女子高生、木刀片手に異世界無双 ちっちゃくてポンコツな私が、最強装備の木刀と共に異世界で良い感じのヒーローになって世界を救うまでの物語!
山外大河
1章 ポンコツ・イン・ザ・異世界 ~ピンチと木刀とヒーローを添えて
1 こんにちは異世界
どうやら小学生の頃の私の夢はヒーローだったらしい。
部屋を掃除していて偶然見付けた小学生の頃の作文には、その夢に対する熱い思いが所狭しと書き込まれていた。
確か当時テレビでやっていたヒーローアニメに凄く嵌っちゃった結果がこれだ。
木刀で悪者をぼっこぼこにしていく勧善懲悪物語。そんなのが女子の間で流行るかというとそうでもなく、かといって男の子の会話に混じる事もできなくて、一人で部屋で真似とかしてた記憶がある。
「……懐かしいなぁ」
確か宿題で出たこの作文、流石に提出するのが恥ずかしくて全く違うのに書き換えて提出したんだ。
誰にもそういう趣味だって言ってなかったし。
そしてこのボツ原稿は捨てるのを忘れて埋もれていき、女子高生になった私にこうして発掘されたわけだ。今思ってもやっぱりこれは提出しなくてよかったと思うよ。
まあ何はともあれ、こうして昔の作文を発掘して思い出に浸っていたわけだ。
浸っていて、やがて現実を直視したわけだ。
「……夢、か」
今でもそういうジャンルの漫画やアニメ。特撮は好きでよく見ているけど、流石にこの年になると現実と空想の世界の区別は付いているつもりで。
かつての自分が抱いた漫画的な夢は適わない物で抱くべきではない夢だと理解しているつもりで。
きっともっと現実的な何かを探さないといけないのは分かっていて。
だけど私にはそれがなにもない。
「……何も思いつかないや」
そういう無茶な夢を取っ払って高校生になった今、私には夢らしい夢は何もなかった。
特別なりたい職業なんてのはなくて、憧れている有名人もいなくて。
だけどそれでいてただ当たり前の様に進学して就職するのも何となく嫌で。
本当に自分は面倒な奴だって思うよ。嫌いじゃないけど。
そしてそんな事を考えていると最終的にこの考えに行きつく。
例えば、生まれたのが昔抱いたそんな夢が現実的に叶う世界だったなら、私はそういう夢を追いかけていたのでは無いだろうか。
……多分そんな気がする。馬鹿らしい考えかもしれないけれど。
「……なるほど。生まれてくる世界を間違えちゃったか」
割りと大真面目にそんな事を呟いた。
人前じゃ恥ずかしくてこんな事は言えないけれど。
ちなみにこれ部屋の外でお母さんが聞いてたらしいよ。
恥ずかしくて悶えるね。
まあなにはともあれ、現実的にこの世界がそういう世界だったとして、私、山本楓は素晴らしい程にそういう事には向いていないだろう。
だってチビだし。力も無いし。頭もそんなに良くないし。体力だってなければ運動神経だってなくて、あとチビだし。
うん、凄まじい位向いてないと思う。どちらかと言えばヒーローに救われる側のスペックだと思うよ私。
だからまあ、生まれてきたのがこの世界で良かったんだとは思うんだ。
そう思うから、例えば世界が変わる様な出来事が起きればそれはいい迷惑だ。
「ふぇ……ッ!?」
この日は夏休み初日で、掃除を終えた私は今朝立てた予定通り本屋に漫画雑誌を買いに行ったんだ。
事が起きたのはその帰り道。なんの前触れも無く唐突に。
目の前にブラックホールと言うべきな何かが現れた。
「な、なにこれ?」
やれた事は精々そんな言葉を呟く位で。
私は呆気なくそれに吸い込まれたんだ。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
まるでこの世界ではない何処かに引き寄せられる様に。
そして私の意識はブラックアウトしていった。
「……ん」
石造りの床の上で目を覚ました。
……なんかひんやりしてて気持ちいいな。うん、割りといいよこれ。もうちょっと寝ててもいいんじゃないかな……ひやひやー。
……ってこんなことしてる場合じゃないよ。だから後10秒。後10秒で起きるよ…………………………よし。
「……で、一体何が……ここどこ?」
周囲を見渡すとまるでRPGのダンジョンの一室のようで、なんかモンスターが「やぁ」って出てきそうな雰囲気。
そしてモンスターなんているわけがないとは思いつつも、さっきのブラックホールみたいな非現実を見せられれば、なんかいそうな気がしてくる訳で。
そしてそうだと思えば一つの考察が生まれてくる。
「まさか……最近流行りの異世界転生……いや、私多分死んでないし異世界転移って奴なのかな?」
冗談混じりに言ってみる。
最近やたら流行っている異世界転生物だとか異世界転移物だけど、現実に私の身に起こるとは……いや、多分夢だろうけど。ブラックホールからの流れもどう考えたって非現実すぎるし、夢じゃなきゃ色々とおかしいよ。
……でも、夢にしてはリアルだなぁ。
「……最近の夢はよくできてるなぁ」
もう半分現実逃避だよ。
だってほら、私がこんな状況に巻き込まれてもろくな事無いよ。
多分食べられるよ? モンスターに。
凄い力使って活躍して「いやいや、それほどでは」って風に謙遜してるイメージないもんね。
だとすればやっぱり私の生まれる世界は間違っていなかったんだなーって思うよ。
やっぱり私はヒーローの様なポジションより助けられるゲストの方が向いてるや。
「夢なら怖い思いする前に覚めてください!」
そんな祈りを込めつつ周囲を見渡すと、なんか木刀が落ちてた。
……うん、なんか落ちてた。
「うわぁ」
私は引きよせられる様に木刀を拾っていた。
……うん、木刀だ。趣味が趣味だからだろうけどなんかテンション上がるよね。
実を言うと中学生の時の修学旅行で京都で木刀買いたかったけど、持ち物検査で没収される上に、回りから引かれそうだったこら買わなかったよ。
だから実際にこうして持つのは初めて。
うん、テンション鰻登りだよ。滝だって上れるよ。
「は! おりゃぁ!」
昔見たアニメを真似るように木刀を振るってみる。
ヤバい、なんかこれ凄く楽しい。
「わはは、この剣、見破られるものなら見破ってみろーッ」
そう言いながら、正直木刀に振り回されている感があったけど楽しんで木刀振ってたんだよ。
そんな時、この部屋の二つある内の一つの出入口がら物音が聞こえた。
「……ッ!」
み、見られた? もしかして見られた? こんな恥ずかしい姿見られちゃった? いやだどんな顔すればいいかわかんない!
