レモン味のラムネ 奈津崎弁台詞全訳(第六話~第十話)
§第六話 牛の骨
秋実「くん人がさっき言うて
訳:この人がさっき言った私の友達、佐藤くん。はい、挨拶して。
志成おじさん「うめえさん、
訳:お前さん、本当に何にも知らないな。県外のどこから来たんだ? 北東道か?
志成おじさん「明日、
訳:明日、十月七日は「五神送り」ん最終日でね、県の祝日なんだ。だからこうしてみんなで飲んでる
志成おじさん「明日は旧暦ん
訳:明日は旧暦の九月九日で、「重陽節」だから。
秋実兄「まぁ、大体な。違う
訳:まぁ、大体な。違う人もいるけど
崎池「良さってな、秋実っちゃ!
訳:よかったな、秋実ちゃん。中々カッコいい彼氏だ!
・秋実さんの甥・姪
「
「あいあい、羨まっせ」
訳:
「俺、てっきり姉ちゃんが一生結婚できないと思って」
「あーぁ、羨ましい」
・親戚
「すなんが、急に言い出して……」
「散弾結婚なんて、みったーなせ……」
訳:
「そんなこと、急に言い出して……」
「できちゃった結婚なんて、みっともない」
貝久保「何ね、今から
訳:何だ、今からワンナイトラブか?
秋実父「やい、くんダラ助! うめえみてーなづくん牛ん
訳:おい、このバカ野郎! お前みたいなどこの馬の骨か分からない奴にウチの娘はやらんぞ!
秋実「つっちゃ、違うんざて! 彼はただん『連れ』ざい、小学校ん
訳:お父さん、違うんだって、彼はただの「友達」。小学生の時の同級生!
秋実父「……くったん
訳:こんなガキ、いたか?
父「うめえ、マニュアル車運転
訳:お前、マニュアル車運転できるか?
父「ハッ、
訳:ハッ、できないか。しょうもない男だ。
父「
訳:酒はどれぐらい飲める?
「酒は
訳:酒は飲めるか?
「
訳:しょうもないっ! 酒が飲めないゆな男はしょうもないっ!
・親戚
「ますらーさん」
「ぢっちゃ」
訳:
ますらおさん
じいちゃん
秋実祖父「
訳:お前さん、優しい顔をしてる。悪人じゃあるまい。
祖父「くったん
訳:こんな遠い場所までよく来なさって。ウチの孫娘が何か迷惑かけたなら、すまなかった……。今日はありがとう。
「人類皆
訳:人類皆兄弟。この家を自分の家と思ってゆっくり休みな、旅人(「よそから来た人、県外の人」という意味)
・親戚
「全然すったん
「
訳:全然そんなことない
よくある苗字だよ
秋実「まづ、ぢっちゃが『
訳:まず、爺さんが「益良雄」。で、父さんが「志明」、母さんが「ぬーみ」……、いや、「能美」
秋実「うん、何か
訳:うん、何かおかしい?
秋実「で、彼が
訳:で、彼が志成おじさん。お父さんの弟。
父「『
訳:『
秋実「で、すくん
訳:で、そこの男が博志兄ちゃんと珠良さん
珠良、秋実の義姉「ハーイ、
訳:ハーイ、博志の妻の珠良でーす
秋実兄「うめえが秋実ん新っし彼氏け?」
訳:あんたが秋実の新しい彼氏か?
兄「かー! 秋実め、やるなー」
訳:かー! 秋実め、やるなー
兄「やい、秋実。はーあん
訳:おい、秋実。もうあの人の事は……
兄「うめえ、気張りや」
訳:お前、がんばれよ
秋実「で、彼が
訳:で、彼が志成さんの娘さんの旦那さん、崎池さん
崎池さん「こんばんはー、
訳:こんばんはー、崎池偉俊です! よろしく頼みます!
秋実「停車場ん方に『
訳:駅の方に「崎池マーケット」ってあるでしょ? あそこの店は崎池さん家がやってて、偉俊さんはこんなに若いけど部長なんだ。かっこいいでしょ?
秋実「さーけ? くん辺りぜぁ普通ざに?」
訳:そう? この辺りじゃ普通だよ?
秋実「すれで、くん
訳:それで、この人が麗華おばさん
麗華おばさん「はじめやすて、
訳:初めまして、麗華です。
秋実兄「
訳:今日は賢くんは来ないのか?
麗華「
訳:賢は今日も仕事だから……。
秋実「いや、おばさんは『
訳:いや、おばさんは「田新」さん、田新さんは昔から木中家の親戚だ。
秋実「『たわら』ぜぁらん。『
訳:「たわら」じゃない。「田畑」の「田」に、「新しい」の「新」だ。
秋実「
訳:田新なんてもっと普通だよ。私が小学校の時クラスに五人ぐらい田新さんいたよ。
秋実「で、あすくん隅っちゃに
訳:で、あそこの隅にいるおじさんが貝久保さんで、あの男の子が佐部くん。あの人たちはただの近所の人だから、木中家の親戚じゃない
秋実「あー、
訳:あー、後、母さんの実家は「山さん」って言うんだけど、母さんのお兄さん、「葛おじさん」が……
§第七話 青唐辛子醤油
●食事中
・親戚一同
「ざっぱ?」
「ざっぱ! ざっぱ!」
訳:
「だろ?」
「そうだな!」
秋実「うん、刺身ざい。
訳:うん、刺身だよ。今日は豪華だ、魚も肉もあって。
秋実父「ハハッ、すったん怖がらんぜん死なんて!」
訳:ハハッ、そんなに怖がらなくても死なないって!
父「見てみ、
訳:見てみろ、問題ない!
秋実「まあ、生ぜん食えるやー処理されちゅるげん、
訳:まあ、生でも食べれるように処理されてるから、本当に問題ない。イヤなら止めな
秋実「
訳:唐辛子醤油。唐辛子が入ってるんだ
秋実「高野県ぬゎ
訳:高野県は唐辛子入れない?
秋実「
訳:違う違う、青唐辛子だよ
秋実「えー、奈津崎ぜぁ普通ざい? うん、うませ!」
訳:えー、奈津崎じゃ普通だよ? うん、うまい!
志明おじさん「ぶらら揚げけ? すりゃバブイん
訳:ぶらら揚げか? それは豚の内臓だ。
★ぶらら揚げとは
おそらくフィリピンのchicharon bulaklakのこと。豚の横隔膜を油で揚げたもの。
●蝿考
秋実「あ、ヘーが
訳:あ、蝿がいる!
親戚
「づけ行って?」
「づく?」
訳:
「どこに行った?」
「どこ?」
秋実「ハイざい、ハイ。虫っちゃ」
訳:蝿だよ、蝿。虫。
親戚
「『
「いや、へー虫に決まっつる」
「フライバイざっぱ?」
「『灰』は『へー』、空飛んでる『蝿』は『へーっちゃ』」
「いや、『ヘー虫』に決まってる」
「フライバイだろ?」
●リビングにて、テレビの前
秋実「まだ
訳:まだ飲む?
秋実母「ヅース? プーレイ茶?」
訳:「ジュース? プーアル茶?」
秋実「まあ、茶っちゃ
訳:まあ、お茶飲みな
インタビューに答える奈津崎県民「『まーっさ
訳:すっごい大きな音がしてね、俺は「今朝は台風か」と思ってね……。
秋実「またくったん……、ます
訳:またこんな……、もっと面白い番組見な。
南海焼酎のCM
「『うめった、好きなんざい』」
「『
訳:
「お前のことが好きなんだよ」
「あなた……」
秋実「うん。『初恋』、『逢瀬』、『惜別』てシリーズになっちゅる。ドゥラマみてーに見えるっぱ?」
訳:うん。「初恋」、「逢瀬」、「惜別」ってシリーズになってる。ドラマにみたいに見えるでしょ?
秋実「何言うちゅる、『鈴』つ『木』なんてまっさ
訳:何言ってるの。鈴と木なんてすっごく可愛いよ。ああ、羨ましい!
秋実「うん。今まで一回む見て
訳:うん、今まで一回も見たことない! 「佐藤幾多郎」なんて、俳優さんみたでカッコいい名前だよ
秋実「あ?」
訳:え?
※奈津崎弁では「あ?」は威圧する意味は特になく、単に「え?」という意味です。
秋実「何ね、急に。
訳:何よ、急に。大丈夫。
秋実「ニャー
訳:ニャー助もカワイソウだな……自由にどっか行けなくて
秋実「まあ、
訳:まあ、仕方ない。結局、ここから逃げられないんだ。
§第八話 津州弁準備体操
秋実「ああ、まー
訳:「ああ、もう起きた?」
秋実「何ね、
訳:何よ、面白い顔して
秋実「ばっちゃ。大分前亡ぁなって」
訳:婆ちゃん。大分前に亡くなって。
秋実「くん菊、きれいざっぱ?
訳:この菊、きれいでしょ? 今日は重陽節だから
秋実母「朝、食うけ?」
訳:朝ごはん、食べる?
秋実「
訳:飲み過ぎた? 薬飲む?
母「知らん。
訳:知らない。外国の食べ物?
秋実「すなんが、見て
母「なぜすったんネ
訳:
秋実「そんなもの、見たことない」
母「なんでそんな臭いもの食べるんだ?」
秋実「……何すちゅんざ、きっちゃん」
訳:何してんの、君
母「うい、くれがうめえさんが
訳:はい、これがあんたの分
「いけー
訳:たくさん食べて。今日は頑張ってもらわないと
親戚のおじさん
「ん? はー仕事け?」
訳:ん? もう仕事か?
●木中レモンファームにて朝礼
秋実父「えー、
訳「えー、今日はわざわざ木中レモンファームのために集まっていただき、誠にありがとうございます。何分、全員が集まれる日が祝日しか無いですから……」
秋実「収穫はえっれげん、みんなで手伝うんざ」
訳:収穫は大変だから、みんなで手伝うんだ
秋実「うめえむ来るんざい」
訳:「お前も来るんだ」
秋実「うん。
訳:「うん、人では多い方がいいでしょ?」
秋実「ウチん飯食うてんざげん、
訳:ウチの飯食べたんだから、ちゃんと働いて。ね?
〇津州弁準備体操
ラジカセ「『
訳:津州弁準備体操、第一ぃーっ!
秋実父「さぁ、皆さん
訳:さぁ、皆さん大好き、津州弁準備体操の時間がやって参りました!
秋実「きっちゃぬゎ知らんぱ? くりゃ『国民準備体操』ん
訳:君は知らないでしょ? これは「国民準備体操」の津州弁だよ。小学生の体育の授業で習わなかった?
秋実「きっちゃぬゎ
訳:君は何も知らないな
「まぁ、
訳:まぁ、とにかく、作業する前にみんなで準備体操するんだ。はい、真面目にやって!
ラジカセ「『
訳:一、二、三、四! 五、六、七、八!
ラジカセ「『はい、膝っちゃ
訳:はい、膝を横に動かして!
「『
訳:全身を前に!
「『
訳:「四体」だよ、全身。見れば分かるでしょ?
崎池さん「佐藤さーん、
訳:佐藤さん、俺見て参考にして! がんばって!
§第九話 PB&J
秋実「全部彼に聞いて。すれぜぁ、また」
訳:全部彼に聞いて。それじゃ、また
崎池さん「あいあい、カプカプざね……」
訳:あらら、スカスカだね……
志成おじさん「くったんカプカプぜぁ、出荷
訳:こんなスカスカじゃ、出荷できないだろ
「ああ、カプッちゅるヤツは捨って。
訳:ああ、スカスカになってるやつは捨てて。もう黄色くなった実は店頭に並ぶ頃にはダメになってしまうから、とらないでいい。
崎池さん「手袋履いてやりな」
訳:手袋つけてやりな。
★手袋を「履く」は実際は東北~北海道にかけて使われる。
志成おじさん「
訳:宴会の時は、偉俊くんが大体レモン頭の格好して準備体操踊ってる
佐部くん「『レモン戦士シュワッチャー』ざす!」
訳:レモン戦士シュッチャーです!
佐部「あんレモン頭、
訳:あのレモン頭、顔が怖いでしょ? 初めて出て来たとき、あれ見て子供がすごく泣いてね
志成「ありゃ、アメリカん有名なカンデーんカラクターん
訳:あれは、アメリカの有名なキャンディーのキャラクターのパクリだよ
佐部「『ケンディ』ん『ケラクター』ざすて!」
訳:「ケンディ」の「ケラクター」ですって!
志成「……『ケァンデー』ん『ケァラクター』ざっぱ?」
訳:……『ケァンデー』の『ケァラクター』だろ?
志成「……
訳:「……田新賢くん。麗華の長男だ」
佐部「『長男』ん意味ざす」
訳:長男の意味です
志成「
訳:麗華は俺と志明の妹だ。昔、田新さん家に嫁に行ってな
佐部「
訳:賢くんは秋実ちゃんの「いとこ」です
●みんなでお昼ご飯
秋実母「はい、ピー・ビー・アンヅ・ゼイ」
訳:はい、PB&J
秋実「ピーナツバター・エンヅ・ヂェリー・センウィッチ。アメリカんセンウィッチざ。知らんなん?」
訳:ピーナッツバター・アンド・ジェリー・サンドウィッチ。アメリカのサンドウィッチだよ。知らない?
志成おじさん「昔、
訳:昔、工場労働者など肉体労働してる人たちは、カロリー高い物を食べる必要があってな。これなら簡単にエネルギー補給できるでしょ?
秋実母「さーざ、ウレンヂヅース」
訳:そうだよ、オレンジジュース
崎池さん「ぢっちゃん衆は『J』ん
訳:おじいちゃんたちは「J」のことを「ゼイ」って発音するから、よく「ゼイアール」とか言ってる
志成「さーゆー
訳:そういうこと
秋実父「『くつ』つ『くつっちゃ』て言や
訳:「くつ」と「くつっちゃ」って言えばいい
貝久保「やいやい、くりゃ噂ん
訳:おやおや、これは噂の佐藤くんじゃないか?
貝久保「くん
訳:このモテ男、どうやって秋実ちゃんを口説いたんだ?
貝久保「あっぷざ、あっぷざ」
訳:トイレ、トイレ または うんこだ、うんこだ
貝久保「さーざ。
訳:そうだ。俺の名前は貝久保挑。「三峪のカサノバ」って言えば俺のことだよ
§第十話 離合注意
●貝久保さんと二人でレモンの積み込み作業中の会話
貝久保さん「
訳:佐藤くん、秋実ちゃんと同じぐらいだろ? 普段は何の仕事してんの?
貝久保「稼ぎは?」
訳:稼ぎは?
貝久保「
訳:いいだろ、別に。アンタ、結婚するんじゃないの?
貝久保「ざが、秋実っちゃった好きざっぱ?」
訳:だけど、秋実ちゃんのこと好きだろ?
貝久保「すったん、
訳:そんな、大学生みたいな口聞いて……。今まで女の子と付き合ったことないか?
貝久保「ハ! やっぱしさーけ。分かりやっせ
訳:ハ! やっぱりそうか。分かりやすい顔してる
貝久保「うめえ、
訳:アンタ、もしかして童貞か?
貝久保「バーヂン、て意味ざい。バーヂンけ?」
訳:バージン、て意味だよ。バージンか?
貝久保「
訳:嘘言うな。佐藤くんも分かりやすいね。
貝久保「
訳:三十で童貞なんて、みっともないな……。俺が二十歳の時なんて、三峪の女の子全部手籠めにしてたんだから……。「レディーズマン挑」って呼ばれてたよ
貝久保「
訳:男ははっきりしなきゃ。まずは、ビシって自分の思いを伝えるのが重要だよ。津州一の色男の言うこと信じな?
貝久保「
訳:早く歩け、このバカ野郎! すぐやらないと日が暮れる! これじゃ、いつまでも用が足りない
貝久保「あん山ん上!」
訳:あの山の上!
貝久保「すくん坂道ガ
訳:そこの坂道に入って!
貝久保「
訳:若いのに、しょうもないな。俺が若い時なんて、水泳部のキャプテンだったからね……。カエルの挑って呼ばれてたから。
貝久保「『脳留守』て意味ざい。頭カンプスて
訳:バカって意味だよ。頭空っぽってこと!
貝久保「さー言や、うめえマニュアル車ん運転む
訳:そういや、お前マニュアル車の運転もできないんだよな? 最近の若い奴らは訳立たずだ。俺なんてトラックの免許もあるよ
貝久保「
訳:仕方ない。もうジジイだから、最近じゃ運転やめてB車に乗ってる
貝久保「
訳:バカだな、バスが「B車」で、タクシーが「T車」だ。常識だろ?
貝久保「『
訳:「脳留守」っていうのは、お前みたいなクソッたれのことだ!
貝久保「うめえ、実際づっから
訳:お前、実際どっから来たんだ? 高野県出身じゃないだろ?
貝久保「ハッキシ言い、
訳:はっきり言いな、武陽?
貝久保「やっぱしさーけ、
訳:やっぱりそうか、道理で変な話し方なんだ
「何ガ話ざ?」
訳:何の話だ?
貝久保「『道ガ
訳:「道が入る」、「用が足す」、「車が乗る」。何もおかしくない
貝久保「『
訳:俺が窓が開ける。
貝久保「すなんが、『
訳:そんなの、「俺がレモンが好き」と同じだろ? 文脈がありゃ分かる」
貝久保「いや、
訳:「いや、違う違う。俺は漁師だ。木中さん家とは長い付き合いだから」
貝久保「
訳:俺は元々鯛内の出身で、志明さんと同じ高校だったんだけど、学校出てからすぐ働いて、何十年も船に乗って津州灘で魚捕ってたんだ
貝久保「海は
訳:海はいいぞ。ビキニの女の子がたくさんいて
※「ビ」キニがなぜ「ピ」キニになっているのかはウィキペディアで調べて下さい。
貝久保「
訳:広岡は海があるか?
貝久保「うめえら
訳:お前らよそ者は本当の苦労を知らないからな。
貝久保「
訳:日本が戦争に負けてからアメリカの人たちが来て、伊波にアメリカ基地が作られてなぁ……。南海道も一時は全部アメリカ領になって……。あの時は大変だった
貝久保「うめえらは知らんつ
訳:お前らは知らないと思うけど、もう何十年も前、伊波の辺りで地上戦があった時、アメリカ軍が奈津崎まで来て、三峪の若い人たちもみんな出兵させられてなぁ……。田新さん家なんて、男たちが戦いに行ってみんな死んじゃって……
貝久保「
訳:田新家と木中家は大昔から親戚だ。嫁ぎ嫁がれ支え合って来て……。今の田新家も、木中さん家から男子を入れてなきゃ無くなってただろ
貝久保「
訳:俺も忘れたけど、秋実ちゃんの爺さん、益良雄さんの親か爺さんが元々田新家の人なんだ。そんな理由で、もう亡くなっちゃった益良雄さんの弟、「進雄さん」が田新家に婿養子に行ってな。この進雄さんが武雄さん……、麗華さんの旦那の父親だ。つまり、麗華さんの旦那は麗華さんのいとこなんだ!
貝久保「さーさー。秋実っちゃみてーな話ざ」
訳:そうそう。秋実ちゃんみたいな話だ
貝久保「何ざ、うめえ知らんざってけ?」
訳:何だ、お前知らなかったのか?
貝久保「賢君ぬゎ、秋実っちゃン婚約者ざってんざい」
訳:賢くんは、秋実ちゃんの婚約者だったんだよ。
貝久保「……まあ、田舎ぜぁ
訳:……まあ、田舎じゃよくある話だよ。博志くんの嫁さんも博志くんのまたいとこだ。
貝久保「あん二人、家む
訳:あの二人、家も近いから、子供の時からずっと一緒にいてなぁ。小学生の時は、よくそのあたりの川で二人で遊んでて……
貝久保「いや、
訳:いや、五年前別れたよ。ごたごたがあって
貝久保「まぁ……、くん話はなぁ……」
訳:まぁ……、この話はなぁ……
●秋実さん再登場
秋実「――きっちゃん」
訳:君。
秋実「……大事け?」
訳:大丈夫?
秋実「……何ね?」
訳:何?
秋実「何が話?」
訳:何の話?
秋実「一緒に帰らー? まー晩飯ん時間ざに」
訳:一緒に帰ろ? もう晩ごはんの時間だよ
貝久保「……
訳:気持ちの問題は難しいなぁ……
●帰り道、秋実さんと二人
秋実「……
訳:……今日はありがとね。ごめんね、仕事やらせちゃって
★「気の毒なぁ」というのは石川県・福井県の方言で「ありがとう」という意味
秋実「レモンなんて、まーっさ嫌いっ!」
訳:レモンなんて、大っ嫌い!
秋実「かなり、て意味ざい。『まっさ』、『まーさ』、『まーっさ』ん順にレベルが上がる」
訳:「かなり、って意味だよ。『まっさ』、『まーさ』、『まーっさ』の順にレベルが上がる」
秋実「
訳:私は猫じゃない
「すぐ分かるっぱ」
訳:すぐ分かるでしょ
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