遊びに行く話

 土曜日、都築に指定されたJRの駅前に十分前に着くと都築とぼたんに、見知らぬ女子が二人来ていた。


「ごめん」


 十分前だったのにという言葉を飲み込んで謝る。

 早めに来るのは何もぼたんだけじゃないよなと反省しながら。


「いや、大丈夫だぞ。まだ十分ある」


 スマホで時間を確認した都築が笑う。

 彼はカタログモデルが着てそうなちょっといい格好をしている。


 さわやかなイケメンなこともあってばっちり似合っていた。


「きまってんなぁ。うらやましい」


 俺は普通に量販店で買ったやつにスニーカーである。


 ぼたん相手に今さらかっこつけても仕方ないし、他の女子には不愉快に思われなかったらいいだろってスタンスだ。


「お前はもうちょっとやる気を出せばな……」

 

 なんて都築は言うが気にしない。

 そこで他の女子と談笑していたぼたんがやってくる。


「センパイ、相変わらずテキトーですね。一緒にいる人が困らなきゃそれでいい、ギリギリを攻めた感じですか?」


 相変わらずぼたんはすぐにこっちの思考を見抜く。


 こいつ俺限定でテレパシーを使えるんじゃないだろうな? なんてあほな疑惑が浮かんでくるレベルだ。


「まあな」


 俺は仕方なく認めつつ、ぼたんの服装をさらっとチェックする。

 今日は目立たない地味な感じのブラウスとジーンズだった。


 着てるのがぼたんじゃなかったら野暮ったい印象が強くなっただろうな。


「お前だってやる気ないじゃないか」


 と小声で指摘を入れておく。

 お前がもっと可愛くておしゃれな服を持ってることを俺は知ってるんだぞ。


 本気を出せばずっと可愛いことも。


「だって数合わせですし? メインは他の二人でしょう」


 ぼたんはしれっと言う。

 引き立て役に回る気満々って感じか。


 じゃあ俺もそれを見習っておこうかな。


「俺もだからな。数合わせ頑張ろうぜ」


 と小声で返すと彼女はにっこり笑う。

 うん、励まし合う時に見せる表情なので、これは無言のエールだな。


「すまん、そろそろ紹介してもいいかな?」


 都築は実に自然なタイミングで俺たちの間に入ってくる。


「ああ。ごめん。知り合いがいて心強くてね」


 情けないことを大きめの声で言うと、女子たちは興味ありげな視線を向けてきた。


 どっちもおしゃれで華やかな感じの子たちだ。

 一人は茶髪をツインテールにしてて、もう一人はボブヘア。


 二人ともスタイルもいいし、彼氏がいないって言われてもクエスチョンを返したくなる。


 別れたばかりって可能性はあるから余計なことは言わないでおこう。

 

「こっちはみどりちゃんとゆかちゃん。こっちは宮益と道元坂さん」


 都築のあいさつが簡単すぎる。

 これじゃ何もわからないぞ。


 茶髪ツインテールがみどりちゃん、ボブヘアのほうがゆかちゃんってだけ。

 困惑が伝わったのか、都築はにやりとする。


「具体的な自己紹介はお店でな」


 なるほどね。

 とりあえず名前さえわかっていればいいってわけか。

 

 手順なんて知らないから都築に任せるのが自然だろうな。

 ところであと一人はいったい誰なんだろう?


「都築、あと一人は?」


 と聞いてみると彼は表情をくもらせる。


「あいつ、全然応答がないんだよな。まさか遅刻するとは思わないけど」


 時間までまだ余裕はあるとは言え、応答がないってのはちょっと不安だな。

 単にスマホの電源を入れてないだけってオチはありえるけど。


「俺が知ってる奴?」


「いや、初対面だと思うぞ」


 初対面の男子とかつらいなぁ。

 初対面の女子だってつらいんだが、ぼたんがいるだけマシか。


 男子は都築がいるけど主催者としての役割があるだろうから、俺とばかり話してはいられないだろう。


「二人は友達なの?」


 あやちゃんが俺たちに話しかけてくる。


「友達だよ」


 笑顔でさらっと答えたのは都築だった。


 仲良くなるために今日の集まりをセッティングしたとか言ってたくせに、さらりと言いきったなぁ。

 

 ウソだと言うのも何か違う気がして黙ってうなずいておく。


「へー、そうなんですね」


 あやちゃんは都築のほうに興味を持ったらしい。


 そんなものなんだよなーと思いつつ、話を振られて困るというホッとした気持ちもあった。


「宮益くんはこういう集まりは初めて?」


 みどりちゃんが話しかけてくる。


「え、うん」


 いきなり話しかけられて挙動不審になりかけた。

 気を遣ってもらったのに困惑してしまう自分の器の小ささが問題だ。


「君はどうなんだい?」


 さすがに初対面の女の子にお前って言うのはまずいだろうから、我ながら気取った言い方になってしまう。


「たまーに行く感じかな。彼氏がいないなら怒られる筋合いないもん」


 にこっと笑みを向けてくるが、これはぼたんが俺以外の相手、特に女子相手にやる顔だなぁ。


 端的に言うと社交用の営業スマイル。

 とりあえず気まずくなる展開を避けるために出してる感じか。


「そういや君らって彼氏いないんだね。意外だ」


「いたらさすがに来ないか、彼氏同伴になるよー。意外? ありがとね」


 うん、お互いお世辞をかわしているってのがよくわかる。

 まあ会話が成立してるだけましって感じか。

 

 ぼたんは俺がみどりちゃんと話しはじめたのを見ると、都築とあやちゃんと話している。


 あいつって俺とは違って陽キャ属性だよなあ。


「だってすごく可愛いよね。ごめん、可愛い連呼するのはどうかと思うけど、女の子褒め慣れなくてさ」


 どうしてもぎこちなってしまう。

 対人経験のなさが出てしまっているのだ。


 ここは見栄を張らず正直に全部話して詫びておこう。


「んー、大丈夫」


 みどりちゃんは優しく微笑んでくれる。


 気にしないって言うか、俺が女子と会話慣れしてないのに気づいててあきらめてるんじゃないかなぁ。


「宮益くん?」


「うん?」


 知らない女子に名前を呼ばれるって何だか新鮮でくすぐったいな。


 ぼたん以外の女子に名前を最後に呼ばれたのっていったいいつだったのか、もう思い出せない。


「道玄坂さんとはどういう関係なの?」


 彼女はぼたんに、ぼたんとの関係性に興味を持ったらしかった。


「後輩だよ。中学からのつき合いで」


 知り合って数年だが、もう長い付き合いに感じられる。

 そんな不思議な関係だと思う。


「そうなんですねー。何となく彼女との距離は近いなーって思っちゃって」


 さすがに女子はその辺の機微が鋭いな。

 それとも陽キャだからだろうか。


 俺には正直全然わからない。


「つき合いがそれなりだからさすがに人見知りも治るよ」


 そういうことにしておこう。


「ふふ。宮益くん面白ーい」


 何がウケたのかさっぱりだった。

 単に笑われただけかもしれないが、空気が凍り付くよりはマシだと思いたい。


 やばそうだったら都築かぼたんのどっちかがフォローしてくれるだろうし。

 と思っていたら都築が舌打ちしてスマホから顔をあげる。


「後一人、遅刻するらしいから先に店の中へと移動するよ」


「はーい」


 女子たち三名が元気よく返事をした。

 何と言うか予想してたのと早くも展開が違っているな。


 ぼたん以外の誰とも話せず、全員が揃ってからスタートするだろうとぼんやりと思っていたんだが。


 みんなの空気が悪くなっていないことが幸いだ。

 俺に空気を変える話術なんてないからな。


 都築かぼたんに何とかしてもらうしかないだろう。

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