冬Q第15講 百一花の繚乱ぜよ
「十一月三日の文化の日に開講した、この短期集中ゼミも、今日、終わりを迎えることになりました。
何が起こるか分からないので、発表スケジュールには一回分の余裕をもたせていたのですが、問題なくスケジュールは進行し、今日は僕が何か話でもしようかなって思っていたのですが、その予定を変更します。
実は、来年度のゼミ選びの参考として、何人かの一年生が時々、〈お試し〉参加していたのですが、そうした一年生の一人が、このゼミに初回からずっと参加してくれていて、自分も発表したい、と申し出てきたのです。
君たちは、その一年生の発表を、先輩学生の立場から、温かい心で聞いてあげてください。
それではお願いします」
「文化構想学部一年の桝田祐美子(ますだ・ゆみこ)です。
わたしは一年生で、隠井先生のフランス語を履修しています。それで、来年は、先生のゼミ生になりたい、と思っているので、先生にお願いして、ゼミに参加させていただいていました。
実は、今、地元の高知県にいて、この一年は全ての講義をオンラインで受講してきました。
みなさんのイメージでは、高知と言えば、食べ物だとカツオ、人物では、幕末の坂本龍馬や、自由民権運動の板垣退助などで、なかなか他の印象は抱きにくいかもしれません。そこで、今回は、この場をお借りして、少し高知の紹介をさせてください。
実は、高知市の高知城は、日本三大夜城の一つに数え上げられているのです。
二〇一四年に行われた『夜景サミット2014 in 北九州』において、大阪の大阪城、新潟の高田城と共に、高知城は、昼の城の様子とは異なる、夜独特の美しさを見せる〈日本三大夜城〉の一つに認定されたからです。
そういった次第で、ライトアップされた、高知城の夜の姿は実に美しいのですが、それに加えて、高知城では、夜間イヴェントが頻繁に行われていて、そして今現在も、夜の高知城をさらに彩る、そんなイヴェントが催されています。
それが、『NAKED FLOWERS(ネイキッド・フラワーズ)―高知城―』です。
これは、『ネイキッド・インク』という、〈プロジェクション・マッピング〉などを行っている創作集団が企画したイヴェントです。
〈プロジェクション〉は投影する、〈マッピング〉は重ね合わせるという意味なのですが、〈プロジェクション・マッピング〉とは、平面ではなく、〈立体物〉に映像を重ね合わせるもので、その特徴は、2Dではなく、〈3D〉という点です。
つまり、この〈ネイキッド・フラワーズ〉とは、日本三大夜城の一つである高知城の〈プロジェクション・マッピング〉なのです。
ただでさえ、夜の姿が魅力的な高知城が、プロジェクション・マッピングによって、次々に色彩を変えてゆく様子は、まるで、次々にモデルを着せ替えてゆく、ファッションショーのような印象をわたしは受けました。
今回の『ネイキッド・フラワーズ』では、城のプロジェクション・マッピングだけではなく、城の敷地内において、光をふんだんに利用した、様々なデジタル・アートも見られて、その中でも、わたしが最も興味を抱いたのは、地面に〈AR〉の川が投影されて、そこに魚が泳いでいるデジタル・アートでした。そこでは、足元が濡れていないのに、川の中に入っているような不思議な感覚を味わいました。
この高知城のイヴェントは、二〇二一年十一月十九日から、翌年の一月十日の約二ヶ月が、開催期間なのですが、わたしは、先々週の十二月十一日の土曜日に『ネイキッド・フラワーズ』に行ってきました。
というのも、この日は、夜の高知城で、アニソン・アーティストの〈ReoNa〉さんのミニライヴが行われたからです。
わたしは、アニメもアニメ・ソングも大好きで、『SAO』の「アリシゼーション」編を観ていて、ReoNaさんの大ファンになってしまったのですが、この一年、地元から出れていないので、なかなかライヴとかには行けない状況にありました。そんな中、な、なんと高知にReoNaさんが来てくれたのです。こんな機会を逃すわけにはゆきませんよね。
ライヴのステージは、プロジェクション・マッピングされている高知城を背景にするような場所に設置されていたのですが、その日本の三大夜城の一つをバックにして、野外で歌ったReoNaさんの御歌は心にしみこんできて、その歌唱する御姿もとても綺麗でした。
ライヴが始まる前は、まさか、ReoNaさんは〈AR〉でした、なんてオチはないよねって変な妄想もしていたのですが、実際に近くから目にした、実物のReoNaさん、本当に小さくって可愛くって、一緒に行った友達と、何度も何度も「かわいい、かわいい」とか言い続けてしまいました。
高知城の〈ネイキッド・フラワーズ〉には、『百花繚乱ぜよ』というキャッチコピーがあって、高知城のプロジェクション・マッピングや、敷地内のARによって、百の花が咲き乱れたようになっていたのですが、十二月十一日には、高知城に歌姫が舞い降りて、さらに、もう一輪の花が咲き開いて、〈百一花繚乱〉になったかのような印象を、わたしは抱きました。
みなさん、いつか、美しい夜城である高知城を観に、高知にいらしてください、ね。
これで、わたしの発表を終えます。
ご静聴ありがとうございました。発表の機会をくださった先生、感謝しております。
ちなみに、以下が、今回の発表の参考資料です」
そう言って桝田は、プレゼン・アプリで、参照した資料のスライドを見せたのだった。
〈参考資料〉
〈WEB〉
「日本三大夜城」,『夜景検定』,二〇二一年十二月二十三日閲覧.
「高知城」,『高知城公式ホームページ』,二〇二一年十二月二十三日閲覧.
「NAKED FLOWERS -Kochi Castle-」,『NAKED,INC.』,二〇二一年十二月二十三日閲覧.
「ReoNaオフィシャルサイト」,『SACRA MUSIC』,二〇二一年十二月二十三日閲覧.
しばらく経ってから、桝田が、隠井から送られてきたコメント・シートの中に次のようなものがあった。
「実は、自分、その高知のイヴェントに行っていました。最前にいたのですが、もしかしたら、自然エンカしていたかもですね」
えっ! ほんとに?
驚きながら、桝田はこう思った。
来年は、上京して大学に行く予定だし、先生や、このコメントをくださった方に、ゼミで御会いできるかもしれないわね。
って。
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