2 やっぱりここ異世界らしいよ
昔憧れたヒーローはテレビの中の存在で。
現実と空想の違いは理解していて。
だから自然と夢だとか憧れの対象からは消えていって。
だけどそれが現実的な話になったなら。
そんなヒーローが今こうして現実にいるのならば。
だったら……憧れるよね。
少し変な夢を見ちゃうよね。
正直私にとっては何から何まで分からない事だらけの状況だったけど、この時この人に助けられた事が、私の人生のターニングポイントになったって事だけは、間違いなく分かるんだ。
「あ、うん。大丈夫……じゃなかった、大丈夫です」
「そっか。怪我がねえなら良かった」
私は伸ばされた手を取り立ち上がらせてもらう。
「間一髪だったな」
「はい……えーっと、…ありがとうございます」
「礼はいいって。困った時はお互いさまだからよ」
そう言ってヒーローさんは爽やかな笑顔を浮かべる。
素直にその笑顔を見て、改めてイケメンだなぁと思いました。
憧れや夢云々の熱は今現実にこうして起きた出来事のおかげで鰻登りで、あの時感じたかっこいいという感情は間違いなく憧れから来たものなんだと思うけれど、その第一波の後には第二波が立て続けに来るわけで……なんかこう、かっこいい人にかっこよく助けられるのって、女の子的にはこう……ぐっとくるよね。
そういう事もあって今現在私は二重にテンション上がっちゃってるわけですよ。直前までミンチになり掛けてたんだけどね。私、思った以上に切り替え早いや。
そんな風に二重の意味でドキドキしちゃってる私に、ヒーローさんは少し真剣な表情で言う。
「それにしてもどうしてこんな所にいんの? 見た所お前、こういう所に来る様な奴じゃねえだろ。んで迷い込むような所でもないし……」
その言葉に、急に現実に引き戻された様な気分になった。
「そ、そうだ! 此処どこですか!? 私、気付いたらこんな所にいて、何も分からなくて……」
「気づいたら………そして此処がどこかも分からない……か」
ヒーローさんは口元に手を持っていき、何かを考える素振りをする。
そして何かに思い当たったのか、こんな質問を投げかけてきた。
「もしかしてお前、此処に来る前に黒い何かに飲み込まれなかったか?」
態々思いだそうとしなくても、その答えは浮かんでくる。
「はい! あの、なんかブラックホールみたいなのに飲み込まれて……」
「……やっぱりそうか」
ヒーローさんは嫌な予感が的中したと言いたそうな表情を浮かべる。
浮かべた上で少し間を空けた後、とても言いにくそうに私にこう言った。
「信じてもらえねえかもしれないけれど、多分此処はお前のいた世界とは違う世界だよ。お前はその黒い何がに巻き込まれて次元を超えたんだ」
「モンスターみたいなのが居たって事はやっぱりそういう事ですよね……うわぁ、嫌な予想当たっちゃったなぁ」
流石に目が覚めてこれだけ鮮明に意識が保たれ続けていたら、もうなんかこれ完全に夢じゃないなーとは思うわけで、その上でそんな事まで言われたらこれは現実だって思っちゃうし、もう現実逃避もできないや。
「……そっか。お前のの居た世界はああいうのがいないのか」
「え、あ、はい。そりゃ凶暴な動物はいますけど、あんなモンスターモンスターしてるのはいなかったです」
「だったら尚更早くここから出たほうがいいな。さっきのに襲われて分かったとは思うけど、ここは危険すぎる」
「もしかして他にも沢山うようよ居る感じですかね?」
「いる。そこら中にいる」
「という事はもしかしてダンジョンって奴ですか」
「そうだけど……よくわかったな。そういえばさっき嫌な予想が当たったって言ってたけど、そもそもよく何も知らない状態でこの状況予想できたなお前」
「ああ、私のいた世界で今そういう漫画とか小説流行ってるんです。異世界に転移したり転生したりして凄い力貰って好き放題したりダンジョン潜ったりする話が。だからこう……自分の置かれた状況に既視感がですね」
「なる程……じゃあお前にとっては流行りの漫画の様な状況に陥っちまった訳だ」
「凄い力も何もないですけどね。私なんて完全にモブキャラですよ」
「こうして巻き込まれている時点でモブどころか割と主人公な気がすんだけど……まあいいか。何にしても、こうしてある程度状況を呑み込めているのは良い事だ。本当に何も知らないよりも、イメージだけでも持てていたほうが幾分もマシだと思うし。人によってはこんなところに急に連れてこられて発狂だってするかもしれねえしよ」
そしてまあとにかくとヒーローさんは言う。
「もう一度言うけどお前が自分の意思で此所に来たので無いのなら早く此処から出た方がいい。戦う力がないのにこんな所にいたら命がいくつあっても足りねえよ」
「まあ既に私一度死にかけてますしね……それであの、出るって言っても気が付いたら此処に居たわけでして、出口の場所とかさっぱりなんですが」
「当然案内はしてやるよ。流石に一人で脱出してくれなんて言えるような状況じゃないし、それに俺も丁度帰りだ」
「助かります」
「いいって。困った時はお互い様だ」
そう言ってヒーローさんは笑みを浮かべる。
うん、凄い爽やかだなぁこの人。心身共にすんごい爽やか爽やかしてる感があるよ。
でもそんな爽やかヒーローさんに対して少し失礼な疑問があったので聞いてみることにした。
「そういえば帰り道だったんですよね?」
「そうだけど、それがどうかしたか?」
「ここ行き止まりじゃないですか。帰り道に此所に辿り着いたってことは、その……迷ってるんじゃないかなーって思いまして」
帰り道ならば多分こんな所に来ないでまっすぐ出ていくんじゃないかな?
