未来とは 第十部


 坂波さんの言葉と同時に、三原先生が先導を切って歩き始め、それに俺とタイムカプセルを携えた坂波さんが後に続いて行った。


「えっと、タイムカプセルが流行っている話だったな」

「はい。先生達の影響でタイムカプセルが流行っているってどういうことなんですか?」

「あまりたいしたことじゃないが、当時君たち六年生を担当していた私と左往先生。そして、一年を担当していた岸先生と本間先生は、学生時代にタイムカプセルを経験したことがあったのだよ。君たちが入学する前の年に私を含めた四人の先生はそれぞれ六年のクラスを受け持っていたんだ。そんな時に本間先生が学生時代に埋めたタイムカプセルを旧友と掘り起こし、同窓会で思い出話に華を咲かせたという話をしてな。その話をきっかけに私達四人は六年生のクラスを持ったらタイムカプセルを生徒に勧めようってことになったんだよ」

「そんなきっかけがあったんですね」

「あぁ、さっき緑川くんが言っていたように最初は校庭にクラス全員で掘って、埋めるのもいい思い出だと思っていたがね。なにぶん、言い出したその年は全クラスがタイムカプセルをすることになって、校庭に四ヶ所も穴を掘ってタイムカプセルを埋める。さらに、それが来年も続くなんてなったらダメだってことで、当時の校長先生に怒られたんだ。だから、タイムカプセルを作った場合、埋めるのではなく、倉庫で保管するということにしている」


 三原先生の言う通り、さきほどの第二倉庫には、坂波さんが持っているようなものがたくさんあった。また、違うような入れ物のものも何個もあり、あれもおそらく歴代の卒業生たちのタイムカプセルなのだろう。

「私たちも忘れないように、坂波が持っているタイムカプセルに名前をいれないと、いつの、どの卒業生たちのかわからなくなってしまったぐらいだよ」

「言われてみれば、私たちの時はなかった名札が貼ってありますね……」


 坂波さんの持つタイムカプセルの上側には年と、クラスの名前が書いてあるシールのようなものが貼られていた。そのシールはまだ新しいように見えた。


「二年ほど前にな。先生方で第二倉庫の大掃除があって、その時たくさんのタイムカプセルが出て来て、どれがどの年の、どのクラスのものか外見だけでは見分けがつかなくてな。それで、一つ一つ開けて、中身を確認してそのシールを貼っていったんだよ」

「そんなにあるんですね。このタイムカプセル」

「あぁ、私もその時いろんな思い出が走馬灯のように流れたものだよ」


 俺たちの先を歩く三原先生の表情を見ることはできなかったが、きっと今の三原先生の表情は優しく、柔らかい笑みを浮かべているのだろう。

 三原先生の言葉に隣を歩く坂波さんもどこか優しげな表情で、自分の持っているタイムカプセルを見つめていた。あの中に坂波さんの思い出。そして、坂波さんたち、六年一組の思い出が詰まっている。それを思い出しているのだろう。


「着いたぞ」


 学校の最上階である三階まで上がりきり、階段からほど近い教室の扉を三原先生は開く。そこには、俺の通っていた小学校とは少しばかり違う教室が広がっていた。

 しかし、ほとんどの内装は同じだ。大きな緑の黒板を正面に、三十近い小さな机と椅子が並べてある。それは、縦横きっちり揃えられ、綺麗に並んでいた。


「好きなところに座ってくれ」


 三原先生の問いかけで、坂波さんが窓側の席に腰掛けたことで、その隣に俺が。そして向かい合う形で三原先生が席に着いた。

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