そして私は、恐る恐るその方向に視線を向けたんだ。
いたよ。
オークっていえばいいのかな? ああいうのって。なんか一匹棍棒もってこっちを見てるよ。
しかも一歩こっちに歩みを進めたよ? 当然私も後退り。
「……」
「……」
「……ッ!」
そして一瞬の静寂の後、私は木刀を持ったまま全力でもうひとつの出入口から部屋を飛び出した。
そしてヤバい。後ろから、追ってきてる。結構早い。というか今初めて知ったけど私も逃げ足結構速かった。新発見だけどそんな事どうでもいいよ!
「怖い、怖いって! 無理無理無理無理!」
殺される!あれ絶対殺される奴だよ! もしくはなんかこうアダルトな……嫌だ考えたくない!
そうやって半分火事場の馬鹿力みたいな脚力で必死に逃げてたわけだけど、それも限界がくるわけで。
体力的にも、物理的にも。
「い、行き止まり!?」
勢いで飛び込んだ部屋はどこにも通じておらず、ただっ広い部屋の中に私は追い詰められた形になる。
「やば……ッ」
そしてまあ、当然の事ながら追いつかれたよ。目の前で凄い勢いで棍棒素振りしてるよ。
音すっごい。絶対スタンド運べるよ。というか運ばれるよ私。
「……」
「……」
まさに絶対絶命っていうのはこういう状況の事を言うんだと思う。
考えたくないけど多分此処で死ぬんじゃないかな私。
……っていやいやいや、諦めるな!
「か、覚悟を決めろ、私!」
今この手には木刀がある。ちゃんと私は武器を持っているんだ。
一対一。運が良ければ何となるかもしれない。
いや、何とかするんだ!
そう思って気合いを入れて構えるように、一度正面に木刀を振り下ろす。
すっぽ抜けて飛んでったよー。
「……」
……死んだなー私。
「って、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ! マジでヤバイって!」
思わず尻餅を付いて後ずさり、そんな私に一歩一歩とオークは距離を詰めてくる。
「ちょ、止まって止まってマジ無理だって! 私とか食べても全然おいしくないから! そうだ! アレだよ! 神戸牛とかの方が絶対おいしいって! 私なんて精々スーパーで偶にやってるサイコロステーキ詰め放題500円位だって! いや、あれも結構おいしいけど神戸牛の方が絶対おいしいって! 食べた事ないけどぉッ!」
食べられるかどうかとかも分からないし、なんか何言ってるのか自分でもわけわかんなくなってきたけど、とにかくどうしようもなく絶対絶命なのはよくわかるよ!
「だからちょっと待ってホントに! 何でもするから! 何でもするから助けておねが――」
その時、オークが持って居た棍棒を地面に叩きつけた。
それはもう、うるせえから黙れって言われているようで。
「ふえぇ……」
そんな事をされれば出てくるのはそんな情けない言葉で。
とにかく怖くて怖くて仕方がなくて。
だから私は心の中で強く願った。
誰か助けてって。
そんな風に私はヒーローが現れるのを強く願ったんだ。
「ひ……ッ!」
強く願いながら、目の前までやってきたオークが棍棒を振り上げ、私に向かって振り下ろそうとしているのを見てぎゅっと目を瞑る。
だけどいつまでたっても棍棒が振り下ろされる事は無かった。
代わりに聞こえてきたのは呻き声だ。
「……一体なにが……」
目を開くと目の前にオークはもういなかった。
代わりにいたのは同い年位に見える赤髪の、同い年位の男の人。
その手に武器はなくて、だけど部屋の隅にオークが転がっているのを見れば、この人が蹴り飛ばしたんじゃないかなって憶測位は立てられる。
その姿に……素直にかっこいいなぁって思った。
確かに正直言って理想的なイケメンではあったんだけど、きっとそれは今は関係ない。この感情の出処はきっとそんな物ではない。
今目の前にいる人は私にとっては紛れもなくヒーローそのものだった。
ピンチの時に現れて、悪い奴をぶっ飛ばしてくれて。
「えーっと大丈夫? 怪我とかねえか?」
こういう風に手を差し伸べるてくれる。
そんな憧れたヒーローが目の前にいたんだ。
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