未来とは 第十一部


「高校生になった坂波と話したいこともあるが、それよりも今はそのタイムカプセルの方が大切だろう。開けて見たらどうだ。坂波」

「はい。そうします。ありがとうございます」


 ゆっくりとタイムカプセルの封が坂波さんによって開けられる。

 坂波さんや綾さん達が残した小学生での思い出がその中には何枚もの手紙になって出て来たのであった。


「手紙。ですか……?」

「そう。私たちは未来の自分たちに手紙を書いたの。それをタイムカプセルに入れて、成人式を迎えた時にみんなで見ようって言ってね」

「他の卒業生達も手紙を書いてるんですか?」

「いや、それは違うよ緑川くん。私の担当したクラスだけでも坂波達のように手紙を残した生徒や、それこそ思い出の品々を入れている生徒達もいる。それぞれの年、クラスによってタイムカプセルに込める想いの形は違う」

「なるほど」


 坂波さんはタイムカプセルの中に入っていた手紙の中から自分のものを探し出す。手紙の表側であったり、裏側のどこかに生徒達の名前が書かれてあり、当然ながらそのほとんどの名前は見知らないものであった。しかし、ある人物の手紙が視界に映る。


「あった」


 そう言いながら、一つの手紙を坂波さんは取り出した。その手紙の裏側には“坂波春”と名前が書かれてあった。

 手紙の封を開けて、そっと小学六年生の頃の自分が書いた手紙を読んでいく。そして、1分ほどの静かな時間が経過して、坂波さんからは笑みがこぼれる。


「すみません、一人で読んでしまって」

「いえ、坂波さんが自分にあてた手紙ですから、当然のことです」

「坂波のことだ。未来への自分にも園田のことでも書いていたのか」

「えぇ、そんなところです」

「坂波は本当に園田と仲がよかったからな」

「本当に懐かしいです……」


 手紙に向けている坂波さんの目は細くなり、手紙を持つ両手には少しばかりの力が入り、くしゃっと紙がシワを作る。


「今更だが、今でも坂波と園田は仲がいいのかね?」


 不意に向けられた三原先生の言葉に坂波さんはとっさに返答ができない。その十秒ほどの間に違和感を感じたのか次に口を開いたのは質問した三原先生であった。


「すまない。卒業してすぐに引っ越しているのに、当時のように簡単に仲良くはできないな。いやな聞き方をしてしまった」

「い、いえ! 謝らないでください、三原先生。ただ、先生の言う通りです。あれから私と綾ちゃんとの関係は終わった、といってもおかしくありません。綾ちゃんが事故に遭ったことがきっかけで再会しました。ただ、綾ちゃんが寝ている時ですが」

「そうか。これからはどうしていくつもりなんだい」

「とりあえず、今日綾ちゃんにこの手紙を届けたいと思っています」


 坂波さんの手には一つの手紙が握られていた。それはさきほどまで読んでいた坂波さんの手紙ではなく、まだ封の開けられていない“園田綾”と書かれてある手紙であった。


「わかった。君たちが再会して話すにはいいきっかけだ」

「えぇ、その通りです……」


 三原先生はそれ以上坂波さんに綾さんのことを追求することはなかった。おそらく、小学生の頃あれだけ仲の良かった二人が今まで再会するしていなかった状況からなにかを察していたのだろう。また、小学生の頃の坂波春と言う生徒をしっている三原先生だからこそわかった何かがあったのだろう。


「三原先生、少しお聞きしたいのですがいいですか?」

「どうかしたかね、緑川くん」

「当時の園田さんというのはどういった生徒だったのでしょうか?」

「ふむ。緑川くんは園田のことを知るために、今日来たということかね?」

「はい」

「なるほど。私は話しても構わないが、園田のことを語ろうとするとおのずと坂波のことも語ってしまう。坂波、それでも構わないかい?」

「はい。私は構いません」

「わかった。では、少しだけ昔話をしようかね」

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