おまけ。サンフランシスコ観光

 サンフランシスコで明治と再会し、念願のお付き合いをする事になったちよ子は、その翌日、宿泊しているホテルのロビーで明治と待ち合わせをした。


 昨日は明治の職場FBIに弾丸突撃してしまったちよ子だったが、明治は夜勤の仕事があり翌日にまた会えるとの事だった。なのでアメリカに到着してからまだ明治とは一時間程しか会えていない。


 午前十時。ホテルの正面扉から待ち合わせの男、菅原明治が走ってやって来た。


「やーん、ちよ子ちゃん、会いたかった〜!」


 泣きながらちよ子に抱きつく。それをベリッと剥がして「おはよう」と挨拶を交わした。動悸が止まらない。明治と会えてとても嬉しいと思いながらも、ちよ子は恥ずかしくて堪らなかった。頰を赤らめながらも明治を見つめてふと気付いた。


「明治くん、なんだか目の下に凄いクマが出来てるけど、ちゃんと寝て来たの?」


「一睡も寝てない☆」


「ちゃんと眠って来てよ」


「ちよ子ちゃんに会いたくて眠る時間が惜しいんだも〜ん」


「そう言ってくれて嬉しいけど、焦らなくても三ヶ月滞在するし……。明治くんが寝不足で仕事ミスして怪我する事が心配」


 昨日はインターネットでFBIの仕事について調べてみた。日本語ではほとんどの情報が載っていなくて、分かったのは刑事のような仕事ということ。国際的な犯罪を取り扱っていて、殉職する捜査官もいるようだ。


「じゃあ、ちよ子ちゃん一緒に寝てくれる?」


「寝るか」


 ホテル近くのカフェでコーヒーを飲み、路面電車風なケーブルカーに乗って、サンフランシスコで有名な観光地フィッシャーマンズワーフに連れて行ってもらった。海沿いで蟹や海老、シーフードのお店がたくさんある。

 木造二階建てのショッピングモールには、スーベニアショップやレストラン、新鮮なフルーツが並んだ市場があった。

 レストランではパンをくり抜いた中に入った名物のクラムチャウダーを食べ、その後は、波止場に向かいデッキの上でぎゅうぎゅう詰めに寝転がっている大量のアシカを見て楽しんだ。



 夜、ちよ子は宿泊しているホテルに戻った。明治はホテルのロビーまで見送ってくれた。また明日会えるのだけれど寂しい。握った手を離すのが辛くなりながら、ちよ子はハッと思い出した事があった。


「あ! 忘れてた! 田中さんのお土産渡すね!」


「え、あ、うん……」


 ちよ子は急いで部屋に戻り、またロビーに戻ってきて『麻布ばな奈』三箱と、『御菓子城 紅いもタルト』一箱、それと産まれたばかりの娘さんの写真をロビーのソファーに座っている明治へ渡した。


「た、食べられる……?」


「まぁ、職場に持ってく……」


「そか、良かった……」


「そういえば、ジャスミン、会社の同僚がちよ子ちゃんにまた会いたがってたよ」


「ジャスミン?」


「ちよ子ちゃんを案内してた女性」


「あの方が……。……そういえばChocolateって呼ばれた気がするのよね」


「あぁ、うん、俺が日本でちよ子ちゃんの警護してたと言ったら、みんなしてChocolateって言うようになって」


「あぁ、そういう事……」


 事務所で職員達に拍手されたのは、既にちよ子の存在をみんな知っていたからなのだろうか。



「あとね、田中さんと明治くんて、どんな関係なの?」


 明治と田中はお互いの事をとてもよく知っている気がする。今回、田中にはとてもお世話になったし、ちゃんと知っておきたいとちよ子は思っていた。


「家が近所で母親同士が仲良くて、俺が生まれた頃から何故か世話してくれてる。SSボディーガード協会にも入社して……。田中も元々はアメリカ生まれなんだけど、俺が小学生の時に一緒に日本に渡って、それからはずっと日本で住んでるね。奥さんも日本人だし」


「そうなんだ。長い付き合いなんだね」


「うん。まぁ、過保護だからたまに会うくらいが丁度いい」


「親みたいね」


「ははは。……もう一人、親や兄のような存在の男がいたんだけど……。今度日本に帰ったら一緒に墓参り行ってくれる? ちよ子ちゃんが俺の命を救った人で、……大切な人なんだよって紹介したい」


「うん、分かった」


 ちよ子は優しく微笑み、そしてお互いに見つめ合った。

 そろそろ夜も遅いので帰宅しなければいけない時間だ。


「……ちよ子ちゃん、ぎゅーしていい?」


「……ちょっとだけね。人多いし、ロビーだし……」


 ちよ子がごにょごにょと言っていると、明治は優しくちよ子を抱きしめたのだった。



〈終わり〉

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