たちんぼ
本当に気まぐれだった。
「お姉さん、遊ばない? 」
隣に立ってるガイジン女がニヤニヤこっちを見てる。断られる事を想像して笑ってるんだろう。こっち見んなブースと心の中で思っておく。
「え? なんか言った? 」
お姉さんは意外にも無視して通り過ぎることなく反応した。
「私と遊ばない? 」
もう一度言ってみる。どうせ断られるとは思ってる。だからからかうみたいに。
お姉さんはパンツスーツを着こなして、バリキャリって感じ。ちょっと怖いけど鼻から顎までのラインが綺麗だと思った。
「いいよ」
「お姉さん意味分かってる? 」
イヤだな。私が嫌いな男の客みたいにニヤニヤしながら言っちゃった。
「分かってる。あなた立ちんぼでしょ?時間は? 」
呼び方古臭。うちのおばあちゃんみたい。だけど、間抜けじゃないみたい。
「六十分イチゴーホ別」
私は呪文を唱える。
「二時間でもいい? 」
「お金あるならいいよ」
今日は暇だったから、ラッキー。
「んじゃそれで」
お姉さんが頷くからいつものように腕を組んでガサ入れした警察が容疑者を誘導するみたいに連れて行く。
あ、そうそう、こっちも忘れずに。さっきニヤニヤしてたガイジン女の方を振り向いて思いっきりニヤニヤしてやった。口がへの字に曲がってる。ざまあみろ。
お姉さんは途中でコンビニに寄りたいと言い出したので行きつけのホテルから近いところへ連れていく。
私さコンビニでカゴ使った事ないんだけど、お姉さんはカゴ使う派みたい。
と思ったらお酒とかおつまみとかお菓子をどんどん入れていく。あーちょっと厄介かもな、一回戦にしときゃ良かった。
キモかったりめんどくさそうな客の時は一回戦の区切りにする。ホテル代浮いていいよ。って言葉を付けて。
「貴女も好きなもの入れて」
私は何も要らなかったけど、お姉さんは持って帰ってもいいから。といって私にお茶かジュースか選ばせた。あんまり飲む気はしてないけど適当にサイダーにした。
ホテルの部屋に着くと私は早速清算を終わらせた。他は適当でもこういうのはしっかりとね。おばあちゃんも『股は緩くても銭勘定はしっかり締めとけ!』ってよく分からないこと言ってたし。
支払いを終えるとお姉さんはベッドに座りタバコに火を着けてデカめの缶チューハイを開けてテレビを付けた。
あ、あれー?ここ自宅かな?もしかして私の存在忘れてる?
お姉さんはテレビから流れるAVをボケっと眺めながらお酒を飲んでタバコを吸ってる。
しょっぱなから心折れそうだけどしょうがない。よーし、頑張っちゃうぞ。
「ねぇ、お姉さん、しよ? 」
「あ、うん。ちょっと待って、とりあえず聞いてほしくて」
げぇー、まさかのお説教パターンか?未成年だよね?とか親御さんは知ってるの?とかそういうの一番めんどくさい。
と、思ったらお姉さんはお風呂の栓を抜いたみたいに愚痴を言い始めた。仕事とか仕事とか。それはそれは止まらない。おっさんの愚痴は結局は自慢で聞く気しないからいつも右から左で適当にチンコ握って無理矢理始めるんだけどお姉さんの愚痴は真剣に聞いてしまう。
世の中の理不尽の全てを背負ったようなお姉さんの愚痴がウソかホントかなんて私には分からないけど。
私はサイダーを飲みながら話を聞いた。なるほどこれは飲み物が必要だったね。お姉さんは時々お酒を飲みながら、感情を平たく潰してお尻に敷いてるような声で話を続けた。
お姉さんの言葉は難しかった。仕事の話をしているのかと思えば、えび天に酢をかける派のブチョ―の話とか。でも私にも分かる話もあった。職場で好きだった人が結婚したとか。その人とは普通に恋人のような事をしていたのにとか。
私はへぇーとか、ふーんとか、ヤバくね?とか、それはしんどいねとか、大変じゃんとか、そんな言葉ばっかを機械みたいに繰り返す。
途中でちょっと飽きてきたからお姉さんの言葉を遮らないようにそっとお姉さんの方を向いて膝に座ってみた。ネタバレすると結局遮っちゃったんだけど。