「迷ってなんかねえよ。此処が俺の帰り道だったんだ」
「えーっと此処行き止まりなんですけど……」
本当に失礼なのは分かるけど、この人絶対迷ってるよね。
……それで恥ずかしいから強がってると。
うん、分かるよ。逆の立場だとちょっと恥ずかしいと思うよ。
「強がらなくても大丈夫ですよ。来た道があるなら帰り道もあります。頑張って探しましょう!」
「あの、言いたいことは色々とわかるんだけど、本当に迷ってねえからな? 強がりでもなんでもなく本当だから。だからその哀れむような目はやめてくれると助かるんだけど……まあいいや」
諦めた様にヒーローさんは軽くため息をついて、腰巻いていたポーチから何かを取り出す。
それは青く光る宝石の様な物が埋め込まれた機械だった。
「ダンジョンから脱出する為の魔術道具。魔力を貯めて広い空間で使うとダンジョンの外に出してくれる」
「へぇ……便利ですね」
「その反応を見る限り、お前のいた世界に魔術とかは普通にあった感じなのか?」
「いや、そんなファンタジーファンタジーしたものないですよ。だから魔力とか魔術道具とかそんなもん知らんがなって感じです」
「……その割りには反応軽いなオイ」
「まあ異世界に飛ばされてオークに教われてる時点で今更驚くのは……って感じですかね」
もう私、大抵の事には驚かない自信があるよ。
……まあ私の許容範囲はともかく。
「でもとりあえずそれがあれば今すぐにでも出られる訳ですね。疑ってすみませんでした」
でもまあとりあえずその事は安心だよ。
いくらこの人が守ってくれるからといってもここが危険な場所な事には変わりないし、だったら早く脱出する事に越したことはないよ。
そう思ったんだけど、ヒーローさんは首を振る。
「残念だけど今すぐにというわけにはいかねえんだよコレが」
「? なんでですか?」
「この魔術道具は魔力を貯めて広い空間で使うとダンジョンの外に出してくれる。だけどそれは即ちそうでなければ出してはくれねえ」
「というと?」
「二人で使うには魔力貯蔵量も部屋の広さも足りない。今これを使って飛べるのは一人が限度だ。んで一つしか無く使い捨てだから順番に脱出って訳にもいかない。魔力ためて広い部屋探さねえと」
……なるほど。
つまりは仕事を終えて帰るぞーってこの部屋まで来たらお荷物が増えて帰れなくなっちゃったよ。やだーって展開だね。
「なんかこう……すみません」
もうしわけない……ほんと、なんというかこう、もうしわけないよ……。
しかもそれに加えて道迷ってますねドンマイ的な事まで言っちゃってるし……うわぁ、すごい申し訳ない。言葉がそれしか出てこない!
「いいよ別に気にしてねえし」
それなのにヒーローさんは笑みを浮かべてそう言う。
……この人凄いなー、神は二物を与えずって言うけれど、面も心もイケメンで完全に二物貰っちゃってるよこの人。
そしてヒーローさんはよし、と一区切り付けるようにそう言って私に言う。
「じゃあ行くか。いつまでも此処に留まっていても仕方ねえしよ」
「そうですね。道案内お願いします」
そんなやり取りを交わして私たちはこのダンジョンから脱出する為に歩きだす事にした。
だけどヒーローさんは一応という風にこちらに一つ聞いてくる。
「そういえばあの落ちてる木刀お前の?」
「あ、はい私の……って言っていいのかな? さっき拾いました」
「じゃあ一応護身用に持っておけ。それが役に立つ様な展開にならないように配慮はするけども」
「その辺はほんとお願いしますね」
もう私じゃどうにもならないのは木刀が飛んで行った時点で確信しちゃったからね、うん。
まあそんな風に私達は部屋を後にした。
お願いですから無事に出られますようにって。そんな願いを込めて。
とまあそんな願いはフラグだったのかな。
数分後、私達は最悪な状況に陥る事になる。
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