6 付喪神の力 私の力

『……付喪神』


 ……付喪神っていうと……確か物に宿る神様、だよね。

 正直にわかには信じられない話だよ。


 ……でも私は異世界にいて。

 モンスターなんてのを本当に見て、魔術道具ってのも目にして。

 そしてミツキって言った女の人は私に入って操って、オーガを倒して見せた。

 しかもポンコツもいいとこの私の体を使ってだ。


 もう……自分がそういう神様って名乗る人がいても信じられる。


 そしてミツキさんは私の体を操って言う。


「まあ細かい話とかは後じゃの……まだうようよおるわい」


『……ッ!』


 ミツキさんが言うとおり、まだ扉の外の大部屋には、倒さないといけない様な相手がわんさかいた。


 黒いオーガ。黒いオーク。黒いゴブリンに黒いスライム。

 あと黒いペンギン。なんだあれかわいい。

 とにかく総勢10対程が、明らかにこっちをターゲットにして視線を向けてくる。

 いや、あのペンギンかわいいな……ってそんなこと言ってる場合じゃない。


 10体だ。

 ペンギンも含めヤバい奴が10体。


「流石に1対10では分が悪いかもしれんの。そう考えるとあの小僧はよくこの状況で5体近く倒したわい。伊達にこんな訳のわからん所に一人で来てないというわけじゃな」


 ルイン君を称賛するようにそう言ったミツキさんは、木刀を構えながら言う。

 確かに部屋の中には既に何体か黒いモンスターが倒れていた。

 ほぼ間違いなくルイン君が倒したのだろう。

 1対16っていう無茶苦茶にも程がある状況で。


「さて、楓と言ったか。ここでもう一度選択の時間じゃ」


 と、そこでミツキさんは私に問いかけてくる。


『選択……?』


「そ、選択じゃ」


 ミツキさんは言う。


「見ての通り1体10じゃ。分が悪い。主もこの状況を扉の外に出て初めて知ったのだと思うが……どうじゃ。後ろで展開されとる魔術道具とやらで外に脱出したほうがよいのではないか?」


「……」


 確かに、無茶苦茶分が悪そうなのは分かるよ。

 私を操ったミツキさんは強い。

 こんなポンコツな体でもあんな動きができてるとか、そもそもそれ以前に人間離れした動きしてるんですが、とかそんな事を考慮してもきっと分が悪い。

 でも……私にしてみれば一体でも十体でも、ヤバさが限界突破してるのは変わらなくて。

 そしてルイン君を死なせたくないのも変わらない!


『やだ。逃げたくない』


「そう言うと思っておったよ」


 そう言ったミツキさんは、私の体で構えを取る。

 例えるならば……居合いの構え。

 そして同時に黒いゴブリンが2体、超高速で接近してくる。


 だけどきっと涼しい顔で、ミツキさんは言った。


「だから儂は主の中におる」


 そして、次の瞬間だった。


月下焔桜流げっかえんおうりゅう、主式六の型……雷光閃月」


 ミツキさんは勢いよく地を蹴り、一瞬でゴブリン二体の間を通り抜けた。

 まるで瞬間移動したかの様な一瞬の出来事。

 だけど今の私には何故か見えていた。

 すれ違いざまに木刀でゴブリンを切り払ったのを。


『すごい……』


「じゃろう?」


 ドヤ顔でミツキさんはそう言う。

 実際本当にドヤれる程凄い……今のもさっきのも、明らかに人間の動きじゃ無かったよ? 私の体なのに。


「しっかりと見ておれ。ここからはもっと凄いぞ?」


 ミツキさんがそう言った次の瞬間だった。

 視界の先のペンギンの瞳が赤く光り……隣りに居たオークの姿が消えた。


『え、なに、え?』


「なるほど、多分あのかわいい奴が一番厄介じゃの」


 そう言ったミツキさんは軽く横に跳ぶ。

 次の瞬間には轟音。

 私の体があったその場所に、巨大な棍棒が振り下ろされていた。

 というか消えた筈のオークがそこにいた。

 そして次の瞬間には、オークと挟み撃ちするようにゴブリンがもう一体。


『え、なんで!?』


「空間転移じゃな。まあ馬鹿正直に正面から突っ込んでくるだけではないという事か」


 じゃが、とミツキさんは言う。


「結局どんな形であれ、儂の間合いに飛び込んできている事には変わらんよ」


 そしてミツキさんは、同時に襲い掛かってくるオークとゴブリンに対し木刀を構える。


「主式二の型……円月」


 瞬間的に木刀を振るいながら一回転する回転切り。

 それは見事にゴブリンとオークにクリーンヒットしてどちらも地に倒れ伏せさせる。

 だけどそうやって回転している間に私にも見えた……向こうにいるオーガの持つでっかい鉈がどす黒く輝いているのが。

 そしてミツキさんが攻撃を終えた次の瞬間に、オーガは鉈を振り下ろす。

 そこから発せられたのは……飛ぶ斬撃!?

 だけどミツキさんなら躱せ……ってちょっと待って。


 ミツキさんが躱したら、斬撃そのままルイン君の方に行くよね?

 マズイ、それはマズイよ!


『ミツキさん! 躱しちゃまず……あたったら死んじゃう! どうするの!?』


「どうって、相殺する他にないじゃろう」


 当たり前の事を言うようにそう言って、ミツキさんは木刀を降り上げ……そして振り下ろした!


「特式一の型……断空閃月」


 そして木刀からも斬撃が放たれる。

 白く綺麗な三日月の様な斬撃。

 勢いよく放たれたそれは、オーガが放った禍々しい斬撃と衝突し、轟音を響かせる。


 そして……オーガの斬撃を掻き消した。

 それだけじゃない。

 それだけでは止まらずに、その先にいたオーガにも直撃し弾き飛ばして勢いよく壁に叩き付ける。


 そんな光景は、まるでバトル漫画の主人公をみているみたいだった。


『凄い……これが付喪神の力』


「いや、正確には違うの。儂は主の体を操ってるだけにすぎん」


『え……?』


「今までのは全部楓。主から引きだした力じゃ」


『私の……力?』


「そ。主の力じゃ」


 ミツキさんはそう言うけど……いやいやいや、そんな筈ないよ。

 だって私だよ? 運動神経ゼロな私だよ? こんなの私の力な訳が――


「儂本体ならもっと強い」


『あ、そうですか……』


 あーなんドヤ顔でかそんな言われ方すると急に私の力みたいに思えてきたよ。

 はははは……は?


 ちょっと待って。


『え、これ本当に私の力なの?』


「だからそうじゃと言っておるだろう。今は型も何もなってないような馬鹿みたいな振り方で、挙句すっぽ抜けて獲物を放り投げる様な稀に見るポンコツの楓にも、それだけの潜在能力は眠っているという訳じゃ」


『そこまで言わないと駄目だった!? ねぇ!?』


 褒めてるのか貶してるのか分かんないよ!


「あーしかしこの低身長どうにかならんかの。儂はこれでも長身のないすばでぃーじゃからの。感覚が違って動きにくくて仕方がない」


『それ絶対今言う必要なかったよね!?』


「そうじゃな」


『言葉悪くてごめんだけど、分かってんなら言うなや!』


 相変わらずどこ行ってもこんな感じだよ!


「まぁまぁ、心配せずともいずれ身長位伸びる」


『だよね! ミツキさん分かってるぅ!』


「ポジティブな上に切り替え早いなこやつ……まあいい」


 そう言ったミツキさんは改めて木刀を構える。


「ではあと5体。ラストスパートと行こうか!」


 そしてミツキさんは勢いよく地を蹴る。

 少し距離のあったモンスターの群れとの距離を一瞬で詰め、オーガの懐に入りこむ。

 そして跳びあがり、オーガの顎目掛けて木刀を振り上げる。


「主式三の型、月昇牙」


 顎に木刀を叩き込まれたオーガの体が持ち上げられ、そのまま天井に叩き付けられる。

 後四体。

 オーガ一体とスライム二体とペンギン1匹。

 足元では二体のスライムが自身を中心に魔法陣を展開させている。

 なんとなく分かるよ。こっちに向けて魔法みたいなのを打ってこようとしてる事位。


 ……え、でもちょっと待って。私というかミツキさん、思いっきり跳びあがってるんだけど。

 地に足付いてないんだけど。何か飛んできても躱しようがないんだけどぉ!


『み、ミツキさんミツキさん! なんか来るよ!』


「あー分かっとる分かっとる。こんなもの空を蹴ればいいだけの事」


 そして有言実行。ミツキさんは空を蹴る。

 床を蹴った時程のスピードはないけど、それでも次の瞬間スライムが放ったビームを躱せる位の速度はあった。

 ……っというかスライムの攻撃エグイ! あんなの喰らったら塵になるじゃん! オーガの斬撃とか割としょーもなく見える程凄いよ!


「ほう、中々の威力。じゃが……二発目は打たせんぞ?」


 そして床に着地した瞬間ミツキさんは再び加速し、二体のスライムに対して一閃。


『これは……雷光閃月』


「ほう、覚えたか。ネーミングから動きまで全部カッコイイであろう?」


『あ、うん。良い感じで中二感あって良いと思うよ』


「なんだ、褒められておる気がせんの」


 言いながら、何も無かった空間に向けて突きを入れる。

 すると剣先から衝撃。

 いつのまにか姿を消していたペンギンがドリルみたいに回転しながらクチバシを剣先とぶつけ合っていた。

 ていうかペンギンの攻撃の仕方全然可愛くない! ビジュアルだけだコイツ!


「せい!」


 そしてミツキさんはペンギンを弾き、そして薙ぎ払った!

 そのままペンギンは地面をワンバウンドして壁に叩き付けられ動かなくなる。


『い、一応ビジュアルは可愛いのに容赦ない……』


「儂の方が可愛いからセーフ」


『どういう理論!?』


「そういう理論じゃ……で、後は可愛くない相手一人だけかの」


 その通りだった。

 気付けば10体いたモンスターはオーガ一人にまで減っていた。

 ……よし、いける。私何もしてないけど。


 コイツさえ倒せば一先ず敵は誰もいなくなる。

 それになんかこの部屋結構広いし、この部屋を使えばルイン君と二人で脱出できるんじゃないかな。

 ……そうなれば、私もルイン君も助かる。

 ……良かった。


『じゃあミツキさん! ラストお願い!』


「よし――」


 ミツキさんがそう言いながら、オーガの方に視線を向けようとした時だった。


「……」


 言葉も、動きも、そこで止まった。

 というか……私の前の黒髪ロングの長身ないすばでぃーの美人さんがいた。


 つまりは元の状態に戻っていた。

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