11 踏み出す一歩!
「……ッ」
ルイン君も私と同じで……あのブラックホールに巻き込まれてこの世界にやってきた。
……だからかな。私がこの世界に来た経緯を当てられたのは。
自分も経験した事だから。
もしかしたらルイン君があそこまで頑張って私を助けようとしてくれたのは、同じような境遇でどこか親近感の様な物が沸いていたからだったりするのだろうか?
少し考えて……なんの根拠もない考えではあったけど、違うって思った。
ルイン君はきっと、本当に私が憧れたようなヒーローみたいな人だったんだ。
だからルイン君は私を助けた。
きっとそういう事なんだって思うよ。
だったら……つまりルイン君は。
扱っている武器以外は、憧れそのものなんだ。
「俺も行く当てがない所をあの人達に助けてもらった。だからなお前もそこに行けば何かしらの答えは見つかる筈だ」
言いながらルイン君はペットボトルをドリンクホルダーに入れてエンジンを掛けて言う
「まあ多分だけど戦う必要とかねえ安全な仕事の斡旋とかはしてくれると思うぜ。地味にそういう所のコネも強いからウチ」
ルイン君の言った言葉は何気ない普通の言葉。
多分そうなるだろうなっていう無難な言葉。
だけどそれを聞いて思わずハッとした。
一体何が引っ掛かったのか。
こんなとても真っ当な言葉のどこで引っ掛かったのか、自分でも良く分からなかったんだ。
だけどすぐに気付いた。
「ま、とにかく全部あの人らの所に行ってみてからだ。ほら乗れ、行くぞ……ってどうした? さっさと乗れよ」
私はそんな真っ当な提案をどこかで受け入れたく無かったんだ。
「……ねぇ、ルイン君。一つ聞いていいかな」
分かっているよ、器じゃないって事は。
嫌って程分かった。
私は世界にとってはモブキャラみたいな存在で、どちらかと言えばヒーローに助けられる様な存在で。
住む世界が変わっても、そんな事実は変わんない。
だけど。
今目の前に憧れそのものがいて。
そういう憧れの存在が活躍できるよう世界で。
そして。
これだけ器じゃないとかなんだとか、自分を否定しまくって、それでもまだ憧れている自分がいる。
あれだけ怖い目を見てもまだ憧れている自分がいる。
だから、少し背中を押してほしかった。
私じゃ、この先今のルイン君がそうなるに至った様に選択肢を貰ったとしても。貰えたとしても。ひよってしまうかもしれないから。
そもそも自分から言い出せないと、ルイン君が言った様な感じで終わってしまうかもしれないから。
他になりたいものなんてなにもない私が、唯一やりたい事にも手を伸ばせないかもしれないから。
だから。今踏み出さないと絶対に後悔するって思った。
「どした?」
だから……少しだけ勇気を振り絞ってみた。
「ルイン君は……その人達の所に行って、最終的に今みたいな感じになったんだよね」
「あーまあそうだな。紆余曲折あったけど、まあそういう感じ。で、それがどうしたよ」
「その……たとえばだよ? たとえば……うん、たとえば」
「たとえばなんだよ……」
「えーっと、うん……その……」
言え、言うんだ私!
一歩踏み出せ!
「えーっと……あの……私でも……その……ルイン君がやってる様なヒーローって奴になれたり……するかな?」
……言った。
今までずっと言わなかった事を。
作文を書くだけ書いて丸めて捨てた様な、夢見たいな事を。
私は今、大真面目に言った……言ったんだ。
……私なんかがそんな事言ったんだ。ルイン君、笑ってるかな?
「逆にお前がなれなかったら大体の人間がなれねえぞ?」
「……え?」
なんか凄い斜め上の返答が帰ってきて、思わずそんな声が漏れ出した。
「いやいやいや、逆逆逆! 私がなれたらみんななれるって事だよね?」
「いや、んな事言ってねえだろ? マジだって。マジな話」
ルイン君は一拍空けてから言う。
「まあミツキの言葉を借りりゃ、お前は30点だよ。致命的に色々と足りてねえ」
「む? 勝手に借りたな」
ミツキさんがむっとした表情を浮かべるが、ルイン君は完全に無視して続ける。
「でもあの状況で、自分より誰かを優先して動こうとしただけで十分凄いんだよ。中々できる事じゃねえ。そんで、それができなきゃ務まんねえんだよ、俺達がやってるヒーローみたいな仕事って奴は」
「むむ? それやっぱり殆ど儂の受け売りではないか?」
ミツキさんはムムっとした表情を浮かべるが、やっぱりルイン君は無視する。
「だからまあ、お前ならなれるよ。保証はできねえけど俺はそう思う」
保証はできないけどそう思う……か。
「そっか……よし」
決まった。
私の中で色々とふわふわしていた部分が、そう言ってもらえただけで固まった。
固まっちゃったら……なんかもう吹っ切れた。
確かに向いて無いかもしれないけれど。器じゃないかもしれないけど。
そう言ってもらえたなら、もう突き進むしかない。
「じゃあ私もヒーローになりたい。実は昔から憧れてたんだ、そういうの」
「じゃあそういう風に出来る様に、俺もうまく言ってやるよ」
そう言ってルイン君も笑ってくれる。
そして。そこまで勢いで踏み込んじゃったのなら、ミツキさんにも言っておかなければならない事がある。
「あ、そうだ……ミツキさんにも言っておかないと」
私は改めてミツキさんに言う。
「ミツキさん! 私に戦い方を教えてください!」
私はそう言ってミツキさんに頭を下げる。
「この先ミツキさんに頼ってばかりじゃ駄目だろうし、というか頼るにしても時間短すぎだし……だから、私を戦える様にしてください!」
「え? 言われなくてももう儂、主の師匠のつもりだったのじゃけれど」
「……へ?」
「そのつもりで主に着いてきとるのじゃが……やっと月下焔桜流の後継者が見つかったーって思っての」
……えーっと。
「あの、それって……私がヒーローになりたいですとか言いださなかったら、どうするつもりだったの? どう考えても剣術習う様な状況にならないよね?」
「ん? そんなの無理矢理にでも教えていた。良かったの、ちゃんと習う理由ができて」
「えぇ……」
いや、まあ確かにこの世界治安悪いっていうし、覚えておいて損はないとは思うけど……まあいいか。
「まあ、あの……うん。よろしくね、ミツキさん」
「うむ。じゃが相当頑張らねばならんぞ。楓、主にはセンスが割と普通に欠落しておるからの。あの戦いの時の様に動けるようになるまでどれだけ掛かるか分からん」
「……うん、頑張るよ」
……なんか絶対冗談抜きでそう言われてるのが分かるから、こう……すっごく前途多難って感じだなぁ。
「ま、とにかく」
ルイン君が言う。
「まずは俺の職場に行って今後の事を相談する。話はそっからだ。とにかく乗れ乗れ。俺は早くお前を事務所連れてって話纏めて、んでさっさと病院に行きたい」
「あ、うん。ごめん、そうだったね」
言いながら私も後部座席に乗り、ミツキさんも木刀に戻る。
「じゃあ出発」
そしてバイクは走りだす。
向かう先はルイン君の職場。
行く当てのない私をどうにかする為に。
ルイン君の様なヒーローになる為に。
私達はそこを目指す。
木刀を片手に。
これはポンコツな私がなんやかんや世界を救う物語。
全ての世界を救う物語。
……あとはなんやかんや異世界をエンジョイする物語!
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