「あ、ごめんね、そろそろやる? 」
「別に。私の身体も時間もお姉さんが買ったんだしお姉さんの好きにしていいよ」
こんなこと男には絶対に言わない。なんだか違う意味で変な気分になっちゃってお姉さんの頭を撫でてみる。
「そっか、優しいね」
気まぐれなだけだよ。とは言わなかった。
お姉さんは小さい子みたいに私にぎゅっと抱きついて顔を埋める。あ、ちょっと待って鼻水垂らしてなかった?まぁいいか。もう今日はお姉さんで閉店ガラガラ。
「ねぇ、知ってる?ハグするとストレスめっちゃ減るんだって」
機械以外の言葉も口にしてみる。どういう反応するのかなって思って。
「知らなかった。そうなんだ」
「私もツイッターで知った」
「へぇ、他には?何か知ってる? 」
「キスはもっとストレス減るんだって! 」
ただただ目に入っただけの知識でも人に話すのは面白いって初めて知った。
「そうなんだ。ねぇ、キスしていい? 」
「いいよ」
お姉さんは顔を上げて私を見る。やっと目が合った。会った時から不透明度十五パーセントって感じで私の後ろでも見るような目をしていたから意地でも私の事を見せてやろうと思ってたんだ。
「ちゃんと見てなかった。貴女可愛いんだね。目が海みたいに綺麗」
私は私の容姿が大好き。大好きなおばあちゃんに似て美人だから。
長い手足に切れ長の目で魔女みたいなおばあちゃん。金髪が似なかったのが悔しいけど人と比べるとちょっとだけ鮮やかな髪は一度も染めた事がない。特に一番私の中で好きなのは青緑色の目。
そんな私の好きなものを褒めてくれたから私はお姉さんが気に入った。
「そうだよ。私ってば可愛いんだから」
やっとお姉さんが笑った。うん。やっぱり女の子は笑ってないと。おばあちゃんも『笑ってたらいい事も客も寄ってくる!』って言ってたしな。
「お姉さんは綺麗だけど笑ってると可愛いね」
「そうかな? ありがとう」
また笑った。嬉しい。その笑顔に敬意を持ってキスをした。敬意の使い方あってる?分かんない。
何回かキスをした後、体重をかけてベッドに押し倒してみる。お姉さんは素直に応じてキスを返してくる。うん。いいぞいいぞ。
「ねぇ、いつも女性を相手するの? 」
「ううん。お姉さんが初めて。なんか、気になったから」
「そっか。じゃあ受け身の方がいい? 」
「んーどっちがいい?お姉さんが決めて。多分だけど、気持ちよく出来ると思うよ」
「じゃあお願いしようかな」
この時点で既に一時間。いつもに比べるとなかなかのスローペースだけどお姉さんの二時間の読みは正解だったみたい。
お姉さんは大変可愛かった。抑えめな声とか、時々頭を撫でてくれる手とか。その唇も。なによりおっぱいっていいね。どのオッサンもしつこく揉んでくる理由が分かった気がする。
ひと通り終わるとお姉さんは大変よく出来ました。という感じに頭を撫でてくれて、ますます気に入った。
帰る時間になると急に別れるのが惜しくなって今日は泊まっていかない?と提案した。お金はお姉さんが払うことになっちゃうけど。という所は控えめに言った。
お姉さんは貴女がいいなら。と予想通り軽くオッケーをくれたから一緒にお風呂に入る事に。もちろんお風呂に入ったらやる事はひとつだよねって感じで二回戦突入。
今度はお姉さんが私に触ってくれたんだけど、お姉さんめちゃくちゃテクニシャン。訳を聞いたら恋人のような事をしていた人って女性だったんだって。そりゃー慣れてますよね。
そうそう、実は私今までイッた事無かったんだけど初めて天まで登る気分ってこういう事かって思い知った。
何かに目覚めちゃいそう。お金が欲しくて始めたのに。まぁいいか、お姉さんの連絡先は抜け目なくゲットしたし、パパ活ならぬ姉活が出来るといいな。もちろん報酬はお金よりも愛で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます