4 ピンチの時にヒーローが取ってくれた選択

 ……そして。



「あれ? なんとも……なくないよね」


「空間転移系のトラップか……くそ、厄介だな」


 痛い様な事は無かったけれど、気が付けば周りの景色は変わっていた。

 今まで私達は通路を歩いていたのに、気が付けば部屋の中。

 大体さっきルイン君に助けてもらった部屋と同じ位の広さかな。だけど部屋の様子を見る限りだと、あの部屋に戻ってきた訳ではなさそう。


「厄介って事は、もしかして結構ヤバイ状況なの?」


「ヤバイって確定したわけじゃねえけど、ほぼヤバイ状況だって思った方が良い」


「というと?」


「この扉の先に異様な位にモンスターがわんさかいるか、それとも馬鹿みたいに強い奴がいるか。まあどんな形にせよ99パーセントヤバイ状況だ」


「ご、ごめんルイン君。私がトラップ踏んだせいで……」


「いや、謝んなよ。事前に説明を怠った俺も悪い」


「……一理あるね」


「あっても言うなよ」


 そう言ってルイン君はため息を付く。


「それで、どうするの?」


「どうするって、進むしかねえだろ。ここじゃ結局一人しかダンジョンの外に出られねえ」


「あーまあ、そうなるよね」


 うむむ……まずます迷惑を掛けてるな、私。罠も踏んだし私が居るから脱出できないし。

 というか私が居なかったら、さっきの部屋でもうルイン君ダンジョンから脱出しているわけで……大変なご迷惑。


「……ほんとごめん」


「別に気にすんな……っていうかお前は自分だけでも脱出させろとか思わねえの?」


「へ?」


「あ、いや、俺は戦う力があってお前はない訳だろ? だったら優先的に脱出させろーとか思ったりしないのかなって思ってさ。実際さっさとこんな所から出たいのは間違いないだろうし」


「あ、なるほど」


「その手があったかみたいな反応やめてくれねえ?」


 掌に拳をポンと置く私にルイン君はツッコミを入れてくる。

 いや、でもね。マジでその手があったかって思ったんだから仕方ないじゃん。

 ……でも。


「まあでもそれはないでしょ。ないない。そんな事言いだしたら私結構やべー奴だよ」


 そう笑いながら私は言う。


「とりあえず脱出するなら二人一緒。いや、というかそもそも優先順位はルイン君のほうが上だよね」


 元々一人で脱出する予定だったし、私なんて突発的に助けなくちゃいけなくなったお荷物だし。

 ……って、ちょっと待って。


「……でもおいてかないでね。私一人だと死んじゃうから」


「不安になるならそもそも言うなよそんな事」


「う、うん」


 うう、危ない。思わずぽろっと言っちゃったけど、それじゃあもう、色々とダメだった。


「大丈夫、無事外まで連れてくから。一人で逃げたりしねえし」


「お願いね。多分なんのお礼もできないけど」


「まあ別に見返り求めて助けてるわけじゃねえし」


 と、そう言ったルイン君はゆっくりと歩きだし、部屋の扉に手をかける。


「……ま、もうこんな所に飛ばされた時点で無事外に生きて出られるか全くわからねえんだけどな」


「……そ、そだねー」


 この扉の先に地獄が広がってるかもしれないんだよね……もしかしたらもう詰んでる可能性もあるよ。

 ほんと、無事にここから出られるのかなぁ。


「まあもう覚悟決めるしかねえか。開けるぞ?」


「う、うん」


 私が頷いたのを見てルイン君は扉を開ける。

 そして。


「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 そして物凄い勢いで締めたぁ!


「ど、どうしたのルイン君!」


「ヤバいヤバい! これ冗談抜きでマジヤベぇ奴!」


 そう言ったルイン君は大急ぎで部屋の中心に魔術道具を叩き付ける。


「な、なに! 扉の先どうなってんの!? てかルイン君は一体何を――」


「脱出の準備だ!」


「だ、脱出の準備って、ここじゃ一人しか出られないんじゃ……ってまさかルイン君一人で!?」


「馬鹿か! 逃げんのお前だ!」


 ルイン君は必死な形相で脱出の準備を進めながら言う。


「向こうの様子エグい位ヤバかった! 下手すりゃっていうか下手しなくても二人してあの世行きだぞクソ」


「……ッ」


 扉の向こうが一体どうなっていたのかは分からない。

 分からないけど、ルイン君の表情から。言葉から。本当に酷い状況なのは分かって。

 だから私が一人でその魔術道具で脱出したらどうなるのかなんてのも、嫌でも分かってしまう。

 分かっていても、聞いてしまう。


「ルイン君は……ルイン君はどうするの!? これ一つしか無いんだよね!?」


「俺一人ならワンチャン入り口まで辿り着いて脱出できる可能性がある! そこに賭ける!」


 確かに出口にまで辿り着ければ脱出できる。

 だけど可能性があるだけで。賭けなければならなくて。

 つまりは高確率で失敗するって訳で。


「だ、駄目だよそんなの!」


「だめでもやんだよ! もうそれしか手がねえんだ!」


 ルイン君がそう言った瞬間、魔術道具から発せられる光が強くなる。


「この光が赤くなれば準備完了だ。そしたら念じれば外に飛ばしてくれる。あと……これ。これ持ってけ!」


 言いながらルイン君がポーチから取り出したのは……名刺だった。


「外出たら此処に迎え。事情話せばどうにかしてくれる! あーまあ多分読めねえだろうけどそこは人に聞いてどうにかしてくれ!」


「え、ちょ、ちょっと待って! ちょっと待ってよ!」


「この扉破られたら終わりだ。ちょっと時間稼いでから頑張ってみる。生きて出られたらそんときはまた会おうぜ」


「ルイン君!」


 私の呼び掛けを完全に無視してルイン君は扉の外に出ていった。

 まるで死にに行くように。

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