2章 私がちょっとしたヒーローになるまでの話

1 ヒーローの事務所

「よし、到着だ」


「え? まさか事務所ってこのビル!?」


「ああ、このビル」


 コンビニからしばらく走ったルイン君のバイクは、10階近いビルの地下駐車場へと入っていく。

 いやーマジですっごい。大企業のそれだよ。何でも屋と自警団って言ってたけど、スケールが地方の警察署のソレとかと変わらないんだけど。


「でっかいね、スケールが。ここ全部ルイン君の職場の事務所なの?」


「地上十階。地下五階。全部ウチの……って言いたいんだけど実は違うんだよ」


「あ、やっぱり」


 うん、地下もあるのはビックリしたけど、そうでなくても流石に使いすぎだよね。借りてるのは一部のフロアだけで、後は違うテナントとかが入ってるんだよね。


「事務所移転の時に手違いで一階の一部だけ、ウチと全然関係ない定食屋が入っちまったんだ」


「それどう考えても手違いってレベルじゃないよね!?」


 一体何をどうすればそんなことになるのかな!? 全く訳が分かんないよ!?


「え、それ大丈夫なの? 素人的に考えても相当アレな状態になってると思うんだけど」


「いや、正直秘匿性のある情報とかも無茶苦茶集まってきたりするし、良い訳がねえんだけどよ……なんかこう、安くてうまいからセーフみたいな感じになってな」


「全然良くないよ!?」


「しかも先月テレビで良い感じに宣伝されたせいでよ、ウチの駐車場に勝手に違法駐車してくる奴とか無茶苦茶増えてて大変な事になってる……まあ定期的に割引券貰ってっからもういいんだけどよ」


「うん、現時点で部外者だから遠慮なく何度でも言うよ。全然良くないよ!?」


 うん、なんかね……急に自分がコレから向かう所がまともな所なのか心配になってきたよ。


 そんな不安を抱きながらもバイクは停止。

 バイクから下りて体を伸ばしながらルイン君は言う。


「よし、じゃあ案内するから付いてこい。あ、くれぐれも離れるなよ。一階のアレ以外はそこそこまともな組織やってっからよ、セキュリティとかしっかりしてんだわ。お客さん扱いのお前がうろうろすると面倒な事になりかねねえ」


「はーい」


 そう返事してルイン君の後を着いていく。


「あの乗り物での移動が終わったのなら、儂も外に出ておこうかの。あまり会話に参加できんで暇じゃ」


 そう言って木刀から出てきたミツキさんも付いてきた。


「まあ確かに木刀に入ってると私と意思疎通しかできないもんねー」


「気にせず話していたら、楓が何もない空間に一人で話し続ける頭のおかしい小娘になるからの」


「き、気遣い感謝ぁ……」


「ちなみにそんな理由で出てきたが、小僧的には不都合なかったかの?」


「寧ろ好都合だ。一応俺的には客人二人連れてきたつもりだからよ、どちらにせよ出ててもらわなきゃいけなかったんだ……っと、此処が入り口な。覚えとけよ」


 そして裏口の様な扉の前に立ったルイン君は、カードキーをスキャンし暗証番号を入力し、指紋を読み込ませて扉を開く。


「本当にセキュリティしっかりしてるんだね。ていうかそもそもな疑問なんだけどね、自警団と何でも屋って言ってたけどこんなセキュリティいるの?」


「いる」


 ルイン君は断言する。


「何でも屋とは言ったけど以来の八割は時空漂流物とかそれに伴う案件で、自警団としての役割も同じくそんなもん。だから秘匿性の高い情報も危険な物も、なんならそういうの狙ってくる輩も集まってくる。だからセキュリティレベルは上げれるだけあげた方が良いんだよ」


「……だったらね、他にやる事あるじゃん」


「ま、あそこの店主も俺が知る限り五本の指に入る位強いから……ある意味強靭なセキュリティって事でどうだろう?」


「……そだね。強靭だよ強靭」


「諦めたなこやつ……」


 うん! もうその事でツッコむのやーめた!


