、ジュディは考えさせられた。
リカルドは積極的なタイプではないのは判っている。それでももし、自分に好意を寄せてくれているのであればアプローチをしてくれそうな気がしていた。
だが彼は自分に自信が持てていない。今は以前ほどでもないと思うが、それでもまだ自己評価は低い方ではないかと思う。そういった人は、なかなか自ら他人に関われないことはジュディにも理解できる。
「そう、ですね……。考えてみます」
友人のアドバイスで気づくところもあった、と、ジュディは照子に感謝しきりだ。
(気持ちを伝えることはとても勇気がいることだけれど、わたしがリカルドさんを好きであることは、確かなことだし、誇りをもって伝えたい)
ジュディは少し前向きになれた。
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