異世界ものに歴史的根拠を
第四コマ フィクションの中のリアリティ
「みなさん、こんにちは。すっかりご無沙汰してしまいましたね。
世間一般が〈昭和の日〉で御休みだった、四月二十九日の祝日開講日以来の講義なので、実際に、みなさんに、こうしてお会いするのは、なんと二週間ぶりになってしまいました。
ところで、覚えてくれているでしょうか? この複合文化論のゼミを担当している隠井迅です」
「先生、二週間程度あいだが空いたぐらいじゃ、さすがに忘れないっすよ」
「オーケー。それならば無問題ですね。
で、〈ようやく〉って感はあるのですが、今日から本格的にゼミを開始する事にしたい、と考えています。
ゴールデン・ウィークというミニ休暇も終わって、七月半ばの〈海の日〉までは、国民の祝日が一日も無い、こう言ってよければ、大学の講義は、週末以外の休み無き〈デス・マーチ〉に入ってしまったのですが、まあ、お互いに頑張っていきまっしょい。
さて、この小休暇の間に、当ゼミにおける発表の叩き台となる千字程度の概論を提出してもらった分けなのですが、みなさんが提出してくれた、その概論に基づいて、テーマごとに〈緩い〉グループ分けをしました。
つまるところ、ランダムに発表してもらって、テーマがコロコロと変わってゆく、というよりも、できれば、テーマが近い人で固まって、続けて発表してくれた方が、発表者の話を聴く受講生も、リアクションがし易いのではなかろうかっていうのがグループ分けをした意図です。
さてさて、そうして、テーマごとに発表者をグルーピングし、かつ、クジ引きで発表順を決めた結果、来週からは、『〈フィクション〉の中の〈リアリティ〉』という題目で、〈フィクション〉をテーマとする受講生の担当回となります」
「先生、自分、そのテーマを選んだ分けじゃないんすけど、『フィクションの中のリアリティ』ってどうゆう主題なんすか?」
「ざっくりではありますが、説明してみましょう。
このグループの名称(仮)は、わたくしが勝手に名付けたものなのです。
さて、小説、漫画、アニメ、ゲーム、映画など様々な虚構作品の中には、現実世界を舞台にした作品もあれば、日本史であれ世界史であれ、実際に、過去に起こった歴史的出来事を題材にした、いわゆる歴史小説もあります。
こうした現代小説や歴史小説を、事実を題材にした〈リアル〉寄りの物語である、とするのならば、その一方で、〈非〉現実的な事柄を題材にした、伝奇ものや幻想もの、SFといった、空想的な虚構物語も存在します。
そして、今現在、虚構作品のジャンルを席捲しているのは、ファンタジー、特に、〈異世界もの〉である事は、書店のライト・ノヴェルのコーナーに足を踏み入れてみたり、あるいは、今期放映されているアニメを数本視聴してみるだけで、これが否定の余地がなき事は、みなさんの方が詳しいかもしれません」
「そう言えばそうっすね。
二〇二四年の春クールだけでも、異世界ものは、『Unnamed Memory』、『狼と香辛料』、『このすば(この素晴らしい世界に祝福を!)』、『THE NEW GATE』、『出来損ないと呼ばれた元英雄は、実家から追放されたので好き勝手に生きることにした』、『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』、『転スラ(転生したらスライムだった件)』、『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』、『魔王学院の不適合者』、『魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?』、『無職転生』、『Re:Monster』、『Lv2からチートだった元勇者候補のまったり異世界ライフ』、『月が導く異世界道中』とかありますしね」
こう早口で作品を列挙していったのは、ゼミの中でもラノベ好き・アニメ好きで通っている受講生の一人であった。
「さて、そういった異世界ものの物語の多くは、いわゆる、実際のヨーロッパの中世が舞台な分けではなく、何となくヨーロッパ的な、ヨーロッパ〈風〉の物語世界を舞台背景にしています」
「なるほど、たしかに、日本の歴史そのものじゃなく、『烏は主を選ばない』みたいな和〈風〉ものとか、実際の中国じゃなく、中華〈風〉な『薬屋のひとりごと』とかも何々〈風〉ですよね」
「その通り。
で、たとえ、異世界ものが、ヨーロッパ〈風〉に過ぎず、実際の中世ヨーロッパの〈リアル〉を描いたものではない、としても、モデルにしている中世ヨーロッパの事実と明らかに矛盾するような情報を使っているとしたら、そのような些細な綻びから、作品の〈リアリティ〉は損なわれてしまう、と私は考えます。
だから、異世界ファンタジーを描くのならば、自覚的に、ヨーロッパに関する正確な知識をもってして、可能な限り、作品に〈リアリティ〉、真実っぽさを付与するように努めるべきではないでしょうか。
そのような観点から、異世界ものに出てくる、ヨーロッパに関する〈知〉を整理できるような、そんな発表を期待している次第です」
〈参考資料〉
〈WEB〉
「2024春アニメまとめ一覧|4月放送開始 新作アニメ・再放送アニメ情報」、『アニメイトタイムズ』、二〇二四年五月十三日閲覧。
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