第17話 明治の過去 (前半)
十年前。20XX年。KIRA本部。
「明治、データは持ったか?」
「ん、ここに」
端正な顔立ちの十五歳の少年、菅原明治がUSBメモリを八木へ見せる。
明治と八木は、犯罪組織KIRAに構成員を装い潜入していた。現在、KIRAグループのトップ
「やっと帰れるね。花さん怒ってるかな?」
「かもなぁ、結婚式延期になってしまったからなぁ」
八木健介は
「結婚しなくていいんじゃない?」
「まだ言うか」
「色々と足枷になるよ」
「明治、お前はまだ本物の愛を知らないんだな」
「なんだよそれ」
「自分より大事だと想える相手。そんな相手に出会えるといいな」
「なんだよ、それ」
明治は舌をベーっと出した。
明治は八木とKIRA本部の通路を歩いていた。もうこの廊下を歩くのも今日で最後。明日には一斉に警察の捜査員が訪れる。
「八木、こちらへ来てもらおう。菅原もだ」
組織の男が部屋へ案内した。明治は嫌な予感がした。しかし計画は完璧なはずだ。手に汗を滲ませながらもいつも通りの態度で男に従った。
部屋の扉が開き、前を歩いていた八木が絶句した。明治も部屋の中へ入る。すると広い部屋の奥に吉良吉良之助が革張りの肘掛け椅子に座り、その後ろに二十人程の黒服の構成員を従えている。そして吉良の少し手前には、手足を縛られ椅子に座らされていた――
「花!!!」
八木が叫んだ。
花は口を布で縛られている。八木だけをしっかりと見つめ何か喋ろうと唸っている。
「盗んだデータを返して貰おうか」
吉良の側近の黒川という黒服男が鋭い目を八木へ向けて言った。計画が漏れていたというのか。明治は血の気が引き心臓が激しく脈を打つ。
「何のことだ」
「またまた冗談を。君には驚かされたよ」
黒川は様子を伺いつつも明治については言及していない。組織内で八木と行動を共にすることはあまりなかった為、明治も潜入者だと言う事はバレていないのかもしれない。
「データなんて知らない。なぜ俺の恋人がこんな事になっている。花を返せ」
「あくまでしらを切るつもりか?」
黒川が花のこめかみに銃をあてた。
明治はいつでも戦えるように整えつつも、どう行動をすれば良いのか分からなかった。長い時間が流れたように感じた。黒川の銃を持つ手に力が入る。
「待て! データを隠した場所まで案内する!」
「ほぅ……。その前に」
黒川の合図で黒服の男達が八木にボディーチェックをした。明治も行われる。
「出ました」
黒服男の一人が八木の懐からUSBメモリを取り出した。すぐさまパソコンへ挿入し中身が確認される。黒服男が「これです」と言った。
「お疲れ様」
黒川は黒服達に目配せをした。そこからはもう思い出したくない惨状で。
人が死ぬのは一瞬。もう何をしても助からない。ついさっきまでは隣で笑っていたのに。
八木と花は拳銃で撃たれて即死した。現実を受け入れたくない。直後、明治が吉良之助へ発砲した銃弾は僅かに吉良之助の頭部をかする。二度目の発砲は出来そうもなく考えるより先に身体が動き、その場から逃げ出した。無我夢中で走り確保していた逃走ルートへ向かう。途中からはKIRAも分からないであろう道。尾行がない事が分かってからも走り続けた。全身泥だらけになり傷だらけになりたどり着いたのは町の交番。本物のUSBメモリを持っていたのは八木ではない。八木が持っていたのは遅効性ウイルスが搭載された偽物のUSB。八木の死は絶対に無駄にできなかった。
八木健介と明治が得た情報により、KIRAグループに一斉に捜査員が駆け込み、KIRAは大打撃を受けることになった。黒川は逮捕。明治に怪我を負わされた吉良吉良之助は捕まることはなかったが、組織の規模は縮小した。
健介は知らないだろうが真実の愛は明治にもあった。健介は親に構ってもらえなかった自分の面倒を見てくれた、大切な存在の人だった。だけどもうそれを伝えることは出来ない。
出来ることはやった。あとは健介と花を救えなかった罪、逃げ出した罪に制裁を――
明治は自らのこめかみに拳銃をあてた。
健介に逢えるかな――?
「駄目!!!!」
大声にハッとする。見ると隣には学生服を着た女がいて拳銃を両手で押さえ込んでいた。
これが坂部ちよ子との初めての出会いだった。
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