冬Q第11講 VR的かAR的か、それが問題だ

「今日の発表者もオンラインでしたね。それでは、お願いします」


「はい。社会学コース三年の井手口萌香(いでぐち・もえか)ですぅ。みなさん、あたしのことは〈モカ〉って呼んでくださいね。


 あたしも、昨日発表した副川さんと同じオンライン組で、この夏に、ちょっと体調を崩してしまったので、秋学期は、自宅がある鎌倉から受講しているわけですぅ。


 あたしは、漫画、ラノベ、アニメ、ゲームといったサブカル、特に、ラノベが大好きで、できれば、ラノベ関連の編集者になりたい、と思っているので、この発表も、ラノベと関連付けたテーマにしたいって考えてきました。

 当然、先週、男子学生さんが発表した『SAO』は、原作もTVアニメも、もちろん、映画も観ていますぅ。

 実は、先週の発表を聞いた時は、『あっ、かぶっちゃったぁぁぁ〜』って思ったんですけど、別に、発表で、あの〈黒パン〉を扱うわけではないので、ま、いいかって思って、あたしも、このゼミ論で、『ソードアート・オンライン』を話のダシにすることにします。


 『ソードアート・オンライン』、長いんで『SAO(エス・エー・オー)』という呼び方のほうを使いますね

 その『SAO』には、現代には、未だ存在しない種類のゲームが出てきます。

 それは〈VRMMO〉で、〈VR〉ってのは、簡単に言っちゃうと、プレイヤーが〈ゲームの世界の中〉に入っちゃうタイプのゲームですぅ。


 うちのお父さんが言っていたのですが、お父さんが小学生の頃、『トロン』という映画があって、それが、たしか、ゲームの中に登場人物が入ってしまうタイプの話だったそうですぅ。

 そう考えると、ゲームの中、テレビの中、本の中に、現実世界の人間が入っちゃう話って昔からあったように思えます。

 例えば、ミヒャエル・エンデの『ネバーエンディング・ストーリー』、これは家にビデオがあったので観たことがあります。それと、これは、お母さんの漫画なんですけど、『ふしぎ遊戯』って作品も、本の中に現実世界の中学生が入ってしまう話でした。今のラノベだと、ゲームの世界にキャラが入っちゃう話は、もう、ムチャクチャたっくさんありますよね。

 多分、キャラが入っちゃう世界が、本とかではなく、ゲームってのが、今のラノベやアニメの流行りなんでしょうね。

 で、あたしは、そうしたフィクションの世界に現実世界の人物が入ってしまうタイプの話を、〈VR〉タイプと呼ぶことにしたい、と考えています。

 『SAO』は、明らかに、この〈VR〉タイプの話ですよね。


 ところで、みなさんは、『SAO』の劇場版って観ました? えっと、今やっている『プログレッシブ』の方ではなくって、数年前にやっていた『オーディナル・スケール』の方ですぅ。

 この映画を未だ観ていない人とか、観たけれど、内容を忘れちゃったって人は、色んな配信サイトで観れるので、時間があったら観てくださいね。


 さて、この劇場版『SAO』の『オーディナル・スケール』の方は、これまでのTV版の『SAO』シリーズのように、キャラたちがゲームの中に入ってしまう〈VR〉タイプのストーリーではありません。

 どぉゆう話か、ざっくり言うと、主人公たちが存在している現実世界の方に、ゲームの中のモンスターとか、ゲームの中の存在が現れて、それらとバトルするって内容になっています。

 このように、ゲームの中の存在が現実世界に飛び出てくるタイプの話を〈AR〉タイプのストーリーと呼ぶ事にします。


 『SAO』だと、ゲームの世界なのですが、フィクションの中の存在が現実世界の方にやって来ちゃうってゆう、例えば、テレビや本の中から出てくるって、さっきのVRタイプとは逆の話も、昔からあるようです。


 お察しのように、うちは両親ともにヲタクで、家には大量の漫画や、ビデオやDVDが山ほどあるのですが、夕食の時に、今日のゼミ論の話をしていたら、お父さんが、ビデオから出てくるって話ですぐに思いつくのは、『ジャンプ』で連載していた『電影少女(でんえいしょうじょ)』だと教えてくれました。そして、お母さんが言うには、『ふしぎ遊戯』の中に、逆に、本の中のキャラが現実世界にやってくるって展開もあったそうです。そういえば、『SAO』の第四期でも、そのラストに〈アリス〉というキャラが現実世界にやってくるので、この部分は〈AR〉的な展開になっていますよね。


 こんな風に、物語を、虚構の世界に現実世界の人物が〈入って〉ゆく〈VR〉タイプと、その逆に、虚構世界の存在が現実の世界に飛び〈出て〉くる〈AR〉タイプに分類してみました。


 それでは、です。

 こうした〈VR〉や〈AR〉というのは、ラノベやアニメの中だけの、SFやファンタジーの中だけの技術なのでしょうか?

 たしかに、ゲームの世界に〈ダイブ〉したり、ゲーム内のキャラがテレビの中から出てくるってのは、現代のテクノロジーでは未だ可能にはなっていないのは事実です。

 でも、〈VR〉や〈AR〉というのは、完全な空想科学ではないのです。


 ここまで話してきて、いまさら感もありますが、一回ちゃんと〈VR〉と〈AR〉を定義しておくことにします。

 〈パワポ〉で、まとめておきました。


 VR:「Virtual Reality」 の略、〈仮想現実〉

 AR:「Augmented Reality」 の略、〈拡張現実〉


 画面の彼方のみなさんの頭の上にも、大量のクエスチョンマークが浮かんでいるのではないでしょうか? この英語や日本語の訳語をみても、どうも全くピンときません。

 なので、もう少し調べてみる必要があると思います。


 現代の技術では、『SAO』みたいに、ゲーム世界にダイヴすることは、未だ無理ですぅ。でも、その代わりに、あたかもゲームやビデオの中に入ったかのような感覚を味わうことはできます。そのための、VR専門のゴーグルも既に販売されていて、このゴーグルを着けると、着用した人の頭の動きに合わせて、ぐるっと三百六十度の映像が映し出されるのですぅ。ですので、少なくとも視覚という点では、ゲームやビデオの中に入り込んで、物を見ているような感覚を味合うことができるみたいなのですぅ。つまり、自分の視界とリンクしているので、ディスプレイという平面上でゲームをしている場合よりも、プレイの際の没入感は段違いなのですぅ。あたしも、このVRゴーグルは体験したことがあります。

 そして、あたしは未体験なので、どんな感じかは分からないのですが、映像の中の物を触ったり、映像の中で歩き回れる〈VR〉機器もあるそうですぅ。その機械って、任天堂の《Wii(ウィー)》みたいな感じなのでしょうか? ちょっと分かんないんですけど。 


 これに対して〈AR〉は、これも、VRゴーグルみたいな専門の機器が既に存在しているらしいのですが、これも、あたしは使ったことがないので、よく分からないんですけど、でも、スマホでなら、AR体験をしたことはあります。

 たぶん、この中にもやっていた人いると思うのですが、それは『ポケモンGO』ですぅ。

 これは、実際に町に出て、マップデータでポケモンを見つけたら、そこでポケモンをゲットするってゲームですぅ。

 スマホの中のデフォルトの設定では、ポケモンも背景も〈CG〉なのですが、〈AR〉モードに設定をかえて、スマホを掲げると、ポケモンは絵のままなのですが、背景の方は、プレイヤーがいる現実のリアルな空間の実写に変わるのですぅ。

 つまり、スマホを通して見えている映像では、リアルな現実空間にポケモンが実際に現れたように見えるのですぅ。 

 現実空間に非現実の存在が現れたようにする、この技術が〈AR〉なのですぅ。


 こんな風に、〈VR〉や〈AR〉という技術は、ゲームなどを通して、あたしたちの世界の中に既に存在しているわけですぅ。


 あたしは、理系じゃないので、機械的なことはまったく分からないので、文系っぽく、〈VR的〉なのか〈AR的〉なのかっていう〈ものの見方〉の話で、今日の発表を締め括ることにします。


 今、あたしたちは、このゼミを、〈対面〉と〈オンライン〉の〈ハイブリッド〉タイプで受けているわけですよね。

 これって、あたしの感覚だと、家でオンラインで講義を受けているのって、画面の向こうで行われている〈講義の世界〉にダイブしているって感じで、つまり〈VR〉的なわけですぅ。

 でも、自分が、春学期に学校に行って、ハイブリッドを受けて、発表者がオンラインの場合には、教室にいるあたしたちの前に、オンラインにいる方が現れるっていう感じでした。つまり〈AR〉的っだったわけですぅ。

 で、前のあたしは、家で受けている時の映像は〈VR〉的で、教室で受けている場合の映像は〈AR〉的なのかなって簡単に考えていました。

 でも、ですぅ。

 在宅していても、映像が自分の部屋に出現するような感覚を味わうとしたら、それって〈AR〉的なのではないのかって。


 テクノロジーとしての〈VR〉技術、〈AR〉技術の違いの場合は、明らかな違いがあるのかもしれませんが、〈人の認識〉って点で言うと、何が〈AR〉的で、何が〈VR〉的かっていゆう思考の遊びは、まだまだ〈あそび〉の余地があるように思えます。


 以上で、モカの発表を終えることにします。お聞きくださり、ありがとうございました」


〈参考資料〉

〈劇場版映画〉

『トロン』,製作会社:ウォルト・ディズニー・プロダクション,一九八二年公開.

『ネバーエンディング・ストーリー』,配給:ワーナー・ブラザース;東宝東和,一九八四年公開.

劇場版『ソードアート・オンライン オーディナル・スケール』,配給:アニプレックス二〇一七年公開.

〈漫画〉

桂正和『電脳少女』全十五巻,東京:集英社,一九八九年 ~一九九二年.

渡瀬悠宇『ふしぎ遊戯』全十八巻,東京:小学館,一九九二年 ~一九九六年.

〈ゲーム〉

『ポケモンGO』,発売元:Niantic,Inc.,二〇一六年発売.

〈WEB〉

「VRとは?仮想空間を体験できる仕組みやARとの違いなどVRの基礎知識を解説」,『NECソリューションイノベータ』,二〇二一年十二月九日閲覧.

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