「まあもうその話は置いといて中入ろうぜ」


「うん。お邪魔しまーす」


「同じく邪魔するぞ」


 そんな訳で深い事を気にせずにルイン君の後ろを付いていく事にしました。

 そう言って一歩足を踏み入れた次の瞬間……なんかすんごい警報音が鳴り響いた!?

 と思ったら目の前から急にシャッターが下りてきて隔離されちゃったんだけど!?


「わ、ちょ、何!?」


「少なくとも歓迎されているようには思えないが……」


「は? なんで? なんで警報なってんだ!? パスワード合ってたし指紋認証もうまく言ったから扉開いてんだよな……はぁ!?」


 ルイン君が一番混乱してるんだけど。


「落ち着け小僧。儂はこんな訳の分からんテクノロジーはさっぱりじゃがの、主が正規の方法で扉を開けたのならば、その後に想定外の何かが起きたのではないか?」


「想定外……なんだ? 俺達以外にこの瞬間に入り込んだ人間なんていない筈だ。まさか姿消した誰かが同時に足踏み入れやがったか……いや、時空漂流物絡みの人ならざる何かに侵入された可能性も……」


「人ならざる何か……」


 この世界の知識ゼロの私が分かる筈無いと思うけど一応考えてみる。

 そして考えて一つ、すぐに答えが出てきた。


「ねぇねぇ、人間以外が入ったら警報なるんだったらさ……これ多分ミツキさんじゃない?」


「「それだ!」」


 二人してポンと手の平に拳を置く。

 なるほどどうやら大正解。やったね。

 ……じゃない!


「ねえ呑気にそんな事言ってるけど、これって大丈夫なの?」


「あー大丈夫大丈夫。俺が不安だったのはマジでやべえ何かを引き入れたんじゃねえかって所でな。俺が此処に入ってきてる事自体は監視カメラで分かるだろうし、その辺うまく説明すりゃ行けるだろ」


 ルイン君がそう言ったタイミングで、ルイン君のスマホに着信。


「噂をすればっと」


 そう言ってルイン君は通話に出る。


「あーもしもし……ええ、今カメラに写ってんのが俺がさっきダンジョンから連れてきた奴と、多分今のこの有様の原因の女で……え? そっちは写ってない? あー、なんか時空漂流物の木刀に取り付いてる幽霊みたいな感じでして……はい。ああ、やっぱ反応それだけですよね。ええ、だったら大丈夫なんで隔壁上げて貰っていいですか? は? 念のため催涙ガス流す所だった? うっそだろ危ねえ! 勘弁してくださいよ!」


 なんか丸く収まりそうだなーって思ってたら、とんでもない事になりかけてた!


「間一髪じゃったの」


「……そだね」


 主にミツキさんのせいで。

 ……いや、ミツキさん何も悪くないんだけど。

 そして一応話が纏まったらしく、警報も止まってルイン君も通話を切る。


「……やっぱミツキの話も通しときゃ良かったな」


「だとすればこれ小僧が悪いというのが答えかの」


「それ答えだね」


「答えだけどお前ら、ここまで善意で連れてきた奴に言う言葉かそれ」


「ごめんなさい」


「すまぬ」


「素直で結構……じゃあちょっと待ってろ。今隔壁上がるから」


「あ、うん」


 そしてルイン君の言った通りシャッターが上がり始める。

 ……いやー危なかったね。

 一難去ってまた一難。催涙ガスとか流されたら私泣いちゃうよ。知らんけど。

 まあとにかく危機は去った。良かった良かっ……。


「……ッ!?」


 開いたシャッターの先に黒くて格好良いスーツを着た男女が四人。


 その四人がそれぞれ拳銃とかバズーカとか色々こっちに向けてるんだけどぉ!?

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