クリスマス特別読切 聖夜の囁き

海凪美波流

ラヴ&ピース外伝 -Rock Around The Clock- 聖夜の囁き

「なぁ~にが悲しくてクリスマスイヴの夜に、ガキンチョ相手にライヴやらにゃならんのだよ!」

「いや、そうは言うけど、そもそもこの無料ライヴの企画持ち込んだのアキでしょ……」

「……ま、まぁ、それは確かにそうなんだけどよ……」


 ――12月24日クリスマスイヴ


 街は色とりどりのイルミネーションで彩られ、至る所からはクリスマス気分を盛り上げる音楽と、ケーキ売りのベルが鳴り響き、街行く人々もどこか浮き足立つ。

 子供達は明日のプレゼントに心を躍らせ、恋人達はいつもよりほんの少しロマンティックな街の空気に身を寄せ微笑み合う、そんな夜。


 僕ら5人は仙台にいた。


「かーっ! イチャつくカップルの真後ろでドラムソロでもやってやりてーなぁ、オイ!」


(さすがにそれは迷惑すぎる……)


「……ヒロ……、うるさい……」

「ああ~ん? マサお前知ってんだぞ! 最近彼女出来たからって調子乗ってんだろ! やんのか、おォン?」

「まあまあ、アキもその辺にしとけよ。ボッチなのは俺も一緒だからよ」


 果たしてフォローになっているのかいないのか微妙な慰めで、シュンがアキの肩に腕を回す。


「ボッチって言うな!」

「っつっても別にボッチではないだろ。現にこうしていつもの5人が一緒な訳だしよ」

「いやヒロ……、多分それもフォローにはなってないから……」


 アキの持ち込み企画で突然決まった半ゲリラライヴ。

 周りからの反対を強引に押し切った形ではあったが、僕ら5人がやると決めた以上、それはどんな過密スケジュールだろうと決行される。


 今日は仙台、そして明日には福岡まで飛ばなくてはならない。

 チャリティーライヴの名目を取ってはいるが、実際にはオープンスペースでの無料ライヴだ。

 招待客に子供達を迎える事と、僕らの移動の都合もあってやや早めのスケジュールになっている。


 仙台に到着したその足でリハーサルを終え、「うまい物が食いたい」と喚き続ける僕らに呆れ果てたマネージャーが、無理矢理時間を作ってくれたのが2時間程前。

 後1時間もすれば開場になるので、正直そろそろ戻らないとマズイ時間だ。(と言うより、戻ったら確実に怒られる)


「しっかしさみーなぁ……。まぁ仙台だから当然っちゃ当然だけど」


 寒いのが嫌いなシュンが、マフラーを巻き直してそんな愚痴を零す。


「それもあるけどよ……、ほら、見てみ」


 ヒロの言葉に釣られて見上げると、空からは丁度綿毛の様な粉雪がハラハラと舞い降り始めたところだった。


「ホワイトクリスマスなんて随分久しぶりだね……」

「……東京じゃ……滅多にない……」

「こんなにムード満点だってのに、こっちは野郎5人とは泣けるな」


 ヒロがそう呟いてから、いつもの癖で肩をすくめた。


「……でもガキンチョどもが寒くないように、会場戻ったら相談しないとな……」


 口では何だかんだ言っていても、結局アキはこういう奴なのだ。



 その時――


(・・・くが・持つ・・力を・・・、・して・・・・その優しさ・・、素晴らしさを・・・・)


「え? 皆何か言った?」

「いや、俺じゃねーよ。イッチーじゃないのか?」

「どうせいつものアキの悪ふざけだろ」

「いや、俺じゃねーし! ってか怪談には季節外れすぎるだろ」

「……僕でも、ない……」


 突然どこからともなく響いてきた声に、全員揃って困惑の表情を浮かべる。


「なんだろ……。『音楽が持つ力を、そしてその優しさと素晴らしさを』?」

「ああ、それそれ」

「俺にもそう聞こえたぜ」

「俺も同じだ」

「……僕も」


 どうやら聞こえたのは全員同じ言葉らしいけど、だからと言って意味も理由も全く分からない事には変わりがない。


「けど、なんか……、凄く優しい声だったね……」


 もう一度見上げてみるが、もちろんそこには声の主もその手掛かりすらもなかった。

 ただ徐々に強くなり始めた雪が、イルミネーションの光を受けて目まぐるしく色を変え、風に乗って揺れ踊る様はとても幻想的な光景だった。


「あっ、そろそろ時間ヤバイ!」


 突然叫んだヒロの声で一気に現実に引き戻される。


「そうだね、急いで戻らないと」

「まぁどうせ体はすぐにあったまるだろ」

「観客もあっためてやらないとなぁ、ククッ」

「……飛ばしすぎないように、ね……」


 親指を立てて笑い合うと、そのまま揃って会場への道を駆け出す。


(今は僕らを、僕らの演奏を心待ちにしてくれている人達がいる)


 今日も、明日も、明後日も、その人達の為に僕らの旅は続き、いつかあの声の主とも出会える日が来るのかもしれない。


 それは遠い未来の事かもしれないし、もしかしたらそんな日はやって来ない可能性だってある。


 けれど僕には、必ずその日は来るという不思議な確信だけがあった。


 いつか訪れるその時までは、今出来る事を、この愛すべき仲間達と共に。


 視界に入った会場が徐々に大きくなるにつれ、僕らを呼ぶ歓声もまた、少しずつ、少しずつ、そのヴォリュームを上げていく。


 今夜も賑やかな夜になりそうだった……。

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