2話
「あの、ちょっと待っててください」
私はインターホンの通話ボタンで短く伝え慌てて着替えを探す。こんなオーク丸出しな状態で会えるものでは無い。とりあえず適当なジャージを探して手早く着替えた。
「お、おまたせしました」
私は待たせては悪いと急ぎ扉を開けた。
「ん? いやぁ、こちらこそこんな時間にごめんねぇ」
口元をマフラーで隠しながらもフワリと風が靡くような綺麗な声が奏でられ、その美しい声音とは対照的な砕けた口調で彼女は微笑む。私は年甲斐もなく熱くなる本能が勝りそうな胸の内の興奮を強く叩いて制した。
「なにやってんの?」
私の行動に首を傾げる
「ゴホホッ! ん、何でもない、無いです。それよりどうしたんですかこんな時間に?」
「ん? いやぁ、今日は「クリスマス」でしょ? 独り身同志一杯やんない?」
得留さんは片手にワインとケーキらしき箱を持ってニカリと笑った。
(そうか、今日はクリスマスだったなぁ)
こちらに来てから初めて知った習慣だが、もう何年もご無沙汰になってしまっているな。恋人も家族もいない私には関係のな……あれ?
「得留さん。彼氏がいたのではーー」
「ーー別れちった。エッチがネチネチしててダメだったわ」
え、そんな笑顔で赤裸々にアッケラカンと言われても困るんですが……。
「ほらほら「
「ちょっ、そんな強引にっ」
有無を言わさず得留さんは我が家へとヅカヅカと入り込んだ。
「ちょっ、なにをやってるんですかっ!」
我が家に侵入した途端に得留さんは一直線にテレビ横の収納ラックを物色し始めた。
「ん~、奥くんのセクシービデオのチェック?」
「!? 勘弁してくださいよっ」
私は得留さんの手からディスクパッケージを奪い返し急いで収納ラックへと戻した。
「ヒヒッ、相変わらず
「そんな親父みたいなこと言わないでくださいよ。会うたびに神秘性が薄れていきます」
「ん~、メロディちゃん? お、この娘エルフの女優じゃん。やだ、親近感ーー」
「ーーちょっ、まだ隠し持っていてっ」
遅ればせながら紹介します。彼女の名前は「
「やだぁ、クリスマスなのに、トンテキでビール? 寂しいわねぇ。チキンとか買ってくればよかったかしら?」
「ほっといてくださいよ。あなたも似たようなものでしょう。それに、私はチキンよりもポークの方が好みだからいいんです」
「あらぁ、じゃあ昨日作った
それもクリスマスらしくないメニューですね。しかし、得留さんの手料理かぁ。いや、近所といってもまた寒い中移動させるのは申し訳ない。
「大丈夫ですよ。ごはんは仕事で食べましたし」
私はやんわりと断った。食べたい気はあるが、私に彼女の手料理を食べる資格は無い。
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