第3話 魔物との戦い

 ギルドからの依頼で、魔物討伐に行くことになった。


 話によると、他にもギルドへの加入目的で、一般人が参加しているらしい。

 自分しか回復できない俺も一般人みたいなものだ。

 冒険者たちの足を引っ張らないようにしないとな。


 俺は魔物が出現しているという、町の外れの草原へ向かった。


 「「キンッ、ガキッ」」

 「!!」


 もう戦っているらしい。

 魔物と剣で戦っているのが遠くから見える。


 「あれは……トカゲ人か?」


 トカゲ人とは俺が適当につけた名だが、その名の通り二足歩行をするトカゲだ。

 普通の人間よりデカいが、知能もある。


 「うおおおおお!!」

 「ふんっ」


 二人の男がトカゲ人に攻撃しているが、手に持っている槍で容易く凌がれている。

 苦戦しているようだ。

 周りには……トカゲ人と人間の死体が散乱している。


 あの戦いに入るか?

 このままではあの二人はいずれ負けて、転がっている死体の一部となってしまうだろう。


 しかし、回復できない回復士とバレたら、またあの時みたいになってしまうだろうし……


 幼い頃、自分しか回復できないと周りに発覚した時のことを思い浮かべた。

 胃から何かが上がってきそうになる。


 ……剣で戦ってみるか。


 ギルドから支給された剣に手をかけた。

 もちろん剣など扱ったことはないが、物は試しだ。


 俺は剣を抜き、そのトカゲ人に近づいていった。

 気づいている様子はない。

 チャンスだな。


 俺は軽く飛び、剣をトカゲ人に向かって振り下ろす。


 「また人間か!?」


 とっさに槍を剣の横に当て、軽く受け流されてしまった。


 「助太刀感謝するぜ!!」

 「……邪魔はしないで下さいね」


 彼らはそう言いながら、仕掛ける。


 一人は胴を、一人は頭を左右から斬りかかる。

 息の合った連携攻撃。

 計算されている。


 が、トカゲ人は片方を槍で受け、もう片方は頭を低くし避ける。


 「今です!!」


 避けられたほうの男が叫ぶと同時に、俺はガラ空きになった右腹に剣を向ける。


 「無駄よ!!」


 トカゲ人は槍で受け止めている一人を弾き飛ばす。 

 そして、左足を前に出し、俺の剣を受けようと最短距離で振り回した。


 「アアぁぁぁ!!」


 槍と剣が触れた瞬間――槍を切り裂き、そのままトカゲ人の腹をバターのように両断した。


 「がっっ、こんな所でッ!!」


 内臓が飛び散って倒れる。


 手強かった。

 ギリギリだった。

 もし受けきられていたら、そのまま槍で突かれ、死んでしまったことだろう。


 勝てたのはこの二人が弱らせてくれたからだ。感謝せねば。


 「な!! 蜥蜴士リザードマンを一撃で!?」


 吹き飛ばされた一人が起き上がる。


 「あんたたちが弱らせてくれたおかげだ。ありがとう」


 リザードマンって呼ぶのか。

 覚えておこう。


 「いや、あんたが強かっただけだ。あんたが近づいてきていたことにも俺らは気付かなかったからな」


 謙遜がすぎる。


 「名前はなんていうんだ?」

 「ラルグだ」

 「ラルグ……聞いたことねぇな。その強さなら有名になっててもおかしくねぇんだが。一応、俺の名はグレイだ。こいつはインス」

 「……どうも」

 「で、もう終わりなのか?」

 「ああ。俺たちは用事があるから残るが、この死体を持ってすぐ帰ったほうがいいぞ。褒美を貰えるかもしれんからな」


 褒美か。


 「そうだな。帰るとしよう」

 「じゃ!! またどこかでな」


 俺は切り落とした蜥蜴士の首をギルドに持ち帰った。





 〜ギルド〜


 その男は急に現れた。


 周りの視線が男に集まる。


 第一印象は、「異様」


 見た目は完全にただの町人。

 やる気の無さそうな立ち姿。

 服はそこら辺に幾らでもあるようなもの。

 顔には何の特徴のない、ただの青年。


 しかし、右手には蜥蜴士の首。

 腰にあるのは血に濡れた剣。


 なんの鍛錬も積んでいない町人が倒せる筈がない、と誰もが思った。


 魔力の量を感じ取れる、ごく一部の者は不思議に思う。

 奴から全く魔力を感じない。

 魔力が少ないということはよくあることだが、全くないということは、初めてだった。


 それに加えて、「魔物を倒す」という依頼を一般人に出すという、異例の案件を引き受け、遂行し、成功させた事実が、その場にいた全員に衝撃を与えた。


 男は生首をカウンターにドン、と置いて言う。


 「褒美はあるか?」


 一人の女性の職員が対応する。


 「え、えぇ。こちらへどうぞ」


 男はギルドの奥へと消えていった。


 

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