俺たちのパターン
俺が入部届もらうのを忘れていたと気づいたのは放課後に入ってからだった。
どうせもう一度あそこに行くんだから別にいいか。
一度行ったので一人でも行けるが、おそらくぼたんの奴は一緒に行こうと迎えに来るだろう。
行き違いになる可能性がありそうだから大人しく教室で待つ。
「あれ、宮益、帰らないのかよ?」
都築という男子が不思議そうに話しかけてくる。
金髪でチャラそうなイケメンだが、親切で気さくで比較的話しやすい奴だ。
「まあな。これから部活行くから待ち合わせしてるんだよ」
実は何の約束もしてないんだが、学校がある日はぼたんがここまでくるのが完全に俺たちのパターンとして定着してるからな。
「あれ、お前って部活に入ってたっけ?」
クラスメートなんだから帰宅部かどうかくらいは何となくわかるんだろうな。
俺だって都築も帰宅部だっていうのは把握してるし。
「最近な」
入ったのは今日だし部活じゃなくて同好会だっていうのは言わなかった。
ここで正確を期す必要を感じない。
「そうなんだ。何かきっかけでもあったのかよ?」
ぼっちの俺にしては会話が続いてるほうだけど、これは都築が話し上手だからだろうな。
「ああ、知り合いに誘われたんだよ」
別に隠すようなことじゃないので正直に答える。
俺とぼたんのこと、同じクラスの連中ならそれなりに知ってるだろうなと思うからだ。
「知り合い? もしかしてよく教室に来てるあの後輩女子か?」
「そうだよ」
案の定一瞬で特定されてしまった。
「あの子めっちゃ可愛いよなー」
それは否定できない。
あいつより可愛い子なんてザラにはいないと確信を持っている。
「まあな」
「やっぱりつき合ってんの?」
都築は少し声を低めて踏み込んできた。
「何で男子と女子が仲良かったらすぐにそんな発想にいたるんだろうな?」
不思議で仕方ないんだよな。
男と女の間には友情云々ってやつか。
「つき合ってないのか、お前ら?」
「ないよ」
きっぱりと言うとUFOか幽霊でも見たような顔で見られる。
「ちょっと信じられないな」
「別に無理に信じてもらわなくてもいいよ」
周囲にどんな評判が広がろうと俺たちの関係は早々には変わらないだろう。
「うん」
都築はちょっと戸惑っている。
「なあ、じゃあお前って今は彼女いないのか?」
「今ってか年齢イコール彼女いない歴だぞ」
俺なんてモテるわけがないよ。
都築は気を遣ってくれたのかもしれないが、自分で言わなきゃいけないからかえって悲しい想いをしちゃってる。
「なら今度女の子たちと遊びに行かねえ?」
この誘いはいくら何でも予想外すぎた。
「何で俺? 数合わせでももっといい奴いるだろう?」
俺なんて男女の集まりに入ったら最後、何もしゃべれないだろう。
「いや、せっかく話したんだから仲よくなりたいじゃん?」
「そりゃ否定しないけど」
都築の言葉に困惑を隠せない。
自分から話しかける勇気がないだけで、クラスメートと仲良くする意思がないわけじゃない。
「仲良くなるためにみんなで遊ぶって?」
「そうだよ」
俺は疑問をぶつけたつもりだったが、あっさり肯定される。
「彼女いないなら別にいいだろ?」
「そりゃかまわないんだけど、置き物にしかなれない未来が見える」
「はは、置き物って何だよ」
都築は笑うけど、わりと笑いごとじゃないんだよなぁ。
「男三人、女三人なんだよ。よかったら来てくれよ」
「いや、日にち分からないのに行けるわけないよ」
とりあえず指摘しておこう。
危ない、とんとん拍子に参加が決まりそうだった。
「次の土曜日かな。今のところ」
と都築は教えてくれる。
予定はあいているが言わないでおこう。
「センパーイ」
そこへぼたんがやってきて入り口の外から呼んでくる。
「おっと、一応考えておいてくれ」
都築はそう言って右手をあげて、足早に教室を出ていく。
ぼたんは室内に俺しか残っていないことを確認してから入ってきた。
「何の話をしてたんですか?」
語尾を無意味に伸ばさないってことは真面目な話をしたいってサインだな。
「仲良くなるために遊びに行こうって誘われた。陽キャの考えはよくわからないな」
とぼやくとぼたんはにやりと笑う。
「センパーイ、それ完全にぼっち陰キャの発想ですよぉ」
一瞬でからかいモードに入りやがったな。
「自覚はしている」
真面目な顔で答えるとぼたんも笑顔を消す。
「まあ深い意味ないんじゃないですかね?」
「誘った俺がやらかしたらどうするんだろうな、あいつ?」
俺が気まずいのはもちろんだが、言い出した都築だって失敗したという思いに支配されるんじゃないのか。
「それが陰キャの発想なんですよ、センパイ。そういう人、やる前から失敗することなんて考えませんよ」
「え、そうなんだ?」
失敗したらどうしようって陰キャ特有の発想だったりするのか?
いや、陽キャだって慎重なタイプはいるはずだろ。
「失敗したってそんな日もあるよねで片づけてちゃいますって」
「……もしかしていい思い出だなって笑い話にしちゃうのか?」
そんな馬鹿な、メンタル強すぎだろ。
「で、さっきからどうしてそんな話ばっかりなんですか?」
ぼたんは急に不機嫌になる。
本当、女心と秋の空なんて言葉が生まれた理由がよく分かるやつだな。
何で機嫌を損ねたかって言うと、自分が誘われてないからだろうなぁ。
「女の子も呼ぼうとか言ってたし、お前も参加する?」
「えー、センパイ、私に来てほしいんですかぁ?」
ぼたんは一気に機嫌がよくなってニヤニヤ笑いだす。
「分かりやすいよな、お前って」
「なっ!?」
俺に見透かされたと悟ると真っ赤になって固まる。
もしかしてバレると思ってなかったんだろうか?
こいつ、気まぐれなようでかなり単純なのになぁ。
「ふ、不覚です。謎がチャームポイントだったのに」
がっくりとぼたんは肩を落とす。
こいつが謎なのは俺以外の奴とどの程度つるんでいるのかってことくらいなんだが。
言わないでおくのが情けってものかな。
「さあ部活に行こうぜ。部活ってか同好会だけど」
ポンと肩を叩く。
「ですね。センパイ、初めての部活ですけどどうですか?」
なんてニヤニヤしながら聞いてきた。
「特に何も感じないな。基本的に昼間の延長でいいんだろうし」
正直に答えるとぼたんはがっかりしてため息をつく。
「センパイ、ダメですねえ。情緒やロマンが何も感じられません」
やれやれと肩をすくめられたので反撃しておこう。
「それ言うなら初めて行く昼間に言うべきだったな」
「あう」
ひるんだぼたんに追撃を仕かける。
「情緒やロマンが足りないのはお互いさまだったな」
「あう、参りました」
素直に負けを認めたので俺も撤退しよう。
「図書室にはどんな本があるんだ? ラノベや漫画はあるのか?」
「手塚治虫があるのは確認済みです」
ぼたんの問いになるほどと思う。
「自分で見てみよう。ぼたんも全部は把握してないんだろ?」
把握してたら俺の好みの作品タイトルを並べてるはずだからな。
「あ、やっぱりバレちゃいました?」
てへっと舌を出すさまはとても可愛い。
計算した動作も可愛いけど、してない動作のほうが数倍可愛いんだけどな、こいつの場合。
……少し迷ったが言わないでおくことにする。
少なくとも今言ってもいきなり感が強すぎるだろう。
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