レモン味のラムネ 奈津崎弁台詞全訳(第六話~第十話)

 §第六話 牛の骨



 秋実「くん人がさっき言うてうれん連れ、佐藤くん。はい、挨拶す」

 

 訳:この人がさっき言った私の友達、佐藤くん。はい、挨拶して。


 志成おじさん「うめえさん、ふんなぁん知らんな。づくん外地ぐぇーちからて? 北東道ふくつーだーけ?」


 訳:お前さん、本当に何にも知らないな。県外のどこから来たんだ? 北東道か?


 志成おじさん「明日、十月ずーぐぇつ七日なんかは『五神送ぐしんうくり』ん最終日でな、県が祝日しゅくにちなんざ。ざげんかーすて皆でんぢゅる」

 

 訳:明日、十月七日は「五神送り」ん最終日でね、県の祝日なんだ。だからこうしてみんなで飲んでる


 志成おじさん「明日は旧暦ん九月くぐぇつ九日くくんかで、『重陽節ちゅーやーせつ』ざげん」


 訳:明日は旧暦の九月九日で、「重陽節」だから。


 秋実兄「まぁ、大体な。違うるぜん」


 訳:まぁ、大体な。違う人もいるけど


 崎池「良さってな、秋実っちゃ! 中々なかんかていがええ彼氏ざ!」

 

 訳:よかったな、秋実ちゃん。中々カッコいい彼氏だ!


 ・秋実さんの甥・姪

うれてっきしっちゃが一生結婚出来でくんてうむうて」

「あいあい、羨まっせ」


 訳:

「俺、てっきり姉ちゃんが一生結婚できないと思って」

「あーぁ、羨ましい」


 ・親戚

「すなんが、急に言い出して……」

「散弾結婚なんて、みったーなせ……」


 訳:

「そんなこと、急に言い出して……」

「できちゃった結婚なんて、みっともない」


 貝久保「何ね、今から一夜城いちやざーけ?」


 訳:何だ、今からワンナイトラブか?


 秋実父「やい、くんダラ助! うめえみてーなづくん牛んふねけ分からん奴にウチん娘はやらんづ!」


 訳:おい、このバカ野郎! お前みたいなどこの馬の骨か分からない奴にウチの娘はやらんぞ!


 秋実「つっちゃ、違うんざて! 彼はただん『連れ』ざい、小学校んつきん同級生!」


 訳:お父さん、違うんだって、彼はただの「友達」。小学生の時の同級生!


 秋実父「……くったんわっぱってけ?」


 訳:こんなガキ、いたか?


 父「うめえ、マニュアル車運転出来でくるけ?」


 訳:お前、マニュアル車運転できるか?


 父「ハッ、出来でくんけ? かーうっくざ」

 

 訳:ハッ、できないか。しょうもない男だ。


 父「酒量しゅりゃーは?」


 訳:酒はどれぐらい飲める?


「酒は出来でくるけ?」


 訳:酒は飲めるか?


かーが無せっ! 酒んめんやーなうっくかーが無せっ!」


 訳:しょうもないっ! 酒が飲めないゆな男はしょうもないっ!


 ・親戚

「ますらーさん」

「ぢっちゃ」


 訳:

 ますらおさん

 じいちゃん


 秋実祖父「きーさん、優っしつらすちゅる。悪人あくじんぜぁあるめー」


 訳:お前さん、優しい顔をしてる。悪人じゃあるまい。


 祖父「くったんつーうぇ場所ばしゅまでなさって。ウチん孫娘まぐむすめが何か迷惑かけてなら、すまんげな……。今日きゅーは気んづくな」


 訳:こんな遠い場所までよく来なさって。ウチの孫娘が何か迷惑かけたなら、すまなかった……。今日はありがとう。


「人類皆兄弟きゃーでい。くん家、自分が家つうむうてゆっくしねまり、旅っ

 

 訳:人類皆兄弟。この家を自分の家と思ってゆっくり休みな、旅人(「よそから来た人、県外の人」という意味)


 ・親戚

「全然すったんくつなせ」

うある苗字みゅーじざに」 


 訳:全然そんなことない

 よくある苗字だよ


 秋実「まづ、ぢっちゃが『益良雄ますらお』。で、つっちゃが『志明しあき』、かっちゃが『ぬーみ』……、いや、『能美のうみ』」


 訳:まず、爺さんが「益良雄」。で、父さんが「志明」、母さんが「ぬーみ」……、いや、「能美」


 秋実「うん、何か可笑うかっせ?」


 訳:うん、何かおかしい?


 秋実「で、彼が志成しなりおぢさん。お父さんの弟」


 訳:で、彼が志成おじさん。お父さんの弟。


 父「『志明しあき』、『志成しなり』なんてうある名前なめえざい。なぁ可笑うかしなせ」


 訳:『志明しあき』、『志成しなり』なんてよくある名前だよ。何もおかしくない。


 秋実「で、すくんうっく博志はくしっちゃつ珠良たまらさん」


 訳:で、そこの男が博志兄ちゃんと珠良さん


 珠良、秋実の義姉「ハーイ、博志はくしん妻ん珠良たまらざーす」


 訳:ハーイ、博志の妻の珠良でーす


 秋実兄「うめえが秋実ん新っし彼氏け?」


 訳:あんたが秋実の新しい彼氏か?


 兄「かー! 秋実め、やるなー」


 訳:かー! 秋実め、やるなー


 兄「やい、秋実。はーあんくつは……」


 訳:おい、秋実。もうあの人の事は……


 兄「うめえ、気張りや」


 訳:お前、がんばれよ


 秋実「で、彼が志成しなりさんが娘さんが旦那さん、崎池さきいけさん」

 

 訳:で、彼が志成さんの娘さんの旦那さん、崎池さん


 崎池さん「こんばんはー、崎池さきいけ偉俊いしゅんざす! よろしゅう頼みゃす!」


 訳:こんばんはー、崎池偉俊です! よろしく頼みます!


 秋実「停車場ん方に『崎池さきいけマーケッツ』てあるっぱ? あすくん店は崎池さきいけさん家がやっちゅって、偉俊さぬゎくったんっけぜん部長なんざ。ていが良せっぱ?」


 訳:駅の方に「崎池マーケット」ってあるでしょ? あそこの店は崎池さん家がやってて、偉俊さんはこんなに若いけど部長なんだ。かっこいいでしょ?


 秋実「さーけ? くん辺りぜぁ普通ざに?」


 訳:そう? この辺りじゃ普通だよ?


 秋実「すれで、くんまえ麗華れいかおばさん」


 訳:それで、この人が麗華おばさん


 麗華おばさん「はじめやすて、麗華れいくゎざす」


 訳:初めまして、麗華です。


 秋実兄「今日きゅーさかし君ぬゎゃんけ?」


 訳:今日は賢くんは来ないのか?


 麗華「さかし今日きゅー仕事すぐつざげん……」


 訳:賢は今日も仕事だから……。


 秋実「いや、おばさんは『田新たあら』さん。田新さぬゎ昔から木中家ん親戚ざ」


 訳:いや、おばさんは「田新」さん、田新さんは昔から木中家の親戚だ。


 秋実「『たわら』ぜぁらん。『田畑たはた』ん『』に、『あたらっせ』ん『しん』ざ」


 訳:「たわら」じゃない。「田畑」の「田」に、「新しい」の「新」だ。


 秋実「田新たあらなんてますます普通ざい。うれが小学校んつきクレスに五人ぐらい田新たあらさんってい」

 

 訳:田新なんてもっと普通だよ。私が小学校の時クラスに五人ぐらい田新さんいたよ。


 秋実「で、あすくん隅っちゃにるウヂンが貝久保かいくぼさんで、あん男子やらく佐部さべくん。あん衆はただん近所んざげん、木中家ん親戚ぜぁらん」

 

 訳:で、あそこの隅にいるおじさんが貝久保さんで、あの男の子が佐部くん。あの人たちはただの近所の人だから、木中家の親戚じゃない


 秋実「あー、あつ、かっちゃん実家は『やまさん』て言うんざぜん、かっちゃんっちゃ、『かづらおぢさん』が……」


 訳:あー、後、母さんの実家は「山さん」って言うんだけど、母さんのお兄さん、「葛おじさん」が……



 §第七話 青唐辛子醤油



 ●食事中


 ・親戚一同

「ざっぱ?」

「ざっぱ! ざっぱ!」


 訳:

「だろ?」

「そうだな!」


 秋実「うん、刺身ざい。今日きゅーは豪華ざ、魚む肉むあって」


 訳:うん、刺身だよ。今日は豪華だ、魚も肉もあって。


 秋実父「ハハッ、すったん怖がらんぜん死なんて!」


 訳:ハハッ、そんなに怖がらなくても死なないって!


 父「見てみ、支障ししゃーせ!」


 訳:見てみろ、問題ない!


 秋実「まあ、生ぜん食えるやー処理されちゅるげん、ふんに問題ねー。イヤなら止め」


 訳:まあ、生でも食べれるように処理されてるから、本当に問題ない。イヤなら止めな


 秋実「辛子からし醤油じゃーゆ胡椒くしゅうが入っちゅんざに」


 訳:唐辛子醤油。唐辛子が入ってるんだ


 秋実「高野県ぬゎ辛子からし入れんけ?」


 訳:高野県は唐辛子入れない?


 秋実「ちがちが、『青唐辛子あーたーがらし』ざい」


 訳:違う違う、青唐辛子だよ


 秋実「えー、奈津崎ぜぁ普通ざい? うん、うませ!」


 訳:えー、奈津崎じゃ普通だよ? うん、うまい!


 志明おじさん「ぶらら揚げけ? すりゃバブイんはらわたざ」


 訳:ぶらら揚げか? それは豚の内臓だ。


 ★ぶらら揚げとは

 おそらくフィリピンのchicharon bulaklakのこと。豚の横隔膜を油で揚げたもの。


 ●蝿考


 秋実「あ、ヘーがる!」


 訳:あ、蝿がいる!


 親戚

「づけ行って?」

「づく?」


 訳:

「どこに行った?」

「どこ?」


 秋実「ハイざい、ハイ。虫っちゃ」


 訳:蝿だよ、蝿。虫。


 親戚

「『へー』は『へー』、すらんぢゅる『へー』は『へーっちゃ』」

「いや、へー虫に決まっつる」

「フライバイざっぱ?」

 

「『灰』は『へー』、空飛んでる『蝿』は『へーっちゃ』」

「いや、『ヘー虫』に決まってる」

「フライバイだろ?」


 ●リビングにて、テレビの前


 秋実「まだむけ?」

 

 訳:まだ飲む?


 秋実母「ヅース? プーレイ茶?」


 訳:「ジュース? プーアル茶?」


 秋実「まあ、茶っちゃみ」

 

 訳:まあ、お茶飲みな


 インタビューに答える奈津崎県民「『まーっさっきうつがすてな、うりゃ『今朝は台風てーふーけ』てうむうてな……』」


 訳:すっごい大きな音がしてね、俺は「今朝は台風か」と思ってね……。


 秋実「またくったん……、ます面白うむっし番組見な」

 

 訳:またこんな……、もっと面白い番組見な。


 南海焼酎のCM

「『うめった、好きなんざい』」

「『きーさん……』」


 訳:

「お前のことが好きなんだよ」

「あなた……」


 秋実「うん。『初恋』、『逢瀬』、『惜別』てシリーズになっちゅる。ドゥラマみてーに見えるっぱ?」


 訳:うん。「初恋」、「逢瀬」、「惜別」ってシリーズになってる。ドラマにみたいに見えるでしょ?


 秋実「何言うちゅる、『鈴』つ『木』なんてまっさ可愛かうぇーさい。ああ、羨まっせ!」

 

 訳:何言ってるの。鈴と木なんてすっごく可愛いよ。ああ、羨ましい!


 秋実「うん。今まで一回む見てつきねー! 『佐藤幾多郎』なんて、俳優さんみてーで体がええ名前ざ」


 訳:うん、今まで一回も見たことない! 「佐藤幾多郎」なんて、俳優さんみたでカッコいい名前だよ


 秋実「あ?」

 

 訳:え?

 ※奈津崎弁では「あ?」は威圧する意味は特になく、単に「え?」という意味です。


 秋実「何ね、急に。支障ししゃーせ」


 訳:何よ、急に。大丈夫。


 秋実「ニャーすけ可哀想かうぇーさーざなぁ……。自由にづっか行けんしゃで」


 訳:ニャー助もカワイソウだな……自由にどっか行けなくて


 秋実「まあ、仕方すかたせ。つんまり、くっから逃げられんな」

 

 訳:まあ、仕方ない。結局、ここから逃げられないんだ。

 


 §第八話 津州弁準備体操



 秋実「ああ、まーきてけ?」


 訳:「ああ、もう起きた?」


 秋実「何ね、面白うむっしつらすて」


 訳:何よ、面白い顔して


 秋実「ばっちゃ。大分前亡ぁなって」


 訳:婆ちゃん。大分前に亡くなって。


 秋実「くん菊、きれいざっぱ? 今日きゅー重陽節ちゅーやーせつざげん」


 訳:この菊、きれいでしょ? 今日は重陽節だから


 秋実母「朝、食うけ?」


 訳:朝ごはん、食べる?


 秋実「みすぎてけ? 薬食う?」


 訳:飲み過ぎた? 薬飲む?


 母「知らん。外国ぐぇーくくん食いむんけ?」

 

 訳:知らない。外国の食べ物?


 秋実「すなんが、見てつきねー」

 母「なぜすったんネぐさむん食うんざ?」


 訳:

 秋実「そんなもの、見たことない」

 母「なんでそんな臭いもの食べるんだ?」


 秋実「……何すちゅんざ、きっちゃん」


 訳:何してんの、君


 母「うい、くれがうめえさんがけ」


 訳:はい、これがあんたの分


「いけーい。今日きゅーは気張ってくれにゃんね」


 訳:たくさん食べて。今日は頑張ってもらわないと


 親戚のおじさん

「ん? はー仕事け?」


 訳:ん? もう仕事か?


 ●木中レモンファームにて朝礼


 秋実父「えー、今日きゅーはわざわざ木中レムンファームん為集まっていただき、まっくつありがたーありゃす。何分、全員が集まれる日が祝日しゅくにちしかさすげん……」


 訳「えー、今日はわざわざ木中レモンファームのために集まっていただき、誠にありがとうございます。何分、全員が集まれる日が祝日しか無いですから……」


 秋実「収穫はえっれげん、みんなで手伝うんざ」


 訳:収穫は大変だから、みんなで手伝うんだ


 秋実「うめえむ来るんざい」


 訳:「お前も来るんだ」


 秋実「うん。人数にんずは多い方がええっぱ?」

 訳:「うん、人では多い方がいいでしょ?」


 秋実「ウチん飯食うてんざげん、う働き。な?」

 

 訳:ウチの飯食べたんだから、ちゃんと働いて。ね?


 〇津州弁準備体操


 ラジカセ「『津州しんしゅうべん準備ずんび体操てーさー第一でーいちぃーっ!』」


 訳:津州弁準備体操、第一ぃーっ!


 秋実父「さぁ、皆さん大好でーすき、津州しんしゅうべん準備ずんび体操てーさーん時間がやって参りゃすて!」


 訳:さぁ、皆さん大好き、津州弁準備体操の時間がやって参りました!


 秋実「きっちゃぬゎ知らんぱ? くりゃ『国民準備体操』ん津州弁しんしゅうべん版ざい。小学校ん体育ん授業で習わんざってけ?」


 訳:君は知らないでしょ? これは「国民準備体操」の津州弁だよ。小学生の体育の授業で習わなかった?


 秋実「きっちゃぬゎなぁん知らんな」


 訳:君は何も知らないな


「まぁ、いちんむんむ、作業する前にみんなで準備体操するんざ。はい、にやり!」

 

 訳:まぁ、とにかく、作業する前にみんなで準備体操するんだ。はい、真面目にやって!


 ラジカセ「『いちにーさんしー! ぐーるくしちはち!』」

 

 訳:一、二、三、四! 五、六、七、八!


 ラジカセ「『はい、膝っちゃ!』」


 訳:はい、膝を横に動かして!


「『四体してーめーぃ!』」


 訳:全身を前に! 


「『四体したい』ざい、全身。見りゃ分かるっぱ?」


 訳:「四体」だよ、全身。見れば分かるでしょ?


 崎池さん「佐藤さーん、うれ見て参考にし! 気張って!」


 訳:佐藤さん、俺見て参考にして! がんばって!



 §第九話 PB&J



 秋実「全部彼に聞いて。すれぜぁ、また」


 訳:全部彼に聞いて。それじゃ、また


 崎池さん「あいあい、カプカプざね……」


 訳:あらら、スカスカだね……


 志成おじさん「くったんカプカプぜぁ、出荷出来でくんぱ」


 訳:こんなスカスカじゃ、出荷できないだろ


「ああ、カプッちゅるヤツは捨って。黄色きいっれ実は店頭に並ぶ頃にゃあめてまうげん、らんで良せ」


 訳:ああ、スカスカになってるやつは捨てて。もう黄色くなった実は店頭に並ぶ頃にはダメになってしまうから、とらないでいい。


 崎池さん「手袋履いてやりな」


 訳:手袋つけてやりな。


 ★手袋を「履く」は実際は東北~北海道にかけて使われる。


 志成おじさん「宴会えんくぇーつきゃ、偉俊いしゅんくんが大体でーてーレムン頭ん格好かっかーすて準備体操ずんびてーさーうづっちゅる」


 訳:宴会の時は、偉俊くんが大体レモン頭の格好して準備体操踊ってる


 佐部くん「『レモン戦士シュワッチャー』ざす!」


 訳:レモン戦士シュッチャーです!


 佐部「あんレモン頭、つらくわせっぱ? 初めて出てつき、あれ見てわっぱがだーら泣いてな」


 訳:あのレモン頭、顔が怖いでしょ? 初めて出て来たとき、あれ見て子供がすごく泣いてね


 志成「ありゃ、アメリカん有名なカンデーんカラクターんまげむんざい」


 訳:あれは、アメリカの有名なキャンディーのキャラクターのパクリだよ


 佐部「『ケンディ』ん『ケラクター』ざすて!」


 訳:「ケンディ」の「ケラクター」ですって!


 志成「……『ケァンデー』ん『ケァラクター』ざっぱ?」


 訳:……『ケァンデー』の『ケァラクター』だろ?


 志成「……あらさかしくん。麗華れいくゎんあんちゃざ」


 訳:「……田新賢くん。麗華の長男だ」


 佐部「『長男』ん意味ざす」

 

 訳:長男の意味です


 志成「麗華れいくゎうれ志明しあきいむっつざ。昔、田新たあらさんゆめ行ってな」


 訳:麗華は俺と志明の妹だ。昔、田新さん家に嫁に行ってな


 佐部「さかし君ぬゎ秋実ちゃんが『いとこ』ざす」

 

 訳:賢くんは秋実ちゃんの「いとこ」です


 ●みんなでお昼ご飯


 秋実母「はい、ピー・ビー・アンヅ・ゼイ」


 訳:はい、PB&J


 秋実「ピーナツバター・エンヅ・ヂェリー・センウィッチ。アメリカんセンウィッチざ。知らんなん?」

 

 訳:ピーナッツバター・アンド・ジェリー・サンドウィッチ。アメリカのサンドウィッチだよ。知らない?


 志成おじさん「昔、工場労働者くーざーらーづーしゃなづ肉体労働にくてーらーづーすちゅる衆は、カルリーがっけむん食う必要ひつゆーがあってな。くれなら簡単にエナヂー補給ふきゅう出来でくるっぱ?」


 訳:昔、工場労働者など肉体労働してる人たちは、カロリー高い物を食べる必要があってな。これなら簡単にエネルギー補給できるでしょ?


 秋実母「さーざ、ウレンヂヅース」

 

 訳:そうだよ、オレンジジュース


 崎池さん「ぢっちゃん衆は『J』んくつ『ゼイ』て発音するげん、う『ゼイアール』なづ言うちゅる」


 訳:おじいちゃんたちは「J」のことを「ゼイ」って発音するから、よく「ゼイアール」とか言ってる


 志成「さーゆーくつ


 訳:そういうこと


 秋実父「『くつ』つ『くつっちゃ』て言やせ」


 訳:「くつ」と「くつっちゃ」って言えばいい


 貝久保「やいやい、くりゃ噂ん佐藤さつーくんぜぁらんけ?」

 

 訳:おやおや、これは噂の佐藤くんじゃないか?


 貝久保「くん色男いるうっく、づったすて秋実っちゃガ口説くづいてけ?」


 訳:このモテ男、どうやって秋実ちゃんを口説いたんだ?


 貝久保「あっぷざ、あっぷざ」


 訳:トイレ、トイレ または うんこだ、うんこだ


 貝久保「さーざ。うれ名前なめー貝久保けーくぶいづむ、『三峪みさくんカサヌバ』て言やうれくつざい」


 訳:そうだ。俺の名前は貝久保挑。「三峪のカサノバ」って言えば俺のことだよ



 §第十話 離合注意



 ●貝久保さんと二人でレモンの積み込み作業中の会話


 貝久保さん「佐藤さつーくん、秋実っちゃつうなじぐれぇざっぱ? 普段ぬゎ何ガ仕事すぐつすつる?」

 

 訳:佐藤くん、秋実ちゃんと同じぐらいだろ? 普段は何の仕事してんの?


 貝久保「稼ぎは?」


 訳:稼ぎは?


 貝久保「せっぱ、別に。うめえ、身ィ固めるんぜぁらんけ?」

 

 訳:いいだろ、別に。アンタ、結婚するんじゃないの?


 貝久保「ざが、秋実っちゃった好きざっぱ?」


 訳:だけど、秋実ちゃんのこと好きだろ?


 貝久保「すったん、大学生でーがくせいみてーな口聞いて……。今までつ付き合ぁてつきねーけ?」


 訳:そんな、大学生みたいな口聞いて……。今まで女の子と付き合ったことないか?


 貝久保「ハ! やっぱしさーけ。分かりやっせつらすつる」


 訳:ハ! やっぱりそうか。分かりやすい顔してる


 貝久保「うめえ、しかすて処男すなんけ?」


 訳:アンタ、もしかして童貞か?


 貝久保「バーヂン、て意味ざい。バーヂンけ?」


 訳:バージン、て意味だよ。バージンか?


 貝久保「すら言うな。佐藤さつーくんむ分かりやっせね」


 訳:嘘言うな。佐藤くんも分かりやすいね。


 貝久保「三十さんずー処男すなんなんて、みったーなせな……。うれが二十歳んつきなんて、三峪みさく全部掻っ攫ぁてからね……。『レデーズマンいづむ』てばれつっけ」


 訳:三十で童貞なんて、みっともないな……。俺が二十歳の時なんて、三峪の女の子全部手籠めにしてたんだから……。「レディーズマン挑」って呼ばれてたよ


 貝久保「うっくはハッキシすにゃんね。まづは、ビシィ、て自分ガうむい伝える重要づーゆーざ。津州一ん色男いるうっくん言うくつ信ず?」


 訳:男ははっきりしなきゃ。まずは、ビシって自分の思いを伝えるのが重要だよ。津州一の色男の言うこと信じな?


 貝久保「はやぁ歩き、くんダラ助! 暫時やらにゃ日が暮れるち! くれぜぁ、いつまゼんゆーガ足さん」


 訳:早く歩け、このバカ野郎! すぐやらないと日が暮れる! これじゃ、いつまでも用が足りない


 貝久保「あん山ん上!」


 訳:あの山の上!


 貝久保「すくん坂道ガへーって!」


 訳:そこの坂道に入って!


 貝久保「っけんに、かーせな! うれっけつきなんて、水泳部んプテンざってからね……。『ビッキんいづむ』てばれつってげん」

 

 訳:若いのに、しょうもないな。俺が若い時なんて、水泳部のキャプテンだったからね……。カエルの挑って呼ばれてたから。


 貝久保「『脳留守』て意味ざい。頭カンプスてくつ!」


 訳:バカって意味だよ。頭空っぽってこと!


 貝久保「さー言や、うめえマニュアル車ん運転む出来でくんざっぱ? 最近ガっけすー効無かーなしざ。うれなんてツラックん免許めんきゅむあるち」


 訳:そういや、お前マニュアル車の運転もできないんだよな? 最近の若い奴らは訳立たずだ。俺なんてトラックの免許もあるよ


 貝久保「仕方無さーなせ。はーヂヂイざげん、最近ぜぁ運転やめてB車ガっつる」

 

 訳:仕方ない。もうジジイだから、最近じゃ運転やめてB車に乗ってる


 貝久保「脳留守なーるすざな、『バス』が『B車ビーさ』ゼ、『タクシー』が『T車テーさ』ざ。常識ざーしきざっぱ?」

 

 訳:バカだな、バスが「B車」で、タクシーが「T車」だ。常識だろ?


 貝久保「『脳留守なーるす』て言うは、うめえみてえなあっぷたれったざ!」


 訳:「脳留守」っていうのは、お前みたいなクソッたれのことだ!


 貝久保「うめえ、実際づっからてんざ? 高野かーや県出身すっしんぜぁらんぱ?」

 

 訳:お前、実際どっから来たんだ? 高野県出身じゃないだろ?


 貝久保「ハッキシ言い、武陽ぶやーけ?」


 訳:はっきり言いな、武陽?


 貝久保「やっぱしさーけ、道理だーりゼ変ななんざ!」


 訳:やっぱりそうか、道理で変な話し方なんだ


「何ガ話ざ?」

 

 訳:何の話だ?


 貝久保「『道ガへーる』、『ゆーガ足す』、『車ガる』。なぁ可笑うかしなせ」


 訳:「道が入る」、「用が足す」、「車が乗る」。何もおかしくない


 貝久保「『うれまづガ開ける』」


 訳:俺が窓が開ける。


 貝久保「すなんが、『うれがレムンが好き』つうなじざっぱ? 文脈がありゃ分かる」


 訳:そんなの、「俺がレモンが好き」と同じだろ? 文脈がありゃ分かる」


 貝久保「いや、違違ちがちがうりうみざ。木中さん家たーっげ付き合いざげん」

 

 訳:「いや、違う違う。俺は漁師だ。木中さん家とは長い付き合いだから」


 貝久保「うり元来ぐゎんれー鯛内てーねいゼ、志明しあきっちゃつうな高校かーかーざってが、学校がっかー出てからすぐ働いて、何十年なんずーねんむ船ガって津州灘しんすーなだ魚捕っつっけ」


 訳:俺は元々鯛内の出身で、志明さんと同じ高校だったんだけど、学校出てからすぐ働いて、何十年も船に乗って津州灘で魚捕ってたんだ


 貝久保「海はせづ。ピキニんがいけーって」

 

 訳:海はいいぞ。ビキニの女の子がたくさんいて

 ※「ビ」キニがなぜ「ピ」キニになっているのかはウィキペディアで調べて下さい。


 貝久保「広岡ひるーかは海があるけ?」


 訳:広岡は海があるか?


 貝久保「うめえら外地ぐぇーちは本物ん苦労くらー知らんげんな」

 

 訳:お前らよそ者は本当の苦労を知らないからな。


 貝久保「日本にっぷん戦争せんさーガ負けてからアメリカんすーて、伊波いなみガアメリカ基地が作られてなぁ……。南海道なんけーだーむ一時は全部アメリカりゃーガなって……。あんつきゃえらさっけ」


 訳:日本が戦争に負けてからアメリカの人たちが来て、伊波にアメリカ基地が作られてなぁ……。南海道も一時は全部アメリカ領になって……。あの時は大変だった


 貝久保「うめえらは知らんつうむうが、はー何十年なんずーねんめー伊波いなみん辺りゼ地上戦ちざーせんがあってつき、アメリカ軍が奈津崎までて、三峪みさくっけすーむみんな出兵すっぺいさせられてなぁ……。田新たあらさんなんて、うっくん衆が戦い行って皆死んざーて……」


 訳:お前らは知らないと思うけど、もう何十年も前、伊波の辺りで地上戦があった時、アメリカ軍が奈津崎まで来て、三峪の若い人たちもみんな出兵させられてなぁ……。田新さん家なんて、男たちが戦いに行ってみんな死んじゃって……


 貝久保「田新たあらつ木中家は大昔うーむかしから親戚ざ、つつつつがれ支え合ぁてて……。今ん田新たあらむ、木中さんから男子やらく入れちゅらんゼなら無ぁなってっぱ」


 訳:田新家と木中家は大昔から親戚だ。嫁ぎ嫁がれ支え合って来て……。今の田新家も、木中さん家から男子を入れてなきゃ無くなってただろ


 貝久保「うれむ忘れてが、秋実っちゃガ爺さん、『益良雄ますらーさん』ガうやけ爺さん婆さんが元来ぐゎんれー田新たあらなんざ。すったん理由ゼ、はー亡ぁなっちゃーて益良雄ますらーさんガ舎弟さてい、『進雄すさぬーさん』が田新たあら婿むく養子やーしガ行ってな。くん進雄すさぬーさんが武雄たきゅーさん……、麗華れいくゎさんガ旦那ん父親ちちうやざ。つまり、麗華れいくゎさんガ旦那は麗華れいくゎさんガ従兄弟いつくなんざ!」


 訳:俺も忘れたけど、秋実ちゃんの爺さん、益良雄さんの親か爺さんが元々田新家の人なんだ。そんな理由で、もう亡くなっちゃった益良雄さんの弟、「進雄さん」が田新家に婿養子に行ってな。この進雄さんが武雄さん……、麗華さんの旦那の父親だ。つまり、麗華さんの旦那は麗華さんのいとこなんだ!


 貝久保「さーさー。秋実っちゃみてーな話ざ」


 訳:そうそう。秋実ちゃんみたいな話だ


 貝久保「何ざ、うめえ知らんざってけ?」


 訳:何だ、お前知らなかったのか?


 貝久保「賢君ぬゎ、秋実っちゃン婚約者ざってんざい」


 訳:賢くんは、秋実ちゃんの婚約者だったんだよ。


 貝久保「……まあ、田舎ぜぁうある話ざい。博志はくしくんガゆめさんむ博志はくしくんガ再従兄弟またいつくざ」


 訳:……まあ、田舎じゃよくある話だよ。博志くんの嫁さんも博志くんのまたいとこだ。


 貝久保「あん二人、家むっけげん、わっぱつきから始終しずーいっくにってなぁ。小学生すーがくせいつきゃ、うすん辺りん川ゼ二人ゼあすんづって……」


 訳:あの二人、家も近いから、子供の時からずっと一緒にいてなぁ。小学生の時は、よくそのあたりの川で二人で遊んでて……


 貝久保「いや、五年前ぐねんめー別れてい。ガタグタあって……」


 訳:いや、五年前別れたよ。ごたごたがあって


 貝久保「まぁ……、くん話はなぁ……」


 訳:まぁ……、この話はなぁ……

 

 ●秋実さん再登場


 秋実「――きっちゃん」


 訳:君。


 秋実「……大事け?」


 訳:大丈夫?


 秋実「……何ね?」


 訳:何?


 秋実「何が話?」


 訳:何の話?


 秋実「一緒に帰らー? まー晩飯ん時間ざに」


 訳:一緒に帰ろ? もう晩ごはんの時間だよ


 貝久保「……感情かんざー問題むんでーは難っせ」


 訳:気持ちの問題は難しいなぁ……


 ●帰り道、秋実さんと二人


 秋実「……今日きゅーは気んづくな。っれな、仕事すぐつやらせてまーて」


 訳:……今日はありがとね。ごめんね、仕事やらせちゃって


 ★「気の毒なぁ」というのは石川県・福井県の方言で「ありがとう」という意味


 秋実「レモンなんて、まーっさ嫌いっ!」

 

 訳:レモンなんて、大っ嫌い!


 秋実「かなり、て意味ざい。『まっさ』、『まーさ』、『まーっさ』ん順にレベルが上がる」


 訳:「かなり、って意味だよ。『まっさ』、『まーさ』、『まーっさ』の順にレベルが上がる」


 秋実「うりねきっちゃぜぁらん」


 訳:私は猫じゃない


「すぐ分かるっぱ」


 訳:すぐ分かるでしょ

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