未来とは 第十二部


 三原先生は机の上に両腕の肘をついて、手のひらを重ねる。そして、ゆっくりと口を開くのであった。


「先ほども少し話したが、園田は意志の強い生徒だった。しかもとんでもなくね。小学生のそれではなかった。いや、小学生、子供ゆえの勇敢さとも言えるが、他の子とは比べ物にならないほど意志の強い子供であった」


 坂波さんが引っ越すということで、彼女の親の元まで赴き、ことの真意を聞いているという話を聞いているだけに、三原先生の言葉もスッと自分の中に落ち込んでくる。


「それに頭も良く、リーダーシップもあった。坂波をはじめとする、多くのクラスの生徒が園田のことを尊敬していたと思うよ。あんなにできた小学生を見るのは初めてだったよ」

「小学生が他の生徒に尊敬していたのですか?」

「緑川くんが不思議に思うのもおかしくない。小学生なんてまだ子供なのにも関わらず、相手のことを敬うようなことがあるのか。なんてね。しかし、私が担当していた彼女のクラスではクラスのみんなから彼女は尊敬されていた。坂波はどう思うかね」

「先生のおっしゃる通りです。当時、私たちはみんな綾ちゃんのことを尊敬してました。自分もこんな風になりたいって」

「そうだろう。でなければ、あれほどの一体感はないからな。園田のいた時の運動会なんかはすごかった」

「そうですね。私たちが六年の時は綾ちゃんのおかげもあり優勝しましたから」

「チーム分けとかって、どうなっているんですか?」

「私たちの学校はたしか、三つか四つの色を作って、それぞれの色に各学年のクラスを振り分けていく感じでしたよね?」

「そうだ。坂波の言った通りだ」

「なるほど」


 小学校は一から六までの学年があり、各クラス三十人前後の生徒がいたと仮定して、単純計算、総勢百八十人もの生徒たちを動かすことになる。流石にそれだけの生徒を綾さん一人で動かしていたとは考えられないが、それに近しいことをやっていてもこの際不思議ではない。気になるのは小学生であった彼女がどれほどの印象を与えることを周りにしていたか。彼女の存在の大きさである。


「こんなことを言ってはあれだが、園田はリーダーでもないのに、その時のリーダー以上に動き、一つのチームをうまく動かしていたよ。低学年たちの世話に始まり、中学年との関係の構築。普通はそういうのは私たちのような教員が助長させるものだが、その必要は全く必要なかったよ。おかげで、あの時の私たちは純粋に応援していたものさ」

「園田さんはリーダーじゃなかったんですか?」

「そうだよ。あの時は確か光田という生徒と、副リーダーにえっと……」

「神崎さんですよ」

「そうそう。リーダーに光田という男子生徒。副リーダーに神崎という女子生徒が立候補して頑張ってくれていたよ。彼らたちもしっかりと自分たちの役目を果たし、行動してくれた。誰よりも声を出し、誰よりも運動会のことを考えてくれていたよ」

「懐かしいですね。運動会の翌週に学校に来た時、光田くんに至っては声がまだ枯れていて、みんなで笑ってましたね」

「そうだったな。あれは傑作だった」

「先生も授業でわざと指名したりして……」


 三原先生と坂波さんが運動会のことで思い出に華を咲かせている隣で、俺はあることに気がつく。そして、これまでの綾さんのことについて思い出しながら、その気づきが正しいかどうかを確かめていく。


「そうそう、授業で思い出したが……」

「なんですか、三原先生?」

「坂波は知っているかもしれないが、園田はすごく稀にだが国語のテストで低い点数をとっていたんだよ」

「そうですか? 私はあまり覚えていませんが……」

「いや、低いと言っても七十点くらいなんだ。他の生徒ならおかしくはないのだが、園田に至っては八十点取ることだってあまりない。にも関わらず、国語のテストに至っては度々七十点を取っていたんだ」

「そう言われてみれば、見たことがあるような……」

「なんか原因でもあったんですか? 体調が悪かったとか」

「いや、私もその時気になって本人に聞いたが、特にそんなことはなかったな。だから、今でもあの時のことが不思議でしょうがないんだ」

「そうなんですか……。でも、テストで七十点取って不安になるなんて、綾ちゃんらしいですね」

「全くだ。園田以外ならまずないな」


 話をしている二人の横で、一人その原因について考えてみるが全く答えが出てこない。単純に勉強不足であったり、テスト範囲を間違えていたなんてことも考えられるが、国語のテストだけというのが妙に気になる。

 何かあるのではないかと調べるだけには価値があると確信する。

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