10 この世界の事

「ほらよ、オレンジジュースでよかったか」


「あ、ありがと」


 ルイン君からオレンジジュースのペットボトルを受け取る。

 ……もう疲れたから突っ込まない。


 うん、すんごいおいしい。


「一応話だけ通してきたわ。職場の連中がとりあえずお前を連れてこいってよ」


「……で、結局ルイン君の職場って一体なんなの?」


 正直ルイン君には聞きたい事が山程あるんだけど、とりあえずそれを聞いてみる。


「そうだな……まあざっくり言えば何でも屋兼自警団みたいな? そんな感じ」


「……何でも屋」


「そ。頼まれれば悪い事以外なら何でもする様な、そういう仕事」


 あー、なんか漫画とかでよくある奴だ。

 でもまあそっちはいいとして、なんだろう自警団って。

 いや、意味は分かるけどさ。それでも分かんない事がある。


「じゃあ自警団ってのは? さっきの話だと憲兵さんは普通にいるんだよね?」


 憲兵って言ったら多分警察みたいなものだと思う。

 そんな人達がいるんだったら、なんで自警団なんてやってるんだろう。


「あーそれな」


 ルイン君は少し納得の質問とばかりにそう言ってから答える。


「この都市、治安があまりよろしくねえんだよ」


「そうなの?」


「ああ。近くにダンジョンがあるからな」


「ダンジョン……」


 さっきまで私達がいた場所だ。


「それがどう治安と関係あるの?」


 イマイチ繋がりが見えてこない。

 そしてその説明をルイン君はしてくれた。

 それは治安の悪さの原因を飛び越えた、他の私の知りたかった事への回答も交えて。


「まずあのダンジョンからはな、異世界の物が発掘されるんだ」


「異世界の……物?」


「そ。武具書物日用品。あらゆるものがあのダンジョンには次元を超えて流れつく。俺達はそれを時空漂流物って呼んでる。このバイクの原型となったものもそう。あのダンジョンから出てきた漂流物だ」


「……ッ」


「この世界も100年程前までは此処まで発展していなかったらしい。言ってしまえばお前が想像してたような世界が広がってたのかもしれねえ。だけど100年前、突然この世界にダンジョンが現れた」


「……その結果がこの世界の発展具合って事?」


「そ。この世界の人間は別世界から流れてきた次元漂流物を解析して利用した。やがて明らかに違う文明通しを組み合わせ、より高い科学力や技術力を得て発展した。それがこの世界だ。色々な世界の技術や文明が混じり混ざって今の社会が動いている。代わりに魔術は随分衰退したけどな」


「ちょっと待ってちょっと待って!」


 なんだか無茶苦茶な話を聞いているきがするんだけど……違う。無茶苦茶な話じゃない。

 他人事でもない。

 だってそうだ。


「もしかして……私やミツキさんも、次元漂流物って事?」


「……まあ、そうなるな。だからお前はダンジョンに現れた。極稀にいるんだよ、そういう人間も」


「……」


『なるほど、どうりで儂が現れた時、小僧の飲み込みが早かったわけじゃ』


 納得するようにミツキさんは言う。


『木刀にそういう力が宿っていてもおかしくはない。おそらく次元漂流物だから。つまりはそういう考えだったのじゃろうて』


 確かにルイン君は妙に飲み込みが早かった気がするけど、それはつまりそういう事なんだ。


「まあとにかく」


 そう言ってルイン君は、少し脱線した話を戻す。


「そうした富を生むダンジョンが近くにあるこの都市には、当然ダンジョンで発掘されて来た次元漂流物が多く集まる。そうした中には結構やべーのがあったり……もしくは発掘してきた凄い何かを手にした人間が、憲兵じゃどうにもできない程のヤバイ事をしでかす場合もある。だから治安が悪い」


「……そういう人達とルイン君達は戦ってるの?」


「ま、そうなるな。だから一部の人からは影のヒーローとか呼ばれてんだぜ俺達。すげえだろ」


 そう少し自慢げにルイン君は言う。

 ヒーロー……ヒーローか。

 ……ルイン君、本当にヒーローだった。

 世の為人の為、悪い人を倒す様な。

 私が憧れていたようなヒーローが……本当に目の前にいた。


「して、小僧。そこに楓を連れていってどうしようというのじゃ?」


 突然ミツキさんが木刀から出てきた。


「あ、ミツキさん急に出てきてどうしたの?」


「なにやら大事な話の様だからの。儂も加わろうかと思ってな……どうやらこの世界、儂の様なのが普通に出ていても問題もなさそうだし」


 どうやら体力回復に加えて、ミツキさんは色々と気を使っていたらしい。確かに普通にミツキさんみたいな存在が外に出てたら皆驚きそうだけど、この世界ではそれがないんじゃないかな。

 だから堂々と出てこれた。


「楓を連れて行く理由……か。まあ簡単だよ。あの人達なら今行く当ても何もないお前の手助けをしてくれると思ってな。実際俺の時もそうだったし」


 ……あ、そうだ。本当だ。

 私元の世界に戻れなかったら……行く当て無いじゃん。

 無一文。帰る家もない! 木刀しか持ってない! 武装したホームレスじゃん!


 ……って、俺の時もそうだった?


「る、ルイン君。俺の時ってのは……」


「ああ、俺もお前とと同じだよ。此処とは違う世界から来た。もう二年前になるな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る