子ぶたのかわいいかぶりもの

卯之はな

子ぶたのかわいい かぶりもの


ある森に、かわいいものを集めることが

生きがいの子ぶたがいました。


川でひときわ光る石や、ピンクのおおきなお花、

ひとが落としたとおもわれる赤いハートがついたネックレス。

おうちの中はたくさんのかわいいものでうめつくされて、

外はきれいに整えられた庭があります。


子ぶたは毎日おさんぽしては、

気に入ったものを持ちかえるのでした。


きょうはこの時期にはめずらしいバラの花を見つけました。

それを束にして、おうちにかえるところです。


二匹のうさぎに声をかけられました。


「あら、子ぶたさん。 きょうはなにを家にかざるの?」

「このバラよ」

「わぁ! すごくすてきね」

「うん。 わたしもそうおもう」


子ぶたはそういって、ふたたび歩きだしました。


去ってしまったあと、

うさぎたちは子ぶたの行った方向を見ていいます。


「ねぇ、あれみた?」

「またきれいな花をとったりして。 めいわくだわ」

「ぶたってみにくいからきらい」


二匹は笑いあって、子ぶたを厄介者としてあつかうのでした。


それを子ぶた自身、気づいていました。

森のものはかってに持ってかえるし、

こんな容姿だからなかなか友だちを作れずにいました。


こころをうめるかのように、

かわいいもの きれいなものに、よりひかれるのでした。


摘んできたバラを、おうちの中にかざります。

ますますへやが明るくなりました。

それを子ぶたは愛おしげにみつめて、あることに気がつきました。



わたしも着かざれば、きれいにみえるのかな…



ためしに、きょうのバラで冠をつくり頭にのっけました。

それと、人間が落したネックレスを太い首にかけます。


布でくるんだ手鏡を、はずしてみました。

拾ったはいいものの、じぶんのすがたを見たくはないために

ずっとしまっておいたものでした。


おそるおそる、子ぶたは鏡をみます。


「きれいなもので きらきらさせれば、中のわたしは目立たない」


まるでほかのどうぶつになったようで、

たちまち子ぶたは機嫌がよくなりました。

にっこり笑っても、みにくくはありません。


「あした、これでお出かけしてみよう…」


きっとみんな、なかよくしてくれるはず。

子ぶたは本当はずっと、

どうぶつたちとおしゃべりもお出かけもしたかったのです。

あしたを待ちどおしくおもいながら、眠りにつきました。


次の日のあさ。

身じたくをして、さっそく外へ出ました。


すこし不安でしたが、お花の冠をさわったら勇気がわいてきます。


歩いていると、きのうの二匹のうさぎがいました。

うさぎたちは子ぶたをみて、はっとします。


「子ぶたちゃん! あなた、きょうは一段とかわいいわね!」

「どうしたの、このネックレス! きれいだわ」

「今まであつめてきたものを、つけてみたの」


「とってもすてき!」

「お似合いよ!」


そういわれて、子ぶたは素直にうけとり ありがとう と、言って、うさぎたちに別れのあいさつをしました。

二匹のうさぎは、


「こんど、そのお花の冠の作りかたおしえてね!」


「わたしにこんどつけさせてね!」


本心からそう子ぶたにいいました。




森のどうぶつたちは、

どうしたの?や、 かわいいね! と言ってくれます。

はじめてそんなことをいわれたので、うれしくなりました。




その夜。

いつもよりかがやいた日を過ごせた子ぶたは、

よいんにひたりました。


このかざりのおかげで、きがるに声をかけてくれるどうぶつと、

そこをきっかけにお友だちになってくれたどうぶつがいました。


いつもはへやを見てはうっとりして、

なぜぶたに生まれてきてしまったのか…

なげいては悲しみにくれていました。


それが、まったくこみ上げてきません。



「なんてしあわせな日なの」



子ぶたは一日中からだにつけていたものを、

きれいに磨いて床につきました。


あしたはみんなといっしょにあそぼう…


うとうとしてきたときでした。


とんとん


と、とびらを叩かれました。 ほうもんしゃのようです。

今までおうちにきたどうぶつはいなかったのに…と、

不審におもいながらとびらの向こうにいるだれかに問いかけました。


「どちらさまですか?」


すると、すぐにへんじがかえってきます。


「わたしたちよ」

「きょう会った、うさぎ!」

「かざりつけを、おしえてもらいたくて」


うらやましそうに見ていた二匹のうさぎが浮かびました。


「まって。 今あけるから」


そういって、とびらを開けている途中で、

いきおいよく二匹は押しいるようにはいってきました。

その拍子に、子ぶたは尻もちをついてしまいます。


立ち上がることができなかったので、

うさぎを見上げるかたちで、声をしぼりだして聞きました。


「うさぎさん、どうしたの」



にくらしそうに、うさぎは子ぶたをみます。

「あなたにあれはふさわしくないわ」


けがらわしいものをみるように、うさぎは言います。

「ほら、はずしていると、ただのぶたじゃない」



そういうと、さっき磨いたばかりのネックレスや、

形の整えた花かざり、へやにおいてあるものを物色します。


そのあさましいことをするうさぎたちに、

子ぶたはおびえてしまって動けませんでした。


「うさぎのほうが似合うに決まっているじゃない」

「ぶたなんかに生まれてこなくてよかった」


二匹は、言い放ちました。



じぶんだって、うさぎみたいにかわいいどうぶつに生まれたかった



一匹が、手鏡をみつけて子ぶたに放りなげます。


「これでも一生みていなさい」


くすくすと笑うと、またへやを漁りました。

子ぶたは、落ちている鏡に写るじぶんを見ます。



なんて みにくいのだろう…



うさぎたちは、へやにあるもので

じぶんたちを飾りたてるのに夢中になっています。

子ぶたは手鏡をひろいました。 


その子ぶたの目は、

おうちにかえってきたときにあったかがやきが消えていました。


おうちの柱に手鏡をぶつけると、鏡を割りました。

その音で、二匹はおどろいてふりかえります。


ふりかえって見た子ぶたの手には、

割れてとがった鏡の破片がにぎられていました。

力強くにぎっているせいか、手から血がしたたり落ちています。



「かわいいうさぎさんたち、わたしをかわいくしてよ」



おびえる二匹に、子ぶたは…




「これで、よし!」


子ぶたが作業をおえると、もう朝になっていました。

きもちのいい、晴れた天気です。


子ぶたが、ぬい終わったものをからだにまといます。


それは真っ白な毛皮でした。


「これでわたしも、かわいくなった」





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