席順

 六人で座るテーブル席の窓側に壁際からあやちゃん、みどりちゃん、ぼたんの順に座って、通路側の壁側に都築が座る。


 流れに従って俺はみどりちゃんの前に腰を下ろした。

 気持ち的にはぼたんの前のほうが気楽でよかったんだが仕方ないか。


 みどりちゃんとはさっきまで話していたのでまだいいほうかな。

 初対面の女子と短時間で何人も話すなんて、俺にはハードルが高すぎる。

 

「さて、何か注文しよう」


 都築は言ってメニュー表を俺に配る。

 都築とあやちゃん、俺とみどりちゃんとぼたんの三人で見ることになった。


「ぼたんちゃんは何が飲みたい?」


 みどりちゃんはまずぼたんの意見を聞いた。


 ウーロン茶を頼む場合が多いが、ここは空気を読んでミルクティーかな。


「ミルクティーをお願いします」


 よし的中した。

 言葉にはできないので心の中で一人こっそりと勝ち誇る。


「宮益は何にする?」


 コーラにするか紅茶にするか、それともウーロン茶にするか。


「コーラにするよ」


 何となくコーラのほうがいい気がした。

 

「へえ、宮益くんってコーラを飲むんだね」


 みどりちゃんが興味津々という顔で話しかけてくる。


「うん、ちょくちょくね」


 今日は単なる気まぐれだが。


「じゃあ私もコーラにしようかな」


 みどりちゃんがそんなことを言った。

 何か意味深な言い方だし笑いながらこっちを見てくる理由もわからない。


 ちらりとぼたんを見てみるとへーって顔をしている。

 猫が初めて見る生き物を観察しているような感じだ。


 まあぼたん以外の女子が俺に話しかけてくるのは、俺だって意外だけどね!


「俺はカルピスかな」


「私はウーロン茶で」


 都築とあやちゃんの注文はバラバラだった。

 統一感ないなーと思ったけど、ここで統一する必要なんて感じないものなのか。


「みんなはどういう関係なの?」


 とあやちゃんが都築と俺を見ながら聞いてくる。

 いきなりな気はするけど、最初の質問としては無難なところか。


「宮益は同級生で、道玄坂さんは宮益の知り合いかな」


 都築が答える。


「中学の時の後輩だよ」


 具体的に言ったほうがいい気がしたが、ぼたんは言う気がないと顔に書いてあったので俺が話す。


「へえ、そうなんだ? 仲いいの?」


 みどりちゃんが食いついてくる。


「まあまあかな」


 ぼたんは黙ってるので適当にやりすごそう。

 本当は仲良しと言うべきなんだろうが、学校が違うならわからないだろ。


 それに今後再会する予定もないんだから、本当のことを話す必要もなさそうだ。


「へえー」


 みどりちゃんは相槌を打ってくれたものの、


「男子ってそうやって逃げる時あるよね」


 あやちゃんは少し辛らつな言い方をする。

 逃げてるわけじゃないんだが、説明のしようがないな。


 ガチで説明したらこの場が白けてしまう可能性だってある。

 せっかく誘ってくれた都築の手前、それは避けたいんだよな。


「まあどう言えばいいのかわからない場合もあるから」


 都築が微苦笑を浮かべながらフォローしてくれた。

 こういうところがデキる男だなって感心する。


 俺もこんな細かな配慮ができるようになれたらいいな。

 意識する程度じゃできるようになる気がしないが。


「ふーん」


 あやちゃんはひとまず矛をおさめた。

 まあ本気で俺をあげつらいたかったわけじゃないかもしれないが。


 微妙な空気になりかけたところで一人の男子がやってきて、都築に話しかける。


「ごめーん! 遅れた!」


 明るく元気いっぱいで、そんな大声出さなくても聞こえてるよって抗議したくなるほどの声量だった。


「おお、水口」


 都築が彼の名前を呼ぶ。

 遅れたのも無駄にデカい声もマイナスと言いたいところだが、いいところに来てくれたって気持ちがそれに勝った。


「いやー、寝坊しちゃってさー!」


 明るく頭をかく彼に都築が言う。


「あいてる席に座ってくれ。あと今は飲みものを頼むところだよ」


「そうなんだ! じゃあ遅刻したって言ってもまだ取り返せそうだなぁ!」


 水口は勢いよく座り、そっとメニューを差し出したぼたんに礼を言った。


「ありがとう! わあ、君めっちゃ可愛いな!」


「ありがとうございます」


 ぼたんは笑顔で応対しているが営業スマイル100%モードになっている。

 この時のぼたんも相当可愛いが。


「君は何にしたの? 同じものにしようかなー?」


 さっそくコナをかけられているが、本人は完全に機械的に対処モードに入った。

 まあ正直今助けを出すのは難しい。


 この程度だっていやなら参加するなよって思われてしまう。

 どうしても目にあまるようならその時は助けようかな。


 まあぼたんのことだから隙なく切り抜けてしまうと思うが。

 

「俺もこの子と同じものね!」


 水口がそう言ったところで都築がうなずく。


「ああ。じゃあ飲みものを頼む前に簡単に自己紹介しようか」


上手いなと感心させられる。


「俺は都築啓太郎、よろしくな」


 そしてこっちをちらりと見た。


「宮益スグル」


「水口壮介!」


 そしてぼたん、みどりちゃん、あやちゃんの順番に名乗っていく。


「いやー! 今日は来てよかったなー!」


 ハイテンションになった水口が勢いよくしゃべり出す。

 その間に都築が飲みものの注文をこなしていた。


 今はタブレットで注文できる店が多いから便利だな。

 

「水口さんは何かスポーツをしてるんですか?」


 ぼたんが質問している。 

 興味がないのが丸わかり……なのは俺の感覚で、水口はうれしそうに答えた。


「わかる!? 俺、バスケをやってるんだよ! 一応レギュラーとったんだ! 今度試合あるからよかったら見に来て!」


 水口はぼたんとみどりちゃんに向けてしゃべっている。


「すごーい」


 女子たち三人はそう言っていた。

 バスケなんて人気の部活でレギュラーはすごいよなぁと感心する。


 女子たちに感心された水口は気をよくしてしゃべり続けていた。

 俺としては話を聞いているだけでよくなったから、メチャクチャありがたいな。


 正面に座っているぼたんのテンションはだんだんと下がってきてるようだが。

 興味ない相手の自分語りってぼたんがきらいなものの一つだからなー。


 それでいて対応する際は天使のスマイルなんだから大した奴だと思う。

 もっともそのせいで水口のテンションはあがってきてるのが皮肉だ。


 ぼたんくらい可愛い女の子に愛想のいい笑顔で相槌を打たれたら普通は勘違いしてしまう。


 俺だってぼたん以外の女子ならまず間違いなく勘違いしてしまう自信しかないので、水口を責める気にはなれなかった。


 ただまあもう少しボリュームを落としてくれないと、水口以外が話せないんだが。


 とりあえず知り合いっぽい都築にちらりと視線を向ける。

 助けを求めるサインに気づいたらしく、彼は苦笑しながら水口に言った。


「おーい、壮介。女子たちのことも聞きたいからそろそろ一回黙ってくれ」


 うわ、真正面から正面突破だ。

 そんな言い方でいいのかよと思ってしまう。


「あ、すまん」


 水口はハッと我に返って黙り込む。


 気心の知れた仲なんだなということと、水口はそう悪い奴でもなさそうだと思う一幕だった。


 俺なんてとてもじゃないが、ぼたん以外の相手にはそんな言い方はできないな。

 ちらりとぼたんを見ると目が合った。


「助けてくれなかったこと、ちょっと根に持ってますよ?」


 という表情を0.5秒された。

 その速さじゃ俺以外には認識できなかっただろうな。


 相変わらず器用な奴め。

 

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先に告白したら負けかなと思ってる 相野仁 @AINO-JIN

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