令和六年度(2024年度)春学期(月曜七限更新)

リハビリ的イントロダクション

第〇コマの一 七年に一度のサバティカルと七日に一度の日曜日

 令和六年の四月中旬に、大学講師の隠井迅は、一年ぶりに大学の教室に戻る予定になっている。実は、この一年の間、隠井が教壇に立たなかったのは、昨年、令和五年度が〈サバティカル〉であったからだ。


 サバティカルとは、大学の教員に対して、原則〈七年〉に一度与えられる半年から一年の長期的〈研究休暇〉の事で、多くの大学教員は、このサバティカルを利用して、研究・調査目的で海外に在住したりする。

 そして近年では、大学以外でも、サバティカル〈的〉な長期休暇が取得できる企業もあるらしい。


 サバティカルは、英語では〈Sabbatical〉と綴るのだが、その語源はラテン語の〈sabbaticus(サバティクス)〉である。

 その由来は『旧約聖書』の『創世記』に認められ、天地創造を終えて、神が七日目に休息を取った事から、六日間働いた後の七日目、人は何も行ってはならない、と定められており、ユダヤ教では、これを「シャバット」と呼び、日本語では〈安息日〉という訳語が当てられている。

 ユダヤ教においては、聖なる日である安息日は週の最後の日で、金曜日の日没から土曜日の日没までが安息日に当たり、戒律として、休息し、いかなる労働もせずに過ごすように命じられ、この労働不許可の規則は実に厳格で、安息日の日中には、家事を含めたあらゆる労働を行わないそうだ。

 それにしても、ユダヤ教では土曜日が休日になっているのは実に興味深い。


 さて、キリスト教では、週の第一日目が休みになっているのだが、これは、キリストが復帰したのが週の初めだったからで、この曜日は、日本語では〈主日〉あるいは〈主の日〉という訳語が当てられている。

 歴史的に言うと、西暦三二一年、キリスト教を公認した〈コンスタンティヌス一世〉は、週の初めを休日とする法令を発布し、以来、週の初めたる〈主日〉が、礼拝と休息の日となり、やがて四世紀末には、主日を、〈太陽の日〉、すなわち、〈日〉曜日と呼ぶようになった、との事である。

 とまれかくまれ、キリスト教においては、週の初めに置かれている日曜日が休みになっているのだが、このキリスト教の〈主日〉は、ユダヤ教の〈安息日〉ほどまでには厳密ではなく、完全に労働不許可が求められている分けではないそうである。


 現代日本においても、多くの学校や会社は、日曜日を休みにしているのだが、店などは普通に日曜に開店し、休日を謳歌する人たちを迎え入れている。何故ならば、他者が休んでいる時こそが、利益が見込める店の〈書き入れ時〉だからだ。

 歴史的に言うと、日本における日曜日の歴史は未だ二〇〇年も経っていない。

 つまり、明治時代に太陽暦が導入され、〈七曜〉が使われる事になった際に、〈日曜日〉を休みとする考えが西洋から輸入されたのだ。ここにさらに、神武天皇が即位した日が日曜日であった、という理由も加わって、日本でも、日曜が休日とされた次第なのだ。

 だが、西洋からの輸入物である故にか、日曜を休みとする考えのみが適用され、宗教的理由を背景とする労働不許可という概念を取り込んでいないのは、実際、日本において、日曜日に働いている数多くの人の姿を目にしている事からも明らかであろう。


 隠井は、今回のサバティカルの間は世界規模の感染症の後という事もあって、日本国内で研究していたのだが、この間、今世紀の初めの院生時代にフランスに留学していた時の事を何度か思い出した。


 今のフランスは、たしかに、ローマ・カトリックを国教にしていないのだが、それでもやはり、キリスト教文化圏の国なのだ、と留学中に隠井は何度も思ったものだった。

 というのも、皆無ではないせよ、フランスでは、〈主日〉である、週の頭の日曜日に営業している店は本当に稀で、うっかり土曜日に買い溜めをし忘れたりすると、日曜日に食事に事欠くような状況になってしまう分けで、実際、空腹で困った事態に陥った事が何度〈も〉あったからだ。

 それは、二十世紀の初頭の一九〇六年に、フランスでは、日曜日の労働が法律で禁止されたからで、この日曜における労働不許可の法律は、先に述べた、キリスト教においては日曜が礼拝と休息の日という宗教的理由に裏付けられている。


 しかし、こういった、フランスでは日曜には店が開いていない、という状況下にあって、空腹に喘ぎ、飲食物を求めてパリをさ迷っていた隠井を救ってくれたのが、〈エピスリー〉、通称、〈アラブ屋さん〉であった。

 エピスリーが日曜日でも開いていたのは、その〈アラブ屋さん〉という二つ名通り、アラブ人が経営する店なので、〈主日〉であり日曜を休日とするキリスト教の宗教的事情や法律を無視し、罰金を払ってでも営業をしていてくれたからであろう。

 

〈参考資料〉

〈書籍〉

 「安息」「日曜日」、上智大学・新カトリック大事典編集委員会編『新カトリック大事典』、東京:研究者、一九九八年。

 「安息日」「日曜日」、『岩波キリスト教辞典』、東京:岩波書店、二〇〇二年。

〈WEB〉

 「サバティカルとは? 休暇制度の効果やメリット・デメリット、導入時のポイントや導入事例について解説」、『BIZREACH withHR』、二〇二四年四月一閲覧。

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