02-3 どうリアクションをしていいのやら
住宅街から離れた大き目の公園の中を、結は怪我をした足を気にしつつ人目を避けるように走っていた。
冬の日暮れは早い。先程まで夕日が辺りを照らしていたのに、十分と経たない間にもう薄暗くなっている。結は、今はそれがありがたいと思う。
元上司であり、今は自らの愚かさ故に僻地に追いやられた加藤から渡された資料に基づき、暴力団の犯罪の裏を取りに来た。
結は人がいい。よく章彦に「いい人すぎですよ」と呆れられる。
だがさすがに一度自分を陥れようと企てた相手が反省もせずにいる様子で提示した資料を鵜呑みにするほど学習能力は低くない。
低レベルの極めし者が一人だと資料にはあったが、何があっても不思議ではないと警戒していた。
なので実際は極めし者が四人もいたのだが何とか彼らの目を欺いて行動を監視することができていた。
だがなぜか、結としては手落ちはなかったと思うのだが、引き上げる際に見つかってしまい、追われることとなった。
足の怪我は敵の一人と遭遇して受けたダメージだ。
他の三人が駆けつけるまでに何とかその場を離れることが出来たが、まだ結は彼らの包囲陣の中にいる。公園の林を利用して身を隠しつつ、どうにか突破をと狙っているのだが、彼らは連携が取れていて、このままではいずれ追い詰められる。ここは少々無理をしてでも囲みを破らねばならないかと結は決断を下そうとしていた。
周りの気配を探る。誰もいなさそうだ。
よし、と結は息を呑み、姿をさえぎる場所がない広場の強行突破を試みた。
だが十メートルほど走ったところで、四方から人影が現れた。しまったと舌打ちしつつ、もうこうなれば早々に駆け抜けるしかない。
「やっと追い詰めたぞ」
追っ手の一人が余裕めいた声で言う。かまわず結は目の前の男に走りよって攻撃を仕掛ける。
相手がひるんだ隙に横をすり抜けそのまま走り去ろうとした。
だが、さすがに黙って見逃してくれるはずもなく、後ろから闘気の塊が飛んでくる。まず結の右脚を打ち、よろめいたところに左脚を払った。たまらず地面に叩きつけられる。
すぐさま体勢を立て直して立ち上がるが、その頃にはもう追っ手に周りを囲まれていた。
これは、本気を出して闘うしかないかと結は奥歯をかみ締める。
その時。
「そこまでだっ!」
本来なら人の声が聞こえてくる高さではないところから、声が降ってくる。
「なんだ?」
「誰だっ?」
男達は声の方をかえりみた。結も視線を上げる。
広場を照らす外灯の上に、人が立っている。フットライトで照らされる主役を気取っているなら思惑は外れている。外灯の真上ではホラー映画のような演出ライトだ。ぼんやりと広がる明かりに照らされてきらきらと金色に光る髪は鮮やかできれいだが。
「その男に手を出すな。おまえらは、このジョージ・バーンスタインが相手をしてくれる」
腕組みをして芝居がかった声で言うと、レッシュ、いや、ジョージはにやりと笑って白い歯を覗かせる。まるで子供番組の正義のヒーローごっこを楽しんでいるかのようだ。
助けに来てくれたことは嬉しいし感謝もしよう。しかしその行動にどうリアクションをしていいのやらと結はひそかに的がずれたところで頭を悩ませた。
ふとレッシュと目が合うと、彼は更ににぃっと笑うと英語で言う。
「ってことで、恩を売りに来てやったぞ」
結は思わず、そんなものはいらないと言い返しそうになった。
「素直に助けに来た、と言えないのか」
更に別方向から声がする。
そちらを見なくともリカルドであることは声で判った。
「ははは。ご愛嬌ご愛嬌。じゃ、行くぞ、リ……、マイケル」
レッシュは、とんっ、と外灯を蹴って宙に舞い、わざわざとんぼを切って着地した。
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