7 ダンジョン脱出!

「ええええええええええええええなんでえええええええええええええええええええ!?」


 このタイミングでなんで!? ほんとになんで!?


「……ッ! 前に跳べ、楓!」


「うわあああああああッ!?」


 ミツキさんに言われるがままに正面に向けて跳んだ。

 すると背後から轟音。さっきまで私が立っていた所に棍棒が振り下ろされていた。


「うわっ! うわわっ……ッ!」


 その光景と音に思わず尻餅を付いて後ずさった。

 床陥没してる陥没してる! あんなの喰らったら死ぬって死ぬ死ぬ!


「み、みみみ、ミツキさん!? なんで!? なんで私の外出てるの!?」


「あーうん。さっき小僧にも一言言ったがの、そう長く戦えんのだよ。この通り霊体なのでな……時間切れという奴じゃ」


「ええええええええええええええええええええ!?」


 じゃ、じゃあどうするの!?

 さっきからミツキさんは間違いなく、なんだか不思議な技法で私の力を引きだしていたみたいだし、祖のやり方私分かんないし。分かった所でいきなりあんなことできるとは思えないし、ああ、もうこれ詰んでない?


「うわあああああああああああああああああッ!」


「まあ落着け楓」


「落着け!? 落着ける訳ないじゃん! だってもうオーガが棍棒降り上げて……あ」


 降り上げた棍棒の先に、その人はいた。


「この勝負、儂らの勝ちじゃよ」


 血塗れのルイン君が、そこに居た。


「ルイン君!」


「っらああああああああああああッ!」


 今までのミツキさんの様に高く跳びあがったルイン君は、オーガの後ろから側頭部に蹴りを叩き込む。

 轟音が鳴り響く様な、強力な一撃。

 その一撃を喰らったオーガは、そのまま地面に叩き付けられ、何度もバウンドして壁に叩き付けられる。


「っしゃ、なんとか間に合ったか」


 言いながらルイン君は3メートル近い高さから降ってきて……着地失敗!

 ドサっと地面に叩き付けられる。


「おい、小僧。最後決めておいてカッコ悪いぞ」


「……この怪我考慮すれば充分頑張った方だろうが」


 そう言いながらルイン君はゆっくりと体を起こす。

 そんなルイン君に対してミツキさんは言った。


「ま、頑張った方ではあろうな」


 そう言ったミツキさんはルイン君に拳を向ける。


「おつかれ」


「……おう」


 ああ、これあれだ。よく漫画とかで見る戦いの後で拳をコツンってやる奴だ。

 まあ実際にはコツンもなにもルイン君ミツキさんに触れられてないんだけど。


「……締まらねえな」


「仕方ないだろう、儂は霊体なのじゃから」


 ごもっともだ。だったらなんでやろうと思ったのか意味わかんないけど。


「あーくそ。ほら楓。お前ならできんだろ」


 気を取り直す様にそう言ったルイン君は、私に向けて拳を向けてくる。

 一体何を求められているのかは分かるよ。分かるけど……。


「ルイン君。私そういうのする程何かやったわけじゃないよ? というか私冗談抜きで何もやってないよ?」


「……やってんだろ」


 ルイン君は一拍明けてから言う。


「まあ確かにそもそも本来俺一人で出られた筈だし、こんな戦いも起きる事は無かった。それで戦いもそこの多分木刀に憑いてた幽霊が戦ってたんだろ? それだけ考えりゃお前は何もやってねえどころか……寧ろって感じなのかもしれねえ」


「う……ッ」


 割とオブラート包まずにザクザク飛んで来る言葉に思わずそんな声が漏れる。

 だけど何も言い返せない。事実過ぎる。正論すぎる。

 だけど、ルイン君の言葉は終わらない。


「だけどお前があそこで俺の前に出たからこうなってんだろ」


「……ッ」


「あの選択が正しかったかどうかはともかく、結果的にお前が勇気出して前出た結果がコレだ。そうだろ

? 幽霊」


「ミツキじゃ」


「じゃあミツキ。そういう事だろ?」


 そしてルイン君はミツキさんに言う。


「お前が誰でも助ける様な奴だったら、俺が楓と会う前に助けてた。違うか?」


「……あ」


 確かにそうだ。

 今こうしてミツキさんは私を、私達を助けてくれた訳だけど、でもそれよりも前に私は命の危機に陥っていたんだ。

 ルイン君に助けられなかったら、殺されていたかもしれないんだ。

 だけどあの時、ミツキさんは出てこなかった。

 もしもずっと木刀の中で意識があったのだとしたら、あの状況で傍観を決め込んでいたんだ。


「まあ、小僧の言う通りじゃな。儂はそんなに軽々しく力を貸す様な女ではない」


 ミツキさんは言う。


「ああいう力はな、センスのいい人間なら一度儂が入って使っただけで感覚である程度習得してしまう。碌でもないかもしれない奴がじゃぞ? 故に見定める必要がある。最終的に自分の弟子として迎えてもいい様な程の器がある人間かどうかをの」


 そしてミツキさんは私に向けて言う。


「そして結果的に楓。お前にはあった。点数を付けるとすればざっと30点じゃ」


「え、なに? それ貶してるの? 絶対褒めてないよね? そしてこれ褒める流れだったよね?」


「これでも褒めておるつもりじゃ」


 そう言ってミツキさんは言う。


「運動神経はゼロ。どんくさそうだし、色々と雰囲気的にもポンコツそう。実際中に入って動いても分かったが、戦いには向いておらんな」


「う、うん。褒める気無いよね」


「じゃがこれだけ酷評してもまだ30点貰えているという点を考えてみい。評価点は一つじゃ。まあ、結果的にいい選択ではなかったかもしれんが、それでも誰かの為に命を張れる。それで30点……それもできない奴は強制的に0点じゃ」


 だから、とミツキさんは言う。


「小僧の言う通り、主は何もしていないわけではない。主も十分に功労者じゃよ」


「……そっか」


「だからそんな訳で、お疲れ」


「……うん」


 こうして私とルイン君は拳を合わせ、ひとまずこの戦いは私達の勝利で終わったんだ。


 だけどまだ根本的な問題は何も解決していない。


「小僧。次に何時敵が来るか分からん。さっさと脱出の準備をした方が良いのではないか?」


「……まあそうだな。俺も限界、アンタも多分時間切れとかだったんだろ。だったら早い所脱出した方がいいわな。これ以上の戦闘は無理がある」


「無傷なの私だけだしね」


「……実質戦力0じゃからな」


「……ああ」


「……そだねー」


 さっきミツキさんはセンスがいい人間ならある程度習得できるって言ってたけど、私間違いなくない人間だからなぁ。なんとなく分かるよ。絶対習得出来てない。


「それでルイン君。この部屋ならいける?」


「ああ、十分だ。ちょっと待ってろ」


 そしてルイン君はポーチから魔術道具を取りだす。


「あれ? 一個しかなかったんじゃないの?」


「これさっきスタンバってた奴。さっきのでけえのに跳びかかる前に回収してきた」


 そんで、とルイン君は言う。


「魔力も良い感じに溜まってる」


 そう言ってルイン君は床に魔術道具を叩きつけた。

 そしてさっきの魔法陣よりも遥かに大きい魔法陣が展開される。


「ようやく外に出られるね」


「ああ、そうだな」


「外に出たらどうするの?」


「とりあえずお前にさっき渡した名刺の場所に行く」


「あ、さっきの。ちなみにアレどういう場所なの?」


「簡単に言えば俺の職場だ。俺は今日非番で此処に来てんだよ」


「へ、へぇ……」


 凄い急に現実っぽい話になった。職場に非番って……ルインくん社会人だった。同い年だけど私よりもずっと大人だった。

 ……それにしても私みたいに異世界から来た人間を向かわせる先が職場って……一体なにやってる人なんだろ、ルイン君。


「ま、無事に出られるといいがの」


「え?」


 ミツキさんの言葉に反応して、ミツキさんの視界の先に目を向けると……いた。

 またしても魔物の群れが。


「うわああああああああ!?」


「くそ最悪だ! 早く準備終われやポンコツ!」


「え、ルイン君私の事呼んだ?」


「なんでお前それで反応する様になってんの!?」


 なんか反射的にだよ!


「マズイな、儂はもう力を使えんし小僧も満身創痍……よし、楓! 断空閃月じゃ! 月下焔桜流、特式一の型、断空閃月をぶちかませ!」


「え、あ、全然やり方分かんないけどとりあえずやってみる!」


 もうやけくそだ!


「うりゃあ!」


「誰が素振りしろって言った! 儂断空閃月って指示したよなぁ!?」


「逆にどうしていきなりできると思ったの!?」


 と、そうこうしている間にモンスターが全軍突撃してくる!?


「ヤバイヤバイ! マジヤバいって!」


「楓。これはもうここでさよならかもしれんの」


「そんな事言わないでよぉ!」


 そう言った次の瞬間、魔法陣の光が赤くなった。


「しゃあ! スタンばったぞ! いつでも行ける!」


「分かってるって! そんな事言ってる暇あったらさっさとやってよ!」


「辛辣ぅ!? じゃあ行くぞおおおおおおおおおッ!」


 そして私達を中心に、赤く眩い光が放たれる。

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