未来とは 第十四部
「さて、そろそろお開きにしようかな」
「そうですね。それでは、こちら持って帰ってもいいですか?」
「あぁ、構わないよ」
坂波さんの手には二つの手紙の封筒が握られていた。一つは坂波春と書かれたものが。そしてもう一つには園田綾と書かれてあったものが。
「それじゃあ、倉庫までタイムカプセルを僕が持ちますね」
「ありがとう、緑川くん」
蓋のしまったタイムカプセルを両手で持ち上げて、席を立つ。そんな俺の後に坂波さん、最後に三原先生が立ち上がり、そっと席を机の下へと押す。
最後に立った三原先生が教室を出るために歩き出してから、その後を着た時同様に僕たち二人はついていき、最後に教室を出た坂波さんがゆっくりと教室の扉を閉めた。
「そういえば、緑川くんはどこに住んでいるのかね?」
階段を先に降りている三原先生からふいに質問が飛んできた。
「ここから電車などを使って、数十分ほどのところです」
「なるほどな。そんな君と、ここに通っていた園田と坂波が巡り会い、こうして話す機会を持つなんて、本当に人生は何が起こるかわからないな」
「本当ですね。でも、先生は私たちよりもそんな出逢い多いんじゃないんですか?」
「そうだな。教師をしていれば必ず一年に一回は何十人もの人と出逢うことになる。さらに、生徒の親御さんも含めればその倍以上。しかし、自分の学校の生徒と出逢う。そういう意味では珍しいのだよ」
「言われてみれば……」
「それが不満というわけではない。ただ、自分たちが住んでいる場所とは違う場所で生活し、生きた人間というのは同じ人間なのにどこか違う。極端な例で言えば、日本人と外国人の言語が違うようにな。それは、同じ日本人でもそう。暮らしているのが東と西で違うだけで言葉遣いが変わり、食が変わる。そうやって細かく見ていれば、この街に住んでいる私と、ここから少し離れた場所に住んでいる緑川くんも全く別な存在と言えるんだよ」
「本当、ですね──」
今の三原先生の言葉を違う言い方をすれば、三原先生は自分と俺の何かが違うと感じたということだろう。
その違いが何かがわからない。年の差や、身長の差という明確な違いはあれどそれだけならわざわざこんな言い方をしない。見た目ではなく、中身。人間の本質的な部分が違う。そういう風に今日の僅かな時間で三原先生は感じ取っていたのだろう。
「だめだな。歳をとると、どうしてもこんな堅苦しい話になる」
「素晴らしいと思いますよ」
「いやいや、もっと気楽な方がいい。それこそ君たちの担任をしていた時みたいにね」
「あれは、少しやめたほうがいいかと……」
「なに?」
数年越しの教子のカミングアウトに呆気を取られる三原先生に、そんな先生の懐かしいような、おかしい姿に坂波からは自然と笑みがこぼれる。三原先生は弁明の余地を俺にまで求めてきて、誰もいない後者には大人と、まだ大人になりきれていない子供の笑い声が響き渡った。
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