令和四年度(2022年度)秋Q
数字にまつわる諸々の事象
第壱講 君はシーランドを知っているか?:世界の国の数
大学講師の隠井は、講義開始時刻になるのを待っていた。
やがて、スマフォの表示時刻が、四時限目の開始を示す「16:30」になるや否や、ネクタイの位置を正し、ひとつ深呼吸をしてから、自分の〈間〉で声を発したのであった。
「はい、みなさん、こんにちは。
今日、十月の第一週目の金曜日たる七日が、秋学期における〈文化論〉の第一回目の講義日になります。
これから全十五回に渡る講義、よろしくお願いいたします」
「「「「「「「「「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」」」」」」」」」
「ところで、みなさん、今現在、世界にどのくらいの数の〈言語〉があるか御存じでしょうか?」
「三十くらいですか?」
「いやいや、それは少ないって。国の数と同じ位はあるよ、きっと」
「じゃあ、百くらいかな?」
「なるほど。
それでは、まずここで、二〇二二年現在、世界にある国の数を確認する事から始めましょう」
「ムッシュー、ウィっス」
「日本が〈国〉として認識しているのは、日本を含めて〈一九六〉ヵ国なのです」
「二百はいってないんすね。ところで、『国として認識』ってどういう事ですか?」
「そう。この場合の〈国〉というのは、つまるところ、日本が〈承認〉している国という意味です」
「それじゃ、新たに承認したら国が増えて、承認を取り消したら国が減るってこともあるんすか?」
「そうですね。最近で言うと、今から約十年前の二〇一一年に、クック、ニウエ、そして、南スーダンの三ヵ国を日本は承認しました」
「先生、それじゃ、国連に加盟している国の数も、その『一九六』ヵ国なのですか?」
「いやいや、実は、今現在の国連の加盟国数は〈一九三〉ヵ国なのですよ」
「あれ、数、減ってないっすか?」
「そう。日本が承認している国のうち、バチカン、コソボ、クック、ニウエの四ヵ国は、実は国連に未加盟なのです」
そう言いながら、隠井は、ホワイトボードに、こう板書したのだった。
日本の承認国:196
国連加盟国:193
日本の承認国・
国連未加盟国:004:バチカン;コソボ;クック;ニウエ
「ちょっと待ってください。先生、数が合ってないっすよっ! 国連加盟国が一九三で、未加盟国が四なら、足したら〈一九七〉っすよ。計算、間違えたんすか?」
「いやいや間違ってはいないのですよ。実は、国連に加盟している国の中に、日本が承認していない国があるという話なのです」
「それって、一体どこの国なんすか?」
「北朝鮮ですよ。
で、その北朝鮮も含めると、たしかに、国として日本は承認してはいないのですが、世界の国の数は〈一九七〉と考えられるかもしれませんね」
「先生、その〈一九七〉の中に、シーランドって入っていますか?」
「あっ! シーランドか……。ここで、その名が出てくるとは思いませんでした」
「実は、この前、動画のサブスクで『ヘタリア』ってアニメを観ていたら、シーランドが出てきていたのです」
「ムッシュー、シーランドって何っすか? 自分、初めて聞いたんすけど」
「シーランド、知らない人、ちょっと挙手してみて」
多くの受講生が手を挙げていた。
「なるほど、それじゃ、ちょっと語るとしますか。
シーランド公国ってのは、北海の南端、イギリスの沖合十キロメートルの位置に浮かぶ人口島を領土とする、世界最小を〈自称〉している国なのです」
「あれっ! 世界最小の国って、バチカン市国じゃないのですか?」
「面積それ自体は、シーランドの方がバチカンより狭いのです。
たしかに、バチカンは国連に未加入なのですが、日本はバチカンを国として承認しています。
だがしかし、シーランドは、国連未加入にして、さらに、日本未承認なのです」
「それじゃ、結局、シーランドって、国なんすか、そうじゃないんすか?」
「たしかに、シーランドの運営者の〈パディ・ロイ・ベーツ〉は、〈シーランド公・ロイ公〉を僭称し、占拠した海上の要塞を〈シーランド公国〉と名付け、かくして、シーランド公国の創設を宣言したのですが、その創設以降、シーランドを〈国〉として承認した国は存在せず、つまるところ、未だかつて、どの国からも、シーランドは国として認められてはいないのです」
「なるほど、だからなのですね。『ヘタリア』に出てきた『シーランド君』が、他の国が集まっている会合で無視されているシーンがあったのは」
「あの場面は、どこの国からも〈承認〉されていないって事実が、的確に表現されている逸話でしたね。
さてさて、イントロの国の数やシーランドの話で、割と時間を使ってしまって、肝心の言語数の話には全く触れる事ができませんでした。
それじゃ、宿題にしましょうか」
「「「「「「「「「「「「「「OKです」」」」」」」」」」」」」」
「それでは問題です。
世界にある国の数は、シーランドを除き、北朝鮮を含め〈一九七〉なのですが、それでは、世界中に存在している言語の数は果たして幾つでしょうか?
次回の講義までに考えておいてください。
それでは、また来週」
〈参考資料〉
〈WEB〉
「世界と日本のデータを見る (世界の国の数、国連加盟国数、日本の大使館数など)(令和四年五月一六日)」、『外務省』、二〇二二年十月七日閲覧。
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