第39話 父と娘

美香と新居を見て回った後、俺達は新年の挨拶ということで美香の実家に向かっていた。

今日はお店の方も休みで美香のご両親も住居の方に居るはずだ。


「ただいまぁー」

「お邪魔します」

「おかえりなさい美香。それに洋さんもいらっしゃい。今年もよろしくね」

「はい こちらこそよろしくお願いします」


家に到着すると美香のお母さん(由香さん)が玄関で出迎えてくれた。

俺よりも当然年上なわけだけど昔から見た目が若いというかかわいらしい感じな人で年齢をあまり感じさせない。

美香は由香さん似だと思うけど・・・となると美香も将来は由香さんみたいな感じになるのか?


「あれ?お父さんは居ないの?」

「そろそろ帰ってくると思うけど、町内会の手伝いで福引係りやってるのよ」

「あ、年始の福引か!」

「そ。今年は町内会の当番でね。さ、とりあえずいつまでも玄関に居ないで上がってくださいな」


俺と美香は居間に案内されお茶を飲みながら博嗣さんの帰りを待つことになった。


「そういえば、年末年始はご実家だったのでしょ?」

「はい。おせちを食べながらノンビリしてきました。もっとも親父や兄貴は年末年始の挨拶回りで忙しそうでしたけどね」

「そうね。私達も年末ご両親にご挨拶には行ったんだけど相変わらず忙しそうだったわ」

「まぁあの人たちは半分仕事が趣味みたいなところもありますからね」

「確かに好きじゃなければ中々続けれられないわよね」


と親父達の事などを由香さんと話をしていると


「ただいま~」


と博嗣さんの声が聞こえた。帰ってきた。


「あ、お父さんおかえりなさい!お仕事お疲れ様」

「博嗣さんお邪魔してます」

「おぅ美香おかえり。それに洋も良く来たね」


ちょっと顔が赤いのは福引所で軽く飲んだのかな?


「美香。博嗣さんも帰ってきたし例の件」

「あ、そっか」

「ん?俺達に何かあるのか?」

「お父さんとお母さんって今週末お店休めたりしない?」

「今週末って土曜日か?別に休めないことはないかけど どうかしたのか?」

「うん。洋さんの知り合いが箱根で温泉旅館やってるんだけど、お父さん達と行って来たらって予約が取ってくれたらしいの。ほら、前にお母さん温泉行きたいとかいってたでしょ」

「・・・・ありがたいが、お前ら忙しい時期だろ?美香だって準備があるんじゃないのか?」

「ええ。準備はあるんですが、美香さんの方の準備はあらかた終わったので、後は僕の方で何とか出来るかなと。よろしければ家族水入らずということで行ってきてくださいよ」


本当のところはまだやることあるんだけど・・・まぁ何とかなるだろ。


「・・・・ありがとうな洋。気を使ってくれて。本当美香もいい男捕まえたな」

「でしょ!」


何だか博嗣さん涙ぐんでるけど・・・やっぱり美香は1人娘だしな。


「よ~し!洋!今日は飲むぞ!」

「はい。お付き合いさせていただきます」


この日は夜遅くまで俺のバイト時代の話や美香が小さかった頃の話などの昔話で盛り上がった。


「でな、そん時に美香が言ってたわけだよ"私、お兄ちゃんのお嫁さんになるの"ってな。美香は当時まだ幼稚園児だったけどもそれまで"お父さんのお嫁さんになるの"とか"お父さん大好き"とか言ってくれてたのにだよ?それ位洋は美香に好かれてたんだよ。それにな洋が大学に行くってことでバイト辞める時も泣いちゃってもう大変でさ・・・ほんと当時は洋に嫉妬したさ!

 それがさ、中学、高校、大学と学校に通ってる間、今度は彼氏とか男の話とか全く聞かなくなったんだよな。これはこれで親として不安でな。ちょっと心配し掛けた矢先"私この人と結婚します"って連れてきたのが洋じゃねえか。洋がバイト辞めてからの20年近くの間に俺は何度か顔を合わせてたけど美香は接点なかったからな。本当驚いたさ」

「・・・お父さん。その話3度目だからね。それに・・・結構恥ずかしいし」

「ん?そうか?じゃ別の話だな。そうだな・・・・・」


博嗣さん完全に酔ってるよな・・・


結局この日は同じ話を5回聞いたところで博嗣さんが寝入ってしまったのでお開きとなった。

そして、博嗣さんを寝室に連れて行った由香さんが俺達に話しかけてきた。


「ありがとうね。洋さんも美香もお父さんの話に付き合ってくれて」

「いえ。昔話とか楽しかったですよ」

「博嗣さんも寂しいのよ美香が遠くに行っちゃうみたいでね」

「・・・でも家も近所だし、ちゃんと今まで見たいに顔も出すよ?」

「気持ち的な問題よ。一人暮らしで家を出るのとお嫁に行くのではだいぶ違うと思うわよ。でも顔出せるなら出してくれると私も嬉しいわ」

「うん」


と由香さんは俺の方を向いて真剣な顔で告げた。


「洋さん。美香の事を頼みますね」

「はい 必ず幸せにしてみせます」


俺が返事をすると安心したのか表情を緩めてくれた。


「さ、2人共お風呂入ってきちゃいなさい。もう遅いしね。

 洋さんは客間に布団を用意しておいたから使ってください。あ、もしかして寝るのは2人一緒じゃないと寂しいかしら?」

「え、あ、大丈夫です。はい」

「ふふ。まぁ次に泊まりに来るときは式も終わってからだろうし別れて寝るのは今回だけだろうから我慢してね♪」

「お お母さん!」


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週末。冬空ながらもいい天気となった土曜日。

美香はご両親と箱根の温泉街を満喫したそうだ。

ちなみに宿泊した旅館は会社の後輩の実家だ。

人気の旅館らしいけど後輩の伝手で比較的予約も取りやすい。

俺も今度美香と一緒に行こうかな。

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