なぞなぞ

「開くと丸で、閉じると線。なーんだ」


今日は華の金曜日。てんてこ舞いだったプロジェクトもちょうど終わりを迎えてメンバーで打ち上げ。


オッサンのよく分からない自慢話が飛び交う退屈な打ち上げは早々に切り上げた。少量のお酒とつまらない飲み会の後は特に欲望に忠実になる。今日の欲望はお酒。


最寄駅から少し歩いた路地裏にあるバーに来た。ここはちょっとした料理も提供していてポテトサラダが絶品。やっぱりポテトサラダはゴロゴロしてないと。


「開くと丸で、閉じると線。なーんだ」


ポテトサラダと二、三杯のモヒートで胃袋と脳内が満ち始めたところに女性客が突然謎かけをしてきた。彼女も同じく一人のようで、私の二、三杯の間に五、六杯煽って一人でダーツをしていたのは知っている。なぜなら店内に客は二人しかいないので。


「うーん…女性器?」


さっきまで仕事でモザイクを入れていたからそれしか思い付かなかった。


「アッハッハ!!!お姉さん面白い!!」


ばっちりキマったスーツ姿に似合わない豪快な笑い方でひとしきり笑うとグラスをカウンターに置いて隣に座ってきた。マスターは特に気にせずごぼうを細長く切っている。明日のお通しはきんぴらごぼうかなぁ。明日も来ようかなぁ。


「ポテトサラダつまみます?食べかけですけど」


「いや、私は乾き物が好きだからいいや」


マスターに断り、カウンターの裏から皿を取るとナッツの瓶から自分で取り分ける。


「カシューナッツばっかり取らないの」


ごぼうしか見ていなかったマスターがごぼうを見たままボソリと言う。


「ありゃバレた。美味しいんだもん」


「いつもカシューナッツが少ないって言われるんだから」


「ごめんごめん。そうだ、お姉さんも食べる?」


謝りながら更にカシューナッツを盛ると間に置く。


「いえ、大丈夫。湿ったものが好きなの」


「女性も湿ってる方が好き?」


いたずらっ子のように笑うと彼女はマスターにスクリュードライバーを頼んだ。


「…まぁそうね。それでさっきの答えは?」


「んー…そうだな、この後私と一緒に来てくれたら教えてあげる」


「それってお誘い?」


「そうとも言う」


暖色のライトが遠くで動くマスターに合わせて彼女の瞳を妖しく漂う。


「知的好奇心に付け込んだお誘いははじめて」


「お姉さんやっぱり面白いよ。ねぇお酒飲むだけでもいいから」


「あらま、結構乗り気だったのに」


「なんだ!じゃあほら、行こうよ」


「ちょっと待って。マスターお会計」


「いいよいいよ私が奢るから。ねぇマスター」


「はいはい。やったね花ちゃん」


「本当に?なんか申し訳ないわ」


彼女はマスターから伝票を貰うと一万円札を渡して「おつりでカシューナッツ増やしといて」と告げてこちらに向き直る。


「いいの。楽しませてもらったから。じゃあ行こうか。またねマスター」


「またいらっしゃい。花ちゃんもおやすみ」


「おやすみなさい」


「よし、じゃあ行こうか」


階段を登って地上に出ると小雨だけど粒の大きな雨が降っていた。彼女はいつの間にか持っていたビニール傘を広げると


「これがさっきの答え」


そう言って私の頭上に掲げたものの、身長が足りず一生懸命腕を上げるものだからついつい笑ってしまった。


まだまだ少量のお酒しか飲んでいない。今日の欲望はお酒から違う欲に切り替わり、今夜はたくさん満たされそう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る