第4話 ロクでもないやつ

 ――視線を感じる。


 しかも、称賛とか羨望の目だったらいいのだが、それは正に珍獣を見ているかのような嫌な目だ。

 俺は見せ物じゃないぞ。


 褒美が貰えると思って来ただけなのに何故こんな注目されなければならないんだ?

 ルールとか礼儀でもあるのだろうか。


 ……ダメだ。

 考えてもわからん


 ずっと人と交流してなかったからな。

 仕方ない。


 「こちらへどうぞ」


 ……奥へ勧められた。


 地下へ繋がる階段がある。


 それほど大層な褒美なのか?

 てっきり、ギルドに入るとかそこら辺だと思ったのに、面倒になってきたな。


 ……その前に、そもそも褒美は存在するのだろうか。


 「で、褒美は何なのだ?」

 「……ほ、うび? わ、私はそれについては存じ上げておりませんが」


 なんだ。

 無いのか。

 期待した俺が馬鹿だったな。


 「では、何故奥に連れていかれているんだ?」

 「冒険者以外が依頼を達成したら連れて来い、との上からの命令でして……」

 「上からの命令……か」


 俺はその言葉を聞き、少し心臓の鼓動が速くなったのを感じた。


 「会ってみたいな」

 「?」


 それにしても、妙に階段が長い。

 いつまで降りればいいんだ。


 「ここです」


 階段が途切れた先には、


 鉄製――それもかなり大きく、数十個の鍵穴がある扉があった。


 「……ここか?」

 「ここです」


 受付の女は、そう繰り返した。


 「本当に何をするのか聞いていないんだな?」

 「はい。私の仕事はここまでですので」


 この扉……俺は明らかに歓迎されてはいない様子だろう。

 閉じ込める気満々だ。


 「私もこんな所で何をするのか不思議ではありますが……頑張ってください」

 「あっ……ちょっ……まっ」


 彼女はそう言い残し、戻っていってしまった。


 一人になってしまった。


 「誰もいないな。待てばいいのか?」


 しかし、幾ら待っても誰も来る気配はない。

 鍵も渡されていないため入れもしない。


 ……理由はわからんが、あの女のイタズラなのかもしれんな。取りに戻るか。


 しびれを切らし、来た方向へ向きを変えた時。


 「「ガチャッ」」


 その音は小さかった。

 しかし、俺に大きな衝撃を与えるのには十分だった。


 「内側から、聞こえた?」


 そう、確かにその扉の内側から聞こえたのだ。


 ――誰かが内側から開けたのか……?


 扉がギィーー、という音を立てて開き始めた。


 「誰だ?」


 その奥の暗闇から目の下に隈があり、猫背のいかにも不健康そうな若い男が出てきた。


 「遅くなってすいません。鍵を開けるのにてこずったもんで。

 私はノクシャスという者。ここからの案内役です」


 俺が会う奴はこいつじゃないのか。

 こんな所にいるのだから、どうせロクでもない奴だろうけどな。


 「それでは付いてきてください。暗いですから気をつけて」

 「あの、聞きたいことが」


 そう言い切らないうちに、男は歩き出した。


 俺はそれに付いて、扉の中に入る。


 暗い。

 一面真っ黒だ。

 1メートル先が見えない。

 なのに、このノクシャスとかいう男は立ち止まらず歩き続けている。

 内側から出てきたし、ここで誰かと暮らしているのだろうか。


 「これから会うのはどんな奴なんだ?」

 「……静かにしてください」


 怒られてしまった。

 俺とは話したくないようだな。


 そんなことを考えていると、ノクシャスが急に立ち止まった。


 「テセウスさん!! お連れしました」


 その瞬間、パチッという音とともに周りが明るくなった。


 「ま、眩しっ」


 周りが見えない。


 「すまんすまん。君を試していただけだよ」


 ノクシャスとは違う――貫禄のある声が聞こえた。


 「試す? 何のこと――」


 目が光に慣れ始めた時、戦慄した。

 俺とノクシャスは、幅が30センチほどしかない鉄の棒に立っていたのだ。

 その下は――漆黒だ。

 底が見えない。


 「最初に来た奴に早速突破されるとは……驚いたな」


 ノクシャスの前に――鎧を付け、同じく鉄の棒の上に立っている男が言った。


 やはり……いたのはロクでもないやつだったな